イブが林檎を齧る時 |
GWも過ぎてすぐに、夏めいてきた。 ある郊外住宅地の中のモダン住宅。 ここが今回のストーリーの舞台である相楽(さがら)家。 夫は耕(こう)、妻は菜摘(なつみ)という。 PM10:32、風呂上がりの菜摘はドライヤー中だ。今夜も量の多い髪を苦労しながら、乾かしている。 なかなか乾かないし、なかなかまとまらないしで、だいぶ閉口していた。 肩までのコワイ毛髪を持て余し、 「ああ、もォ!」 苛立ちに任せて、ドライヤーを床に投げ出したくなるが、堪えた。菜摘には癇性なところがある。それに、連日の暑さが菜摘の神経を参らせていた。菜摘は夏が大の苦手だった。 ご近所の金谷(かなや)さんの奥さん(54歳)は菜摘とまったく同じ理由で、この間、ボブだった髪を短髪に切ってしまっていた。 「奥様、お似合いだわ。随分若く見えるわぁ」 とおべんちゃらを言われていたが、ボブだった頃は割と可愛らしかったのに、すっかりオバサン化していた。「女であることを降りた」という武装解除の意が、加齢臭とともに周囲にまき散らされていた。 菜摘としては、まだその境地には達したくはない。まだアラサーだ。これからも何十年も瑞々しさは保っておきたい。そう思う。 しかし、 ――暑〜い!! 涼をとりたい。時短もしたい。 最近、菜摘は肩までの髪が疎ましい。ボブくらいに切りたく思っている。さらにツーブロックにも挑戦してみたい。 先だって、高校時代の友人と会って、イギリス料理店でティータイムのひと時を過ごした。 その友は髪をツーブロックに刈っていた。サイドの髪を持ち上げて、ジョリジョリとした剃り跡を菜摘に見せびらかし、 「色々楽しめるしオススメだよ。軽いし、涼しいし、これからの季節にピッタリよ」 と友人はしきりにツーブロックの効用を説いていた。 「そうなの?」 本場のイングリッシュティーを口に運びながら、菜摘ははじめは聞き流していたが、 「怖がることないってば。もし気に入らなかったなら、髪をおろしておけば、他の人には気づかれないしさ」 と失敗対策まで教示してもらえるに至っては、 「私もやってみようかなあ」 とその気になった。ツーブロックの自分をイメージしてみて、悪くないかも、と思ったからだ。 それで、菜摘は以後、タイミングを見計らっている。 ためらいもある。バリカンした経験が未だない。冒険するのにも及び腰だ。 夫に背中を押してもらおうかな、と考える。 夕食を終えた耕は、自分の趣味の部屋で、アメコミヒーローのフィギュアを制作中だ。 「ねえ、耕君」 結婚してまだ二年半、子供のいない二人は、恋人気分がまだまだ濃厚だ。 「どうしたの? 何かあったの?」 オタクな夫はフィギュアに没頭したまま、訊いた。 「私、ツーブロックにしようと思うんだけど」 口に出して、なんだか妙に恥ずかしい。何故かはわからないけど。 「ふーん」 と耕は生返事したけれど、心なしかフィギュアをいじる指使いが、ギコちなくなったような気がする。気のせい? 耕とは学生時代、コンビニのバイトで知り合って、それから長い交際期間を経て、ゴールインした。その間、一度も菜摘の髪や服に物言いをつけたことはない。パートナーのファッション放任派だ。 菜摘も菜摘でファッションについては、あまりバリエーションもなく、派手さを嫌い、髪もずっと黒く、化粧も控えめな保守派だ。 だから、ツーブロックにする勇気が出ないわけで。 「う〜ん」 と耕は思案して、 「菜摘ちゃんがやりたいなら反対はしないよ」 とあっさり言った。淡白なトーンだった。その淡白さに、菜摘は演技めいたものを感じた。普段一切演技をしない夫だからこそ、妻にはわかる。ただ、その演技で隠匿している本心の那辺にあるかは、よくわからない。それを探偵するのには、菜摘の性格は不向き過ぎた。 とりあえずはお墨付きを得て、菜摘の心は決まった。 「じゃあ、いっちょやってみますか、ツーブロ」 と言い残し、夫の部屋を出ていった。 残された耕は、というと ――よっしゃあああああああ! と大歓喜、大乱舞、もはやフィギュアどころではない。 耕は潜在的な坊主フェチ、バリカンフェチだった。「潜在的」というのがミソである。 耕の脳裏に子供時代のことが甦る。 図書室で借りた「スパルタのむすめ」というジュニア小説。 厳しい鍛錬で知られるギリシャの都市国家・スパルタの女性は嫁ぐ際、頭を丸める風習があったという。 小説のヒロインも幼なじみだった戦士との婚礼の前夜、母によって、美しい亜麻色の髪を剃られる。坊主頭となったヒロインは最愛の人と結ばれ、戦で夫を失いながらも、彼との間に生まれた子供を育て、乱世を生き抜くという筋立てだ。 表紙もページも黄ばんで、古本特有の匂いがしていた。だいぶ昔の本だったのだろう。 そのスパルタのヒロインに、耕は激しく心惹かれた。架空の女性に恋い焦がれた。性的な興奮をおぼえた。やがて、坊主頭の彼女の挿絵で自慰をした。 強く、美しく、逞しく、貞淑で、健気なスパルタの娘、その筋肉質の身体を抱き、髪のない頭を愛で、毛根の臭いにむせながらひたすらに情を交わす。そんな妄想に溺れた。 しかし成長するにつれ、そうしたことは忘れて、「ノーマルな大人」へとなっていった。 スパルタの娘のことは、心の奥底へと沈んでいった。 だが今宵、妻・菜摘のツーブロック発言は、彼の無意識下にあったそのアブノーマルな「初恋」を刺激した。 妻の髪にバリカンが入るさまを思い浮かべ、たまらなく興奮した。 耕は初めて、自己の女坊主フェチであることを自覚した。 坊主頭でなくとも、愛妻が坊主姿を推し量れるような髪型にすると思えば、冷静さを失くす。 居ても立っても居られなくなる。 が、いくらソワソワしてみたところで、少なくともこの辺り一帯の美容院は24時間営業ではない。夜はまだ続いている。 その夜以降、耕は毎晩期待に胸を弾ませ帰宅したが、そのたび菜摘がまだ髪を刈っていないのを見て失望していた。 「ただいま」 「あれ、耕君、ご機嫌斜めだね。仕事で何かあったの?」 「別に」 「何それ、沢尻エリカの真似? 古い〜」 「違うよ」 「なにをカリカリしてんだか」 妻には夫の気持ちは全然わからない。 菜摘はついに心を決め、美容院に行った。 不安を隠せないでいるお得意様に、青年美容師は、 「ガッツリ刈り上げるんじゃなくて、ソフトな感じにしたらどうですか?」 とアドバイスしてくれたけれど、どうせやるなら、と勇を鼓し、 「いや、ガッツリで」 と頼んだ。具体的なミリ数は本職に任せた。 ――多少短くされても髪で隠せば大丈夫っしょ。 と自分に言い聞かせた。 肩までの髪が慣れた手つきでブロッキングされた。刈るべき内側の髪は、ダラリと収穫の瞬間を待っている。 美容師はバリカンを執った。充電式で黒いボディの軽そうなバリカンだった。 「じゃあ、剃りますよ?」 と、いちいち確認されると、かえって緊張するからやめて欲しい。 ウィーン モーター音が軽やかに鳴る。 バリカンはやおら右の内側の髪に入れられる。 スーッ、 と、まるでシールでも剥すように、滑らかに髪が削げる。その容易さに菜摘は驚く。 また、 スーッ、 とバリカンがまた髪を持っていった。 心はざわつくが、鏡には大真面目な顔が。うわ〜!とかリアクションするには、菜摘は社会的に大人過ぎた。 ただ、目をパチパチ、まばたきで内心の動揺を示す。 頭の白い地肌が剥き出る。毛根を胡麻みたいに残して。後で訊いたら、2mmだという。 美容師は丁寧にバリカンを動かした。刈り上げの部分を整え整え、ひろげていく。 ウィーン、ウィーン―― 左も同様に。 まばたきがもっと多くなる。 美容師が何か冗談を言った。聞き逃してしまったが、あははは、と愛想笑いでごまかした。 襟足もサイトに合わせ、2mmに刈り込まれた。 刈りごたえのある分厚い襟足に、バリカンは嬉々として刃を這わせた。剥ぎ取られた髪がズルズルと黒い川となって、ケープを流れ落ちていった。 熱い金属のうねりをウナジに感じる。 最初はぞっとしなかった感触だが、ねちっこく刈られているうちに、それにも慣れ、どころか段々と気持ち良さをおぼえている。 バリカンの音が鳴り止んだ。 ――え、もう終わり? と残念に思う自分に戸惑う。 ブロッキングされていた髪が解かれ、刈り上げた部分を覆い隠す。そして、アゴのラインでスッパリと切り揃えられる。 ジャッジャッジャ、ジャッジャッジャ―― レザーで削がれ、ハサミで整えられた。 今風のフェミニンなナチュラルボブではなく、和風のクラシックボブにしてもらった。黒髪には後者の方がしっくりくる。菜摘は黒髪にこだわりがあった。 全部切ってもらうと、店を後にした。 車を走らせながら、つい今しがたのバリカンの感触を反芻した。刈り上げたところを何度もさすった。えも言われぬ触り心地に、笑顔がもれる。 帰宅した耕はボブヘアー(ツーブロック)になった妻に、興奮の余り鼻血を出した。 「耕君、大丈夫?!」 「ああ、昼間ホットチョコレートを飲み過ぎちゃったかな?」 とごまかす。 「菜摘ちゃん、ついにツーブロにしたんだね!」 「ああ、うん、ちょっと恥ずかしいんだけどね」 「どんなふうなのか見せてよ」 「見たい?」 「ジラすなよ」 「ご飯食べてからね」 「じゃあ、急いで食べるから」 「何それ、ヒトが一生懸命作ったご飯なのに、なんかムカつく」 「ごめんなさい」 「わかればよし」 「いただきまーす」 「そんなガツガツ食べないの。全然わかってないじゃない。もっとゆっくり味わって」 「はーい」 まるで母親と子供だ。 就寝前にようやくツーブロックの内側を見せてもらった。 かぶりつくように、耕はそれを見た。鼻息を荒げた。妻の刈り上げに艶めかしさを感じ、一物を隆起させた。 「菜摘ちゃあああん!」 と狼モードになる耕。 「キャッ! ちょ、ちょい待って! どうしちゃったの、耕君?!」 どちらかと言えば草食系な夫の豹変に、菜摘はあわてるが、その昂ぶりの理由もよくわからないままに、流れに身を任せた。 さて、勇気を出してツーブロックにして、本人も気に入っているものの、髪の伸びは早い。数日放置していただけで見苦しくなる。 癇性な菜摘はそれがどうにも我慢できない。伸びてきた短い毛をザリザリ撫でまわし、落ち着かない。 なので、こまめに美容院に行き、バリカンをあててもらう。 すでに、 「今日は1mmにしてもらおっかなあ」 とオーダーできるくらいにまで「成長」していた。バリカンによる調髪を楽しめるようになっていく。 が、さすがに頻繁な美容院通いは面倒だし、不経済だ(いくら耕が同年代の中では平均以上の高給取りにしてもだ)。 「ツーブロやめようかな」 とある日もらしたら、 「えっ?!」 と耕は顔色を変えた。 「なんで世界の終わりみたいな表情(かお)してんのよ?」 「べ、別に」 「また沢尻エリカの真似?」 「だから違うって!」 と他人の心に鈍感過ぎる妻に突っ込みながら、耕は頭の中、閃くものがあった。 「だったらさ――」 とにじり寄る。 「耕君、目つきがヤバいよ?」 「バリカンを買えばいい。オレがメンテナンスしてあげるからさ」 と、そう申し出られたら、 「それもそうだね」 菜摘はその気になる。バリカンのあの感触は捨てがたい。耕の手先の器用さは、結婚前から随分重宝させてもらったものだ。 二人は相談しつつ、尼損でバリカンを購入した。「相談」と言っても、ほとんど耕が主導して決めた。 最近の洒落た製品ではなく、武骨でメタリックなメンズ用のものを、耕の強硬な主張により買うことに。恋人時代から現在まで、こんな亭主関白な耕は初めてで、菜摘は意外だった。初めてすぎて、逆に新鮮で惚れ直しかけたほどだ。 夫の情熱の出処は知らないが、注文したものはすぐに相楽家に届いた。 早速使ってみた。 セットで付いていたケープを首に巻き、お隣のBさんから分けてもらった新聞紙を床に敷く。 「うわ〜、Bさん家、〇〇新聞なんてとってるんだ。引くわ〜」 「いいから、じっとしててくれよ」 耕に髪を切ってもらう日がくるなんて、考えもしなかった。なんだか禁断のプレイみたいだ。 耕は菜摘の期待に応えた。 巧みにバリカンを繰った。 「耕君、うまいねえ」 「だろう?」 シャー、シャー、と新しいバリカンは、耕の欲望を代弁するかの如く、菜摘の側頭部、後頭部を実にねっとりと、舐めるように、しゃぶるように、這いずり回った。 シャー、シャー、 黒ずんでいた部分がまた鮮やかに白光りしていった。 夫の邪心など知らない菜摘は、耕に大黒柱としての頼もしさを感じ、夢見心地で頭を預けていた。 いつもの若くてイケメンの美容師のカットも良かったが、夫の耕のカットもドキドキ感もあり、同時に落ち着くものがあって、菜摘の独断と偏見で、軍配は夫にあげたくなる。この夏は本当に耕とは甘い生活を満喫できている。 後頭部を剃り上げたとき、耕は不覚にも精を漏らしかけた。クレバーな態度を保ち切れなくなる。が、堪えた。 「耕君、首筋に鼻息がめっちゃかかってるんだけど」 「大丈夫、大丈夫」 何が大丈夫なのかさっぱりだ。 「耕君、最近ヘン」 「そうかなあ。気のせいだよ。いつも通りだよ、オレは」 トボけられて、菜摘もそれ以上は追求せず、調髪を楽しむ。 菜摘が政治家だったら、与党の失策を見逃しまくって、その弁明を首を傾げながらも受け容れて、有権者から散々にこき下ろされる野党議員になるに違いない。 まあ、それはいい。 シャー、シャー、シャー、 シャープに、軽やかに、うなじからボンノクボまでの領域がクッキリと清らに刈られた。 伸びた毛を悉く刈り尽くすと、 「なあ、アジールに行かない?」 と耕は提案した。 「はあ? すごく懐かしい名前だけど、なんでいきなり?」 目をパチクリさせる菜摘だが、いいじゃん、行こう行こう、と急かす耕の車で遠出して、目的地へ。 学生時代の二人がよくチェックインしていたラブホテルだった。今の経済力ならば、こんなリーズナブルなところではなく、もっとましなホテルをチョイスできるのだけれど、思い出とムードに重きを置く。 二十歳頃に戻ったような気持ちで、あの当時よりは巧くなった性技で、思うさま痴夢に耽った。 菜摘も耕も出会った頃に返って、身も心も快楽の極に達した。 耕は菜摘の白い刈り上げを執拗に愛撫した。 以後、菜摘の散髪は耕が行うことになった。 夫は三日に一度、妻の髪をバリカンで整えた。 耕は、 「ここまで刈った方がスタイリッシュだよ 「それに、もっと涼しくなるよ 「この猛暑だしさ 「伸びるのが早いから、短めにしておこうよ 「多少刈りすぎてもバレないのが、ツーブロの利点だよ」 と盛んに妻をそそのかし、刈り上げの部分を拡げていった。刈り高さも徐々に短く調節していった。 菜摘は耕の口車に乗せられ、冒険心を逞しくさせていった。バリカンでのヘアカットもクセになっていきそうだ。 刈り上げ部分は耕の欲望のままに、後頭部は頭頂近くまで、横は耳のずっと上へ、と格好よく言えばアレクサンダー大王やチンギス・ハーンの如く、悪く言えばシロアリの如く、ジワジワと有髪部分を侵食し、その領域は拡大の一途をたどった。 持ち主である菜摘はその危機に気づかない。 「菜摘ちゃん、いいじゃん、いいじゃん! 最高だよ!」 という夫の甘い誘導に気をよくして、自らの頭髪への侵犯を許し続けた。トップセールスマンである耕の職業スキルの成果だ。同時に、彼女の愛情ボケのせいでもあるだろう。夫にバリカンしてもらうのが愉しい。愉しくて仕方ない! さらに、夫をノーマルだと思いたがるバイアスが、菜摘の認知を歪ませていたともいえる。 無論、いつまでも事実から目を背けてはいられないわけで。 まして、自分の身体の一部となれば猶更だ。 秋風が吹きはじめ、 ――もう、そろそろツーブロも大人しめにしとこっかなあ。 と考えるようになった、ある日、義父母のことで珍しく耕と揉めて、菜摘は自分の部屋に閉じこもった。 カーペットの上、輾転として、刈り上げたところを乱暴にひっかいて、 ――あれ? ようやく洗脳(?)が解け、「正気」に戻った。掌で、指で、髪をさぐってみる。 ――もしかして、とんでもないことになってる? ハンドミラーをつかみ、おそるおそる確認してみる。 あきらかにスカスカのボブヘアー。 右、左、後ろ、と酷すぎる現実をはじめて直視した。髪の量は、ハードモヒカン並みにまで激減していた。 ――やられたっ! 夫の悪だくみはついに露見した。 ショックで言葉も出ない。 菜摘はカーペットにうつ伏せになり、残った全毛髪を逆立てて、 「モヒカ〜ン」 とやけっぱちに遊んでみたが、そんなことをしている場合ではない。 般若の形相の菜摘に問い詰められて、耕は照れくさそうに笑い、 「ごめん」 と謝りつつも、 「オレは菜摘ちゃんにバリカンするのが楽しいし、ジョリジョリの菜摘ちゃんが好きなんだよ。誰よりも可愛いと思う」 と言った。 「……」 こんなふうにストレートに気持ちを差し出されるとダメだ。そう、昔から。 ――絶対許せないのに…… つい許してしまう。そう、いつものように。 菜摘だって耕のことが誰よりも好きだ。 そして、気づく。 夫がノーマルだと思い込みたがっていたのは、夫のアブノーマルな趣味に馴致されていく自分を認めるのが、怖かったから。 自分が変化していくのが、目覚めていくのが、恐ろしかったから。 ――いや、少し違うかな。 「目覚めていく」のではなく、もうすでに目覚めているのだ。新しい世界に。夫と同じ世界に。 耕が耳元で囁く。 「もう、ボウズにしちゃえば?」 「……うん」 と答えているのは自分の声だ。 一諾で新世界のイブになることを受け容れる。 さあ、「林檎」を齧ろう。 耕は菜摘の髪を全て刈った。 アタッチメント無しで、と妻はせがんだが、夫は、ジョリジョリ感を楽しみたいから、と妻の同意を得て、バリカンを0・5mmの刈り高さに調整した。 バリカンをツムジに突き立てるように入れ、ザーッと前に押した。 たちまち前髪が流れ去った。 その隣の髪も、ザーッ! バサリ、バサリ―― きらめく地肌が顕れた。 髪は抜け殻みたく、床に敷いたシートに散り落ちていった。 あれほどこだわっていた黒髪が夏の陽に灼けて、先の方がやや赤茶けていた。 それを見て、菜摘は無心に頬を染めた。 菜摘はアダムの手を頭皮に感じる。二人だけの新世界に在ることを、改めて実感する。 バリカンはゆっくりと、愉しむように、味わうように、張子の虎でしかないボブヘアーを剥していく。形の良い頭の上を滑らかに駆ける。 前頭部の刈りと後頭部の刈りが開通・結合する。 ――きっとナミヘイさんみたいになってるんだろうな。 と甚だロマンティックではない想像が働いてしまう。 バリカンは蝉たちからタスキを渡されたかのように、ジー、ジー、と鳴き続ける。 一切の飾りを落としたとき、菜摘と耕は互いに、単なる妻や夫以上の存在になることは間違いない。 さあ、いざ新世界へ―― (了) あとがき 迫水でごわす! 薩摩隼人でごわんど。チェストーー!! すみません、ウソです! でも鹿児島って一度も行ったことがないので、行ってみたいです。 ……とめっちゃとりとめないことを書き散らしていますが。。 リクエスト小説第8弾は、いつも現れては妄想をサクレツさせて下さるあの御方からでございます。妄想、いやいや、リクエスト、ありがとうございます!! 思えばリクエスト企画をスタートさせて一番最初にとりあげさせてもらったリクエストもこの御方でしたね。以下、リクエストメッセから引用させて頂きますね。 『また現れました。 なかなか、サイトをチェックできずにいる私ですが、不思議とリクエスト企画の際は募集期間中にサイトをチェックしているのです。。笑これは、導きと捉えていいのでしょうか?』 って、自分から、たまにしか来てないってバラさなくていいですから(^^;) どうせ選んでくれるんでしょう?という自信が垣間見れるような気がするのは迫水だけでしょうか? 見抜かれてるし(^^;) 昔から自信に満ち満ちた友達になんとなくくっついていっちゃう子供だったんだよな〜。三つ子の魂ってやつですね。。 今回はめちゃめちゃ息切れしてる状態で、だったら細かいストーリーまで書いて下さっているので、書きやすそうだな、とチョイスさせて頂いたんですが、姑息でした(― ―; やっぱりダメなときは何をやってもダメで、ものすっごく難航しました(汗) ネタは面白いんですよ。作者のコンディションです。。ただ、「個性派」同様、ワープロうちの段階になったら、シャッキリしてきてホッといたしました。 今回、初のツーブロック物です(たぶん)。ラブラブ夫婦モノでもあります。夫婦モノって結構人気のあるジャンルなんですよね。愛読している層が、結婚に憧れる独身の方なのか刺激を求める既婚の方なのか、男性と女性どちらが多いのか、ちょっと興味があります。そういうマーケティング的(?)な調査をなさっている方、もしもいらっしゃったらご一報ください。 と、また話がズレてますね(^^;) ここんとこダラダラ長いあとがきばっかりですが、整理体操みたいなものなんで、お気楽にお読み飛ばし下さいね。 今回もデモテープから編曲&オーバーダブする感覚で、整理して小説にしましたが、この御方の場合だと未整理な感じが良さなのかも、とか、変に整理しちゃうとこの方の良さを殺してしまうんじゃないか、とか今考えています。 って、でも毎回思うんですけど、この妄想様の産み出すヒロイン、絶対アホでしょ!(笑) なんで夫の企みにずっと気づかないの?!Σ(゚Д゚) 普通気づくでしょ(^^;) まあ、前回のヒロイン(石原出雲さん)よりはましですけど。。なので、今回ヒロインの鈍感さに説得力をもたすため、いろいろ無い知恵絞りました。でも、むしろカオスな妄想様ワールドで突っ切った方がシンプルで潔かったかも知れません。これは今後の良い課題だと思ってます(^^) 嗚呼とうとう二月に入ってしまった(汗) これから原稿チェックしよっと。 ほんと、長々とすみません(><) 面倒な書き手ですが、どうか、これからも懲役七○○年をよろしくお願いいたしますm(_ _)m お付き合い、心から感謝です(*^^*) |