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懲役七〇〇年のメッチャ怪しい誕生秘話


 俺の名は梅田梅朗、22歳
・・・てことにしておいてくれ。

 今日はマイ・スイートの伊藤妙子ちゃんとサイ○リアデート。




安ワインをグイグイ飲んでいる俺に、
「また飲んでる〜」
と妙子は口を尖らせる。
「いいじゃんか」
「今日、車でしょ?」
「いいんだよ。俺は酔ってるときの方が事故らない。酔拳って知ってるか?」
「知らな〜い」
世代の溝を感じる。それがスゲー快感だったりするんだよな。
「アタシ、歩いて帰るから」
「大丈夫だって」
「梅ちゃんの“大丈夫”は全然“大丈夫”じゃないんだよ」
 妙子はまだ小学生だけれど、ひどく早熟(ませ)てる。
 背も高いし(160cm)、服装なんかもギャルっぽいし、カラーリップクリームなんぞ口紅みたいに塗って、だから初めて会ったとき、もうちょっと年上かと思った。
「女子大生と間違われた」
というのが、コイツの最大の自慢だ。
俺以外にも大学生とかリーマンのオヤジと遊んでるらしい。飯おごらせて、服とかアクセサリーとか色々買わせて。
同級生の男の子は彼女に言わせれば「ガキ」で相手にならんらしい。まあ、知ったこっちゃないけどな。
ただ、
「なんでいつもサイ○リアなの?」
と不満そうにされるのには、やや閉口。
「○○通りにスペイン料理屋あるの、知ってる?」
「知らねえ」
「こないだパパ・・・じゃなくって・・・知り合いのオジサンに連れてってもらったんだけど、マジおいしかったよ〜。今度連れてってよ〜」
甘い声でおねだりされても、先立つもんがない。
「スペイン料理もいいし、イタリアンもいいよね〜」
「ここもイタリアンじゃんか」
妙子が頬をふくらませる。藪睨み気味の両眼を上目遣いにして、俺をにらんでる。が、すぐにいからせていた両肩を落とし、
「ねえ」
と、更に甘ったるい声。
「なんだよ?」
「セックスしようか」
「東○ラブストーリーかよ?!」
「何ソレ? 知らなあい。いいじゃん、しよう、セックス」
「ダメ」
ホントはメッチャ、ヤリたい!!
でも、この欲望を実行したら、後ろに手が回る・・・。
じゃあ飲酒運転もやめろよ、と突っ込まれたらホント、ゴメンナサイってカンジだ。
俺にできるのは、

視姦

のみ。
妙子もそういう俺の逡巡がわかってて、盛んに挑発してくる。
「いいじゃん、セックスぐらい。このヘタレ梅ちゃん(笑)しよう、セックス」
って、おいおい、オマエ、単に「セックス」って言いたいだけちゃうんか、と。
その証拠に
「じゃあ、やるか、セックス」
って俺が居直ると、
「え?」
と固まりやがんの。
でも言い出した手前、後にはひけず、
「う、うん」
とラブホテルが立ち並ぶ国道沿いまで行ったはいいが、急にソワソワしはじめて、
「ああ、ゴメン! やっぱ今日は気分が乗らない。またにするわ」
ナニが「気分が乗らない」だ。この処女め。

この妙子、実家が寺らしい。
「貧乏寺だよ」
といつだったか吐き捨てるように言った。「妙子」っていうやや上の世代っぽい名前も菩薩様の名前からとったという。俺はどちらかと言えば妙子の観音様の方に興味が・・・ゴホン、ゴホン!今のナシ!
「将来は尼さんになるのか?」
とギャグで訊いたら、ザケンナ、死ネ、という返事が返ってきた。「死ね」まで言うか、ええ? マイ・スイート?
家が寺ってことで学校でも好奇に満ちた目で見られることも多いらしく、
「スッゲー嫌」
としかめっ面でこぼしていた。
その癖、実家の話をするときはえらく楽しそうだ。
檀家のナントカさんが野菜もってきてくれた
とか、
山寺だから狸が出る、たまにイノシシまで出る
とか、
 市の文化財になっている如来像がある
とか、
 今度、本山からエラ〜イお坊さんがくる
とか、ファッションとかスペイン料理の話題よりも活き活きとしゃべりまくる。

「梅ちゃん、昔ヒッキーだったんでしょ?」
と妙子に訊かれて、
「ああ」
と答えた。
「どうやってヒッキー脱出したの?」
「神様のお陰だ」
という俺の言葉がおかしかったらしく、小悪魔は声をたてて笑った。
「マジっすか?」
「ああ、俺はずっと家に引きこもってパソコンばっかりやってたんだが・・・ある日・・・」
近所に落雷があり、そのショックでパソコンがイカれた。
「これはパソコン断ちして外に出ろ、っていう神様のお告げかな、と思って、仕事をさがした」
「意外〜」
 妙子は目を丸くしてる。
「梅ちゃんて神様、信じてるんだ?」
「神様はいるだろう」
「てっきり神社の鳥居とかにオシッコかけてそ〜、とか思ってた」
しねーよ! 妙子の中の俺のイメージは織田信長かなんかか(汗)
「俺は有神論者だ」
「ユウシンロンジャ・・・ってナニ?」
「スピリチュアルなものを信じてるってことだよ」
「すぴりちゅある・・・ってナニ?」
 妙子・・・その年相応の無知っぷりが可愛くてタマラン!
「目に見えない力を信じてるんだよ」
「へ〜」
「そういう本もいっぱい読んでる」
「へ〜」
「知ってるか?」
「知らない」
「まだ何にも言ってないだろうが」
 俺は肩をすくめ、目の前の小さな享楽主義者にこないだ読んだ本の受け売りをしてやった。
「人はな、自分が望んだ通りの形になる」
「ナニそれ?」
「自分が『こうなりたい』って望んでる自分になるのさ」
「嘘、絶対、嘘!」
 妙子は即座に否定した。
「本当だって」
「じゃあさ〜、総理大臣になりたい、って思ったらなれんの? ジャニーズと結婚したい、と思ったらできんの?」
「本当に心の底から思ってればな」
「嘘、絶対、嘘だね」
 じゃあ、犯罪者になる人間は犯罪者になりたいと思っていたのか、不幸な人は不幸になりたいと望んだのか、と妙子は俺を質問攻めにして、俺は「意識」とか「深層心理」って用語を使って、妙子を説得しようとしたが、めんどくさいのでやめた。俺もよくわかってねーし。
 でも、
「梅ちゃんはどうなの? 今の梅ちゃんは梅ちゃんが望んだ通りの梅ちゃんなの?」
という妙子のラストクエスチョンに対しちゃ、
「ああ」
と一秒の間もおかず即答したね。
 そりゃ金はねえし、女と飯食うのもファミレス。こないだまで年金もバックレてたさ(←おい!)
 でも好きな酒が飲めて、一緒に酒飲むダチがいて、女(18歳以上)にも不自由してねえ。釣りして登山してネトゲできる。満足だ。
「・・・・・・・」
 妙子は黙った。スッゲー不満そう(苦笑)
 だけどアレコレ質問してくるってことは、コイツにも何かひっかかるもんがあったってことだろう。

 妙子と最後に会ったのは・・・いつだったかなあ・・・憶えてない。
 俺の誕生日(3月上旬)からそんなに経ってない頃だ。妙子、「お彼岸」とか言ってたし。あ、桜咲いてたかなあ。いや、咲いてなかったかも。やっぱ憶えてない。
 相変わらずティーンズ雑誌から抜け出してきたようなファッションの妙子は、お彼岸に親父さんの住職の手伝いをして、檀家回りをする、と言った。
「お経読んでまわるんだよ〜」
 超ウゼー、とテーブルに突っ伏しながら、嬉しそうだった。俺は全く興味がないから、他の話題を振ったが、その都度、妙子は強引にお彼岸の話に引き戻した。
「お経も勉強中でさ〜」
って、なんか得意そうで、まるで「忙しくて」とかほざくビジネスマンとか「寝てなくて」とか抜かす受験生みたいな感じだった。
「だったら」
と俺は妙子のロングヘアーに手をやった。
「髪、短く切った方がいいじゃんか」
 妙子は虚をつかれた顔をして、
「え?」
と言った。
「なんで?」
「袈裟着るんだろ? 袈裟には短髪の方が似合う」
「やだよ〜」
と妙子は俺の手を振り払い、渋く笑った。
「そうか」
 俺も軽い気持ちで言っただけなので、それ以上はすすめなかった。

 その夜、風呂からあがると、新着メールが二件届いていた。
 妙子と友人のセコ水野亜。
 セコ水のは後回しにして、まずは妙子のメールをチェック。

 タイトルは「へ〜んしん!」

 なんじゃそら?と首を傾げつつ、まずは添付されている画像を開いた。

 妙子の写メだった。

 あの長かった髪を勢いよく刈り込んで、オデコも耳もバシッと出して、見事な短髪になっていた。その頭で袈裟をつけて合掌のポーズをとっていた。含羞んだ笑顔で・・・。
 つい5時間前までの大人びた小悪魔の面影はきれいに消え、すっかり「小坊主」になっていた。
幼くて田舎くさくて頼りなげで、でも幼さは子供にしかない初々しさと清潔感を伴い、田舎くささには懐かしさがあり、頼りなげなところには庇護欲をそそられる。
何より新しい姿に満足そうな妙子に、俺は目を細めずにはいられなかった。
中性的なフェロモンを漂わせる新しい妙子の方が可愛らしい。

 お母さんにやってもらいました〜♪

と添えられた文章にあった。

 「男の子みたく」とリクエストしたんだけど・・・容赦ね〜(><)マジでやりやがんの(TT)
 でもすんごくサッパリしたよ〜!!!
 梅ちゃんの言ったとおりコッチのが袈裟に似合うね(^^

 メールは、

 もしかしたら、これが私の望んでた形なのかな〜

(笑)、と結ばれていた。
 俺はニヤリと妙子の(笑)に応えた。
 ビールのプルタブをあけ、処女小坊主の門出を祝って乾杯した。

 俺がセコ水とサイトをたちあげたのは、それから間もなくだった。




(了)



    あとがき

 ちょうど二年前書いて、そのままお蔵入りしていた短編です。
 なんでお蔵入りにしたんだろう?(謎)
 断髪シーンがないからか?
もしかして断髪シーンなしの小説って初めてかな?
 まさかこのときには、うめろうさんが実務引退するとは思ってなかったよ・・・(汗
 うめろうさんになりきって書いたけど、知り合いにナリキリって、やってて気持ち悪いです。まあ、三割くらい実話です。
 こうして読み返してみると、ああ、うめろうさんもこの時期より大人になってるんだなあ、とシミジミ思う。




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