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黒歴史


 JORIJORI

と襟足を指で擦りあげる。強(こわ)い毛先が指の腹を刺し、その刺激が気持ち良い。

 思わずニンマリ。

 ――やっぱり髪を切るとテンション上がるわ。

 ちょっと髪がうるさくなってきたので、息子を保育園に送っていった帰りしな、カットハウスに寄った。

 今日は襟足をいつもより短く詰めてもらった。

 そして、この間見つけたばかりの飲食店にぶらりと入った。レストランではなく「洋食屋」といった佇まいだ。少し早めの昼食。

 トンカツを注文する。ついでにビール。「ついでに」というか、カツを肴にビールを飲む。昼酒以上の楽しみはなかなか思い浮かばない。

 この店のトンカツは脂身が多くて嬉しい。今主流の肉厚なのではなく、戦前の東京っ子が親しんだ味。

 これも東京っ子の流儀で、ガツガツと食べる。そして、ビールをグイッ、口中の肉の脂をアルコールが洗い流す。この至福や如何に。

 「東京っ子」とか言ってはいるけど、若林英子(わかばやし・えいこ)は北関東の寒村出身だ。えらそうに東京の食を語るにはまだまだ早いかも知れぬ。

 英子はエッセイストだ。あちこちの媒体に連載を抱えている。シングルマザーで、愛息と二人で平和に暮らしている。

 実は某誌の今回の原稿はまだ一行も書けていない。久々のスランプか〜、と焦っている。苦吟を重ねている。

 政治や社会問題については書かない。自分には向いてないと思うから。芸能ネタもなるべく避けている。内容のほとんどは英子自身の過去話だ。昔の経験談を面白おかしく800字の文章にまとめる。これがすこぶる評判がいい。だから、もう何年も連載を続けられている。

 しかし、そろそろネタもなくなってきている。

 ――どうしよっかなあ。

 ビルを舐め舐め考える。

 頭の片隅に、酒倉の奥のビンテージワインのように貯蔵している、或る「禁断の大ネタ」の存在が彼女に執筆を促すけれど――

 ――「アレ」使おうかな。使っちゃおうかな……。

 短い髪に手をやる。

 二十年近くも前の出来事なのに、未だに胸が痛む。

 小学校の3年生だった、あの秋の日に起きた事件を回想する。

 ※ ※ ※ ※ ※

 あの頃の英子はお転婆な田舎娘だった。

 髪を肩甲骨の下まで伸ばしていた。幼いながらも、英子なりにコダワリがある。ポイントは前髪で右目を隠しているところ。けして結んだりまとめたりしない。スカジャンを着て、とんがったふうにセルフプロデュースしている。性格もとんがっていて、校内外を肩で風切って闊歩していた。

 同級生の女子をニ三人、子分のように常に従えていた。その集団を率いて、「男子狩り」と称し、クラスの男子どもを追いかけまわしていた。たまに家から竹刀を持ってきて、それでシバきまわすこともあった。

 その暴れ振りたるや、先生や両親も手を焼くほど。

 もはや英子を止める者は一人もいない。

 そんな無双状態を謳歌していた少女が、いかにして「没落」したかが、この話の眼目である。



 3年生も二学期になり、勉強も家の手伝いもろくにせず、暇を持て余した英子たちは、スリルを求めて、小さな悪事に手を染めるようになった。

 まずはピンポンダッシュから始まって、自転車のタイヤの空気を抜いたり、モテない男子に偽のラブレターを送ってその反応を楽しんだり、よその家の表札を入れ替えたり。

 最初の頃はこういったしょうもないものだったのが、どんどんエスカレードしていき、ついにラインを越えてしまった。

 万引き。

 近所に小さな駄菓子屋がある。セピア色の写真に収まっていそうな、昔ながらの古ぼけたお店。80代ほどの老婆が店番をしている。絵に描いたようなレトロさだ。

 実際大昔から営業しているらしい。だけど、時代の波には逆らえず、大した収益にもならない。老婆の息子たちは、立派に成長して、大きな企業に勤め、かなりの収入を得ているので、店を閉めて楽隠居するように老婆にすすめているのだが、老婆は首を横に振って、頑なに商売を続けている。家族も、

「あれはおばあちゃんの道楽だから」

と諦めて、好きなようにさせているという。

 老婆は耳が遠く、一応家族たちが補聴器をつけさせているみたいなのだが、ほとんど付け忘れている。だいぶボケが進行しているようだった。それにつけ込んで、お釣りをごまかそうとする子供もいた。客が来ても、居眠りしていることも、しょっちゅうだった。

 英子らはこのお店をターゲットにした。

 「度胸試し」と称して、店のお菓子をくすね、その金額――といっても、十円二十円のレベルだ――を競い合った。

 英子が一番盗んだ。リーダーとしての面子がある。

 薄暗いお店の中で、お菓子を選ぶフリをする。

 老婆はボンヤリしている。時々ゴニョゴニョと何やら呟いている。何を言っているのだろう、と耳をすませてみたが、ススメイチオクヒノタマダ、とか、キチクベイエイ、とか、ウチテシヤマン、とか、コクボウハダイドコロカラ、とか訳が分からない呪文じみた言葉で、英子にはチンプンカンプンだ。

 ――まあいいや。

 手前にあった10円のガムを、素早くスカジャンのポケットに入れた。老婆はいつの間にか舟をこいでいる。

 ――イエーイ!

 まるで怪盗にでもなったような気分だ。そして、

「ほら、見てみ」

と戦利品を子分たちに見せびらかす。

「すげー!」

「やるじゃん、英子」

と娘たちは口々に褒めそやす。ますます得意になる英子だ。

 最近では、

 ――あの婆さんのお店じゃ、張り合いがないなぁ。ちっともドキドキしないや。

 そろそろ河岸を変えようか、と考え始める。倫理観がすっかり麻痺していた。

 しかし、とうとう「没落」の時はきた。

 その日、

 ――ここでの「度胸試し」は今日で止めとこ。全然「度胸試し」にならないや。

 英子は「仕事納め」とばかりに、大胆にも幾つものキャンディーをポケットに押し込んだ。

 そして、足早にお店を出ようとした刹那――

 むんず!

と何者かに腕を掴まれた。

「え?!」

と動揺すると同時に、足を払われ、英子はどっと三和土に尻餅をついた。

「あれ……」

 全ては一瞬の出来事で、英子は三和土にへたり込んだまま、呆然自失、何が起こったのか分からない。

「コラア!」

 でっかい怒声を浴びせられた。

「この盗人め!」

 なんと老婆だった。ものすごく剣幕で、目をギラつかせ、鼻息荒く、英子の襟首を締め上げる。老人とは思えないパワーだ。と言うか、もはや別人だ。

「女だてらに関原流柔術師範のこのイセさんを見くびるんじゃないよッ!」

 老婆――イセさんは咆哮する。

「盗んだものを返しな!」

「な、何のことだよっ! は、放せよっ」

と抗う英子だが、苦しくて窒息しそう。

「この非国民がッ!」

 イセさん、ブチ切れ。

「この非常時にこんな悪さをしおって! 戦地で戦っている兵隊さんの苦労を何とも思わないのかい!」

「な、何わけわかんないこと言ってんだよっ! く、苦しい……放して、放してよっ!」

 ジタバタもがく小娘にイセさんは、

「銃後のご奉公を何と心得てるの!」

と一喝する。

「だから、意味わかんないんだってば!」

「このだらしがない髪は何! 日本の少国民としての自覚はないのかい! こっちにおいでッ!」

と有無も言わせず、店の奥へと引きずっていった。

 木製の椅子に無理やり座らされた。  

 そして、刈布と散髪鋏をレジの下から引っ張り出す。

「なんでそんなものを身近に置いてあるの?!」

とツッコむ余裕は、今の英子にはなかった。イセさん会心の締め技で、意識が朦朧としている。

 イセさんは手早く英子の首に薄汚れた刈布を巻きつけるや、まずは隗より始めよ、とばかりに長すぎる前髪に散髪鋏を入れた。

 ジャキ! ジャキッ!

 前髪を横断していく散髪鋏。粋がっていて片目を隠すため、伸ばしていた長く分厚い前髪が、散髪鋏の餌食になる。前髪は雨どいを伝う雨垂れのように、ボタボタと滴り落ちていく。

 英子の顔面が露わになる。細目と童顔のせいで、お地蔵様を連想させる。

 英子は我に返って、泣き叫ぼうとしたが、声すら出せなかった。あまりにもショックが大きかったからだ。逃げようにも腰が抜けてしまって、立ち上がることもできない。

「”オバチャン”がアンタの性根を叩き直してやるからねッ!」

 イセさんの散髪鋏は、前髪をさらに――眉のずっと上まで食んで、咀嚼し終えると、白いオデコを残し、ゆうゆうと、今度は英子の頬に触れた。

 そうして、その高さから一気に、横髪を切り込んだ。ひと口、またひと口、と散髪鋏は長い処女髪を咥え込み、切り裂いていく。

 金属の冷たさを肌に感じる。その感触より下の髪は、たちまち無くなる。オトガイが、ウナジが、首筋が、寒々と出る。

 英子の目が潤む。涙があふれる。鏡で確認しなくたって、自分が短い髪にされているのがはっきりとわかる。

 ――なんでぇ〜?! どういうこと〜?!

「うっ……うぅ……」

 嗚咽を搾り出す英子だが、イセさんは、

「日本中の皆さんが聖戦完遂のために必死で頑張ってるんだよ! 子供だからってワガママや悪さは許されないんだよ! ”欲しがりません、勝つまでは”って学校で教わったろ!」

 どうやら、イセさんはこの人だけ別の時間軸にいるらしい。非情にも、散髪鋏を動かす手を止めない。一秒たりとも!

 ついに立ち退きを拒んでいた左サイドの処女髪も、英子の頭から放逐されてしまった。

 ジャキジャキッ、ジャキ、

 ジャキ、ジャキジャキッ――

 イセさんは、英子をねじ伏せ、力ずくで少女を「聖戦」下の少国民――オカッパ髪に刈ってしまった。

「うぅ……」

 英子は言葉もなく、うなだれるばかり。

 しかし、イセさんは、自らの散髪に納得いかない様子で、

「なんか違うんだよねえ。切り直しましょう」

とふたたび、散髪鋏を入れた。

 右を詰め、左を詰め、いささかせっかちに刈り整えようとする。髪はみるみる刈り落とされ、耳も露出し、襟足は執拗に刈り上げられた。

 それでも、なかなかイセさんの思い通りにはいかず、老婆はまたレジの下に手を伸ばし、手動式のバリカンを取り出した。

「アンタのレジの下は四次元ポケットかっ!」

とツッコむパワーは英子には残っていない。ただただ息をのむ。卒倒しそうだ。

 ここに至っては、もう抵抗する意味もなく、黙って刈りたいように刈らせるのみだった。

 英子が無抵抗なのをいいことに、イセさんは手動式バリカンを思うさま操った。

 カチャカチャ、

 カチャカチャ、

と不揃いの襟足を削りまくった。カチャカチャ、カチャカチャ――

 黒髪は無惨に剥かれ、青白い刈り上げ部分が痛々しく外界に覗く。

 もう風になびく髪はない。かきあげる髪もない。目にかぶさる髪もない。

 例えようもない喪失感に、英子はとうとう肩を震わせ、号泣した。

「泣くんじゃないよッ!」

 そう叱りつけ、またまたレジの下に手を伸ばし、かび臭い衣類を引っ張り出した。

「ちょっと、レジの下、どういう構造になってるの?!」

とツッコむ冷静さは英子にはとうにない。

「これを着な」

とイセさんは泣きじゃくる英子に、スカジャンを脱がせ、シャツを脱がせ、ジーンズを脱がせ、ボロボロのモンペを着せた。

 短髪にモンペという軍国少女スタイルにされた英子、25分前までの勝ち気さや不良っぽさは雲散霧消していた。

「これでアンタも形だけは立派な帝国臣民だよ! これからは、しっかり御国のために御奉公するんだよ。いいねッ!」

「くくぅ……」

 唇を噛みしめる英子。

 そこへ、間の悪すぎることに、英子の母が現れた。英子の手下たちが、英子が大変なことになっていると、彼女の家にご注進に及んだのだ。

 手下に案内され駄菓子屋に駆けつけた母は、「火垂るの墓」の世界に引きずり込まれた娘の有様に口をあんぐり、絶句していた。

 イセさんは英子の母親の登場に、怒りが再燃したようで、

「どうしてくれるんだいッ!」

と喚いた。

「それはこっちの台詞ですよッ!」

と逆ねじを食わせる気力は、母にはない。ただ老婆の剣幕に、

「申し訳ありません!」

とペコペコ頭を下げるばかり。

 母の弱腰外交も当然かも知れない。こんなド田舎で、盗みを働いたことが広まれば、未来永劫、それこそ死ぬまで、あの人、昔「コレ」やってたんだって、と万引きを意味する形に指を曲げ、陰口をささやかれ続ける。お先真っ暗だ。

 確かに英子が悪いが、小学生の身空で一生消えぬ窃盗犯の烙印を押されては、娘があまりにも不憫だ。

 娘の将来のため、ここは平謝りに謝るより他にない。

「盗んだものの代金はお支払いいたしますので、どうか表沙汰にはしないでください」

と米つきバッタ状態で懇願する。

 しかし、イセさんは、警察に通報するとまで息巻いている。

 母はいよいよ青ざめ、

「何でもしますので、どうか警察だけは勘弁してください!」

「何でもするんだね?」

と言質をとられ、母は一瞬怯んだが、

「はい!」

 親心を奮い立たせ、キッパリ応えた。

「じゃあ、ここに座りな」

 イセさんはさっきまで英子を座らせていた椅子に母を招いた。母が言いなりに椅子に腰をおろすと、イセさんは、

「アンタ、華美な服装をしてるね。”贅沢は敵だ”って言葉を知ってるだろ?」

 母の秋のコーディネートにケチをつけ、さらに、

「それにこの髪! パーマネントは禁止されてるはずだよ!」

と母の髪型を詰った。

 そうして、英子の時同様、問答無用で母のセミロングのパーマヘアーを、ザクザク切り始めた。

 母は懸命に動揺を抑えている。

「この非常時にパーマネントなんて、娘も娘なら親も親だね!」

 そうまくしたて、

 ジャキ!

 ジャキ!

 ジャキ!

 イセさんは、英子の母の髪を、勢いよく刈った。

 母は口元を歪め、うつむいていた。教師に叱られている子供みたいだった。

 ラフなカットによって、アゴのラインで髪が切られた。

 サイドの髪が無くなり、紅潮した頬が外に出た。母も憤怒なのか羞恥なのかわからないけれど、理不尽な仕打ちに、心中昂っているのだろう。当然だ。

 イセさんは手を緩めず、長い髪を掠奪していく。

 ジャッ、ジャッ!

 ジャキッ! ジャキッ!

と厚い髪の層を、刈って、刈って、刈り込んで――

 英子は知っている。

 最近母が、

「もうそろそろ四十代だし、髪、ショートにしようと思ってるんだけど、ショートにすると余計にオバサンぽく見えないかって心配だわ。どうしようかしら」

と友人に相談したり、女性誌のショートヘア記事とにらめっこしているのを。

 ためらっている間にこの災厄。優柔不断が招いた悲劇と言えなくもない。

「二人とも散髪が終わったら竹槍訓練だよッ! 銃後を守る女のイロハを叩き込んであげるからね!」

と「軍国の母」は咆える。

「だから、戦争はもうとっくに終わってるのよ!」

とキレ返す根性は、母にはない。その横暴になすすべもなく、髪を切られている。

 パーマヘアーは残らず除去された。散切りのベリーショートに母は化(な)った。

 まるで仔牛に焼き印を入れるが如く、母もバリカンされた。娘以上に刈り上げられていた。後頭部の半分近くまでバリカンは上昇し、青白い刈り跡が刻み込まれた。

 すっかり短髪にされる母娘。

 イセさんは、とりあえずは満足したようで、

「これからはみっちり帝国民としての臣道を仕込んでやるからね!」

 そろってモンペ姿になった英子と母は、イセさんに叱咤されながら、店の前で竹槍をふるわされた。二人ともショッキングな体験を経て、一種の洗脳状態になっていた。

「エイッ! エイッ!」

と掛け声をかけつつ、竹槍を突き、引いた。

「もっと腰を入れてッ! そんなザマじゃアメ公は追い払えないよッ!」

と怒鳴られ、

「は、はいっ! エイッ! エイッ!」

 汗を流し、必死で竹槍を繰り出す、そんな親子を、英子の子分たちは遠巻きに眺め、

「ダッサ」

「バカじゃないの」

と呆れ顔で見物していたが、やがて、あまりの滑稽さにクスクス嗤っていた。



 その翌日、学校の帰り道、英子はそっと駄菓子屋を覗いてみた。

 イセさんはいた。

 通常通り、店の奥で干物みたく萎んで、コックリコックリ舟をこいでいた。昨日の暴走ぶりが悪夢であったかのように。

 ――でも……

 英子はうなじを撫でた。ジョリ。この未だ慣れぬ感触!

 ――夢じゃないんだよなあ。

 ため息が出る。

 悪事千里を走る、ってやつで、駄菓子屋での一件はすごい速度で、皆に知れ渡ってしまった。断髪やモンペ姿や竹槍訓練のことも込みで。母の捨て身の献身も無駄だった。

 クラスの男子どもは、ここぞとばかりに英子の名前をもじって、「少女A子」との二つ名を進呈して、からかってくるし、子分だった女子たちも英子から離反して、冷笑まじりに噂に尾ひれをつけまくっている。

 ――もう人様に迷惑をかける真似はやめよう。

 心底思った。



 地元の高校を卒業すると、英子は故郷に見切りをつけ、上京した。

 OLになりガムシャラに働いた。

 実は駄菓子屋事件の後も、短い髪がなんとなく気に入って、そのヘアスタイルをキープしている。伸ばす気なし!

 ドライヤーもセットも短時間で済むし、平OLとしてバリバリと仕事をこなすのに、短髪は機能的にも心理的にも良い作用があるように思えた。

 周囲の同僚たちは皆、髪を伸ばして染めたり巻いたりしている。だから、自然、ベリーショートの英子は他人目にとまりやすい。男女問わず上司に目をかけられることも多い。無論それに見合うだけのやる気と能力がある。実績もガンガン積んでいる。

 高卒ながら、重要な仕事を任せられるようになる。

 それらを7~8年こなしているうちに、特に文章のスキルがアップしていった。

 幸運にも、縁あってマイナーな雑誌にコラムの寄稿を頼まれた。コラムの評判はよくあちこちの方面で執筆の機会を得た。

 OLとコラムニストの二足の草鞋だったが、数年前、会社を円満退社し、文筆業一本でいくことに決めた。すでに数冊のエッセイ本を上梓していた。

 ――いつかは、サイン会っていうの、やってみたいんだよね〜。

 それが目下の野望だ。

 子供もできた。元気な男の子。元気すぎて困ると言うか頼もしいと言うか、将来はきっと絵に描いたようなガキ大将になりそう。

 実は実は、今現在付き合っている男性がいる。三つ年上の会社員。フットサルが趣味のさわやかなスポーツマンだ。

 お互い結婚したいと思っている。

 息子も彼に懐いている。時には息子と恋敵のように彼を争ったりするほど。



 ほろ酔いで洋食屋を出る。

 これから仕事をせねば。

 お酒を飲んで執筆は不味かろう、と心配する向きには、こう答えておこう。

 英子は酔った方が筆がすすむ(らしい)。酔拳と同じ原理だ、と彼女は強弁している。

 締め切りが迫るエッセイの内容は決まっていた。

 ――「ランドセル騒動」にしよう、っと。

 さすがに駄菓子屋事件は破天荒過ぎる。800字にまとめきれない。読者には、もっとマシな嘘を吐け、と信じてもらえなさそうだし、第一、立派な犯罪事件なので、いくら過去話とはいえ表に出すのは不味かろう。

 「ランドセル騒動」は小学校5年生のときのエピソードで、オチも効いてて、かなり笑える。

 まあ、蛇足になりそうなので、「ランドセル騒動」については、本稿では泣く泣く割愛させて頂くとしよう。


               (了)





    あとがき

 さてさて、リクエスト小説第三弾は、みそさんのリクエストからです!
 「万引きした子の髪を切る駄菓子屋のばあちゃん、でどうでしょう?その万引きした子の親、お母さんも散髪しちゃうと!髪型は、刈り上げ耳出しベリーショート、前髪も短く短く、そんなのがいいですね!」とのことで、書かせていただきました。
 離島とか寒村とかほんと、ド田舎が舞台のお話ばっかですみません(^^;) ド田舎の話だとノるんです。逆に都会を舞台に!と言われたら焦る。。田舎者なので。。活動最初の頃はシティーガールのバッサリを目論んでたりもしたのですが、都会人ぶって書いて、読者様に「コイツ田舎モンじゃんww」と見透かされるのが一番恥ずかしいので(^^;)
 今回3作しか完成できず、しかも時間的な制約もあり、いつも鬼のようにする原稿チェックもできませんでした(汗) どうか広いお心でお読みくださいねm(_ _)m このペースだと今回選考を絞らせて頂くか、発表期間を延ばすか、う〜ん。。別にサボってるわけじゃないんですよ、信じてください!
 なんとか今年中に何作かアップロードいたしますので、よろしくお願いいたします。
 最後までお読みいただき、ありがとうございます。
 どうか、また遊びに来て下さいね♪
 迫水でした〜(^^)



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