田舎のアリス |
スッ、と髪をかきあげる。 ハラリとこぼれ落ちるロングヘアーを男子たちは憧憬の目で盗み見、女子たちは嫉妬と羨望が入り混じる目で追う。 何よ、あれ、という一人の女子の反感に満ちた声が背後で聞こえたが、倉田有栖(くらた ありす)は知らぬふりで廊下を闊歩していく。 彼女が都会の中学校から、この山間の中学校に転校してきたのは、昨年、二年生のときだった。 彼女の存在は、この保守的な学び舎にけして小さくない波紋を生じさせた。 学び舎の頭髪規定を、彼女は強い意志をもって、拒絶したのである。 校則では学校の女子には、オカッパが強制されていたが、有栖は以前の自由な校風だった私立中学に在籍していた頃の、背中までのロングヘアーを頑なに押し通していた。 教師たちは何とか彼女を学校指定のオカッパ頭にしようと、陰に陽に圧力をかけてきた。級友をはじめ、生徒たち――主に女子たちもそれに呼応するかのように、有栖を白眼視し、冷淡な態度をとってみせることで、彼女に断髪をうながした。 とは言え、有栖の両親は知る人ぞ知るリベラリズムを標榜する教育評論家であり、娘の「反抗」を後押しする立場をとっていた。この後ろ盾もあって、教師たちも強硬手段を用いることを憚ってきたのである。 有栖も両親の薫陶もあり、中学生ながら、なかなかの「進歩的な」論客だった。断髪を強いる教師連や上級生たちを斥け、いなし、時には得意の論戦を挑み、彼らをやりこめることもしばしばだった。 栗色のキューティクルなロングヘアーをこれ見よがしになびかせ、保守的な校風に敢然と立ち向かう美少女に心酔する生徒も、男女問わずいた。 そんな彼氏彼女らの中には、校内のジャンヌ・ダルクに続けとばかりに、髪型の規定を無視する者もポツポツ出始めた。 これ読んで下さい、と男子からラブレターを渡されることもあった。 そういった男子の目には、周りにいるダサいオカッパ頭の女子などより、ずっと洗練され、大人びている都会育ちの有栖の方が魅力的にうつっていたのだろう。 有栖はそういった彼女の心酔者たちの応援を得、自慢のロングヘアーをひるがえし、頭髪校則の改正運動の急先鋒となって、教師たちに敢然と戦いを挑んだ。 そんな三年生の春、有栖の中学校に一人の男性教諭が赴任してきた。 教諭は水上洋といった。 まだ二十代の若さだった。長身で笑顔が爽やかで、愛嬌があった。見た目、スポーツマンタイプ、そして、なかなかの美男子だった。 年配ばかりの教師連の中ではかなり目立った。 たちまち女生徒たちの間で人気教師ナンバーワンになったことは言うまでもない。 着任式で初めて彼を見た有栖も、つい胸がときめくのをおぼえた。 一ヶ月も経たぬうちに彼、水上洋の許には、数え切れぬほどの崇拝者たちが集まるようになっていた。 有栖もそんな崇拝者の一人だった。 有栖が水上を慕っていたのは、単なるミーハー的心理からだけではない。 水上が教師たちの中で、彼女の唯一の理解者だからだった。 水上は有栖の中学に転任する以前、県内では割合、リベラルな校風の中学で教鞭をとっていた。だから、前時代的ともいえる新しい中学の校風に馴染めない様子だった。 特に丸刈り、オカッパを強要する新しい中学校の方針にはかなり懐疑的で、 「今時、時代錯誤だよ」 と、ある日、密かに有栖にもらした。 「皆が皆、同じ髪型でいるなんて、なんだか気味が悪いな」 とも言った。 「同感です」 と有栖は首肯した。 「生徒にだって人権はあるんです。髪型だって自由に選ぶ権利があるはずですよ」 「まったくその通りだよ」 こうして二人の交流は続いていった。 二人は職員室を避け、もっぱら昼休みの生徒指導室で語らったものだ。 有栖は転校する前に通っていた都会の私立中学の話をした。 生徒の自主性を重んじ、髪形は勿論、制服もなく、生徒たちは思い思いの髪型と私服で登校していた。 「奇抜な髪型の子もいました。でもその子は別に不良でも何でもなくて、ちゃんと勉強もできたし、生徒会の役員だってやっていたんです」 「へえ」 「なのに、この田舎の中学ときたら、男子は丸刈り、女子はオカッパ。アタシが転校してくるまでは、そんな理不尽な校則を疑問に思う生徒すらいなかったんだから・・・まったく話にもならないですよ」 「そうだね」 有栖の憤慨に水上はうなずき、 「子供にだって自分の髪型くらい自分で決められる権利はある。だけど一部の学校ではまだまだ子供についての人権意識は低い。丸刈りやオカッパの強制がどれだけ生徒の人権をないがしろにしているか、教師や地域住民もいい加減気づくべきだね」 校内で初めて大人の味方を得て、有栖は嬉しかった。 そして心の奥底で、いつしか若い水上を知らず知らずのうちに、異性として見ている有栖がいた。 水上の身体からするオーデコロンの匂いを、真夜中思い出して、ドキドキしたり、学生時代、砲丸投げをやっていたという水上の逞しい腕に抱かれる妄想を思い浮かべてはあわてて打ち消していた。 けれど、そんな蜜月も長くは続かなかった。 夏休みが終わり、二学期に入った頃から、水上との関係は変化を見せはじめた。 二人で語らう機会はいつしかなくなっていた。 有栖が挨拶しても、水上は以前とはうって変わったように冷淡で、笑顔を見せることもなかった。 水上の服装も夏休み前とは180度変化した。 以前はジーンズをはいて、ラフな格好をしていたのが、今ではスーツを着用するようになっていた。いつしか校内に蔓延する管理教育の風に染まりつつあるのが、外見から、普段の言動から、嫌でも伝わってきた。 水上がいかにも純朴そうなオカッパの少女たちを談笑しているところを目撃した。 水上は垢抜けない、でもいかにも「中学生らしい」彼女たちが可愛くてたまらない様子で、 「そろそろ散髪した方がいいんじゃないか」 と少女の一人のオカッパ頭に手をやっていた。若くてハンサムな人気教師に頭を撫でられた少女は照れながらも恥ずかしそうに、 「今日、切ってきま〜す」 キャッキャッとハシャぐ少女たち。 その横をすり抜けながら、無視するわけにもいかず、 「おはようございます」 と挨拶する。 「おはよう」 と水上は挨拶を返したが、その表情はひややかだった。水上を取り巻いている女子たちの冷たい視線がチクチク突き刺さるのを感じながら、有栖はうつむき、足早にその場を通り過ぎた。颯爽とした誇り高き反逆者の威容はなかった。自分が情けなかった。 歩き去る背後で、水上と少女たちの笑い声が聞こえた。ミジメな気分だった。 帰宅してからも、水上が昼間見せた冷たい表情が忘れられなかった。ベッドに身を投げ出し、また水上のあの顔を思い返した。ロングヘアーの自分を見る水上の目には蔑むような色があったようにも思えた。 ――なにさ 裏切り者、と一旦は自分の理解者になっておきながら、さっさと掌をかえし、新しい職場に順応してしまった水上の変節を心の中で詰った。 人権だのえらそうなことを言っていたくせに水上だって、所詮は体制におもねるサラリーマン教師に過ぎなかったのだ。 そう考えて、ハッと気づく。水上が離れていってしまって本当は寂しがっている自分に。 あんなヤツ、オカッパ頭の田舎娘どもと馴れ合っていればいいんだ、とベッドの上、乱暴に身をよじり、水上への思いを断ち切ろうとする。 反面、やっぱり寂しさを否定できない有栖がいる。 それから有栖は水上を無視するようになった。 廊下ですれ違っても、挨拶しなかった。 水上は水上で、有栖に無視されても何ら痛痒を感じていないらしい。どころか眼中にもない様子で、平然としていた。 そんな水上に有栖は余計に傷ついた。まるで一人相撲をとっているかのようだった。 ある晩、有栖は夢を見た。 自分がいて、そして水上がいた。 夢の中の自分は椅子にすわり、白いカットクロスを巻かれていた。 水上の手にはハサミが握られている。 水上の手が長い髪に触れたかと思うと、次の瞬間、グイと乱暴に引っ張られ、ザクとハサミを入れられる。またザクと髪が啼く。ザクザクザク・・・。 みるみるうちにオカッパに髪を切り揃えられていく。 髪を切られている自分は嬉しそうに笑っていた。心の底からの悦びがあった。 目がさめて、まだ夢の残滓が胸の奥、沈殿している。 洗面のとき、鏡をじっと見据えた。 洗練された長い髪の美少女がこっちを見返している。 軽く指で梳かす真似をしながら、 ――果たして・・・ と考えた。 ――この長い髪はいま、自分を幸せにしているのだろうか。 得たもの、失ったもの、双方を天秤にかけてみる。 得たものより失ったもの、得られないものの方がきっと多いんじゃないだろうか。 友達も楽しい学校生活も、地域社会での居場所も、自分は手にすることができずにいる。 残るのは、私は戦ったんだぞ、っていう誇り。 でもその誇りが今朝、不意にチャチなものに思えた。単なる自己満足でしかないのではないか。 転校したばかりの頃は頻繁だった都会の学校の友人たちとの連絡も、最近は滞りがちになっている。彼女たちもそれぞれの私生活がある。仕方ない。 都会の友人たちとは疎遠になり、かといって田舎の中学にも馴染めない。宙ぶらりんな自分。迷子のような気持ちになる。 夢の中の水上との「行為」を思い返す。 甘美な夢だった。えもいわれぬ爽快感もあった。 ――ダメッ! ダメだってば! 胸にわきあがる誘惑をあわてて奥へと押し込んだ。 三時間目の休み時間、移動教室のため、有栖はひとり廊下を歩いていた。 曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。 水上だった。 有栖はうろたえた。 最近ではなるべく彼とは顔を合わせないように気をつかっていたし、今朝見た夢のこともある。 スッと水上が有栖の耳に唇を寄せる。久しぶりに水上の、あのオーデコロンの匂いが鼻をくすぐる。 「放課後、生徒相談室に――」 来い、と水上は言った。 「は、はい」 と返事をする有栖の声はうわずっていた。去っていく水上の後ろ姿を、しばらくポワンと見送っていた。 放課後、有栖は生徒相談室の前に立っていた。 ここは数ヶ月前まで、水上と二人で色々と語り合っていた場所だった。もう遠い昔の出来事のように思える。 何故、水上は今更自分をここに呼び出したのだろう。 訝しさよりも期待の方が先にたつ。 また今朝の夢を思い出す。胸が高鳴る。有栖は必死でそれを押さえる。 なるべく平静を装って、ドアをノックする。 「どうぞ」 水上の声だ。 ドアをあけると、水上は椅子にかけて有栖を待っていた。 後ろ手でドアをしめる。 「夏が終わったのに暑いなあ」 と水上は快活な笑みで言った。彼が有栖にこうやって笑いかけてくれたのは、もう何ヶ月前だったろう。・・・それだけで有栖は全てを許したような、許されたような解放感を抱いた。 「そうですね」 と有栖も笑った。しかし、それは卑屈な笑顔だったかも知れない。 水上は真顔に戻った。有栖は少しさびしくなった。 水上は立ち上がると、ツカツカと有栖に歩み寄ってきた。 「“郷に入れば郷に従え”って言うだろう?」 水上の言葉で有栖は全てを察した。目の前が真っ暗になった。 水上は有栖の髪に手を伸ばし、 「明日までにサッパリと切って来い」 有栖はクラリと眩暈をおこしそうになった。 今朝の夢がオーバーラップする。 「せ、先生!」 有栖は夢中で水上にすがりついた。口の中はカラカラだ。 「泣き言など聞かないぞ」 「ち、ち、違います!」 「じゃあ、なんだ?」 「だ、だったら、だったら、せ、先生が、先生が切って下さい!」 「え?」 と呆気にとられる水上に、 「この教室にあるハサミで、先生がアタシの髪を切って下さいッ!」 もう理想もプライドもなかった。 リベラリズムも生徒の人権もどうでもよかった。 水上の手で自分の髪を切って欲しいという、自分でも得体の知れない倒錯した欲求だけがあった。 生徒指導室から借りてきたケープを巻き、水上は有栖の髪を刈った。 今まで誰もが切ることのできなかった有栖の長く美しい髪に、ハサミが入った刹那、 「ああ!」 有栖はおぼえず声をあげた。ケープの下の秘壷が疼いた。甘い蜜があふれはじめている。 うなじに、耳たぶに水上の息を感じる。 「お前の先輩たちも何十年もこうやって髪を切ってきたんだぞ。例外は許されない」 「ハイッ!」 いつの間にか相談室には人だかりができていた。 廊下側から、窓の外から、大勢のギャラリーが、この一年間、学校を揺さぶった騒動の唐突な終焉を興味深げに見守っている。 「よかったじゃん、倉田。水上先生に髪切ってもらえるなんてさ」 と同じクラスの女子がひやかす。 「水上先生、どうせだから短く切ってあげなよ」 などとギャラリーの中からはっぱをかける者もいた。 水上はザクザクと肩のあたりから、有栖の髪をオカッパの形に切り揃えていく、何の躊躇いもなく。 ザラザラと長い髪がケープを伝って、床に滑り落ちていく。 有栖はハラハラと涙を流し、歯を食いしばって無言。悔し涙でもあったが、それ以上にマゾヒスティックな快感のあまりの涙でもあった。 「あいつ、泣いてるぞ」 と誰かが言って、皆どっと笑った。昨日までの凛とした反逆者の姿は、もはやどこにもなかった。 有栖はもう笑われてもどうでもよかった。もしかしたら、M的な悦びのあまり、笑い声は彼女の耳には届かなかったのかも知れない。 むしろ充足と安堵があった。 憧れの男性教師によって髪を断たれる。 もうこれで楽になれるのだ。もう誰とも角突き合せて闘うこともないのだ。 「学校は集団生活を学ぶ場でもある。この学校に転校してきた以上、ちゃんと学校のルールを守れ!」 いいな?と叱られ、 「ふぁいっ!」 と涙を流しながら、声をはりあげ返事をした。唾が飛んだ。 「なんか幻滅だよなあ」 「泣いちゃってるよ、サイテー」 これまで有栖を特別視して、憧れの眼差しを送ってきた男子たちも軽蔑の視線を向け、ヒソヒソ囁き合っている。 「倉田、よく決心したなあ」 ずっと有栖にやりこめられていた体育教師の湯川も、ニヤニヤしながらギャラリーに加わり、 「だが、これで晴れてお前も本当の意味でうちの生徒になるんだ」 そして、野太い蛮声で中学の校歌を斉唱しはじめる。相談室を取り巻く生徒たちも湯川に和して歌った。守旧派の凱歌であるかのように。 時ならぬ校歌が響き渡る中、有栖の髪は刈られる。 水上は左右の髪を見比べて、 「こっちの方が長いなあ」 と左の髪をジョキジョキ詰めた。さらに、 「今度はこっちが長い」 と右側をカットし、有栖のサイドの髪はどんどん短くなっていった。 そのため、左右に合わせ、後ろの髪は刈り上げなくてはならなくなった。 「水上先生、それだとバリカンが必要じゃないかね?」 湯川は持参したバリカンを水上に渡した。 水上はバリカンを有栖の首筋にあて、 ジョリジョリジョリ とうなじを削るように刈り上げた。 水上の息がうなじにあたる。 有栖のマゾヒスティックな快感は絶頂に達した。秘壷に蜜があふれ、パンティーをはしたなく濡らした。 ケープで隠れているのを幸い、右手を股に這わせた。そんな自分が恥ずかしく、 「うっ、うっ」 と嗚咽した。 バリカンはすでに四回も入れられている。素人の水上はてこずって、また五回、六回とうなじにバリカンを走らせた。 「あ、ああ!」 バリカンのバイブレーションに有栖は嗚咽しながらも、淫らな興奮をおぼえる。 オカッパ頭がひとつ完成した。 左右の髪は頬のあたりで不恰好に揃えられ、前髪は眉より上、うなじはビッシリと刈り込まれている。 自由と権利を謳う校内レジスタンスが旧習に屈服したシンボルが、このオカッパ頭だった。 もう長い髪をひるがえして校内を闊歩していた美少女はいなかった。 いるのは、ただ素人の手によるヘルメットのような垢抜けないオカッパ頭の田舎娘だった。 「これでお前も立派なこの学校の一員だ」 水上は教室の床に散った髪をホウキで掃きながら言った。 「これからは他の皆と楽しい学校生活の思い出を作らないとな」 と掃き集めた髪をチリトリに入れ、隅にあったゴミ箱に放り込んだ。 そして、 「こっちの方が可愛いぞ」 と切りたてのオカッパ頭をなでた。 「ああ」 有栖はついに果てた。 腰がガクガクして立っていられず、椅子から転げ落ちるようにして、床にヘタりこんだ。 その姿に見物していた生徒たちは、またどっと嘲笑した。嘲笑は有栖のマゾヒスティックな悦びを一層かきたてた。 それから月日は流れ・・・・・・ 新興住宅地にある二階建ての家。 「おい、有栖、これ」 と郵便物をポストにとりにいった夫が有栖宛の葉書を渡す。 「ああ!」 中学の同窓会の通知状だった。 「みんな元気かなあ」 何人かの友人は卒業してからも連絡を取り合っている。たまに会うこともある。 ミッちゃんはこないだママになったらしい。ヨッきゅんはいわゆるバリキャリってやつで仕事に情熱を燃やしている。みさっちは実家の農家を手伝っている。たまに会うととれたての野菜をくれる。 「会いたいなあ」 有栖は懐かしさに目を細める。 「行ってくればいいじゃないか」 と夫はすすめる。 「そうだねえ」 髪を切ってから、信じられないくらいの早さでクラスに、学校に、溶け込めた。一生付き合える親友もできた。 そして、 「あなた」 「なんだ?」 「『水上先生もご一緒にどうですか?』だってさ」 あの水上洋と結婚した。大学を卒業するのを待って入籍し、式もあげた。 「オレも?」 洋は目を丸くしたが、 「オレはいいよ。遠慮しとく」 担任だったわけでもないしさ、と苦笑しながら言った。 「いいじゃない、一緒に行こうよ」 と有栖も笑い、 「どうせ、アタシがいない隙にパチンコ三昧でしょう?」 「ん〜」 図星をつかれ、洋は坊主頭をポリポリかいた。先月、パチンコで3万もすってしまい、それが妻の逆鱗に触れ、バリカンで丸刈りにされたばかりだった。 洋は教師を続けている。 田舎の学校も時代に合わせ、変化している。 丸刈りオカッパ校則もすでに廃止された。 最近は奇抜な髪型で校内をのし歩く連中も少なくないという。 「あなたが“指導”してやればいいじゃない。アタシのときみたいに、ハサミでジョキジョキ〜、って、」 「バカいうなよ」 洋は目を剥いてみせた。 「今あんなことしてみろ、大問題になるよ」 「時代だね〜」 有栖は笑い、 「アタシはあなたに感謝してるよ」 と言った。 「あのとき、あなたが髪を切ってくれたお陰で、友達もできたし、こうして――」 と葉書をヒラヒラさせて、 「思い出を共有できる仲間もたくさんいるから」 それにね、とちょっとくすぐったそうな顔になり、 「あなたと結ばれた」 ニッコリと夫に微笑んでみせる。 「有栖・・・」 洋はまぶしそうに微笑み返した。 「愛してる」 「アタシも」 抱擁を交わす二人。 「でも――」 洋の耳元で囁く有栖。 「パチンコで大金つぎ込んだら、また坊主だからね」 「ひぇ〜〜」 立場は逆転、すっかり若妻の尻に敷かれる洋だった。 「さて」 洋から身体を離すと、有栖は夕食の支度にとりかかる。 「今日は何にしようかな」 とひとりごちつつ、同窓会に着ていく服のことを考えている。 (了) あとがき オカッパ小説、第三弾です。 サイトをはじめるより前に、ノートに書いていた小説をリメイクしました。 この頃は毒気が強かったなあ。 元のお話では主人公が自殺するバッドエンドだったんですが、ハッピーエンドにしました。 書き上げてみて結構気に入ってます♪ 最後まで読んで下さり、感謝感謝です!! 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