断髪力 |
夏。 テレビからは野球中継。高校野球の地区予選が放送中。高校球児たちの白熱したゲームが展開されている。 ・・・と言いたいところだが、強豪校が弱小校にネコがネズミをいたぶるような猛攻を浴びせている。 伝令が走る。ピッチャー交代。乱打を浴びた投手が肩を落とし、マウンドをおりる。 「ったく、何やってんだ!」 リビングを振り返り、ブラウン管に吐き捨てる夫、祐司を 「アナタ、動かないで」 と妻のミサ子が注意する。 「情けねーなあ、上条〜、ポカポカ打たれやがって」 母校の不甲斐ない試合はこびに祐司はご機嫌斜めだ。 「相手が悪かったのよ。この子、二年生なんでしょ? 来年は頑張って欲しいわねえ」 「おい、切りすぎてないか?」 「いいじゃない、夏なんだし」 と笑いながらシャキシャキとハサミを動かすエプロン姿のミサ子。 ここ間宮家では毎月第四日曜日にこうして若妻のミサ子が濡れ縁で家族の散髪をしてやるのが恒例だ。 夫に続いて六歳になる娘ユリカの髪を 「随分伸びたね〜」 と切り揃えていく。 「なあ」 祐司は妻の散髪に不満らしく、 「ユリカの髪さ〜、女の子なんだし長くてもいいんじゃないか?」 「いいのよ」 ミサ子はきっぱりと夫の意見を斥ける。 「自分で手入れできるようになるまで髪は伸ばさせない。それが我が家の方針です」 単にお前が髪を結ってやるのが面倒くさいだけだろう、と祐司はやっぱり不満そうだ。そういう祐司もつい先程、愛妻に、板前か!ってぐらいの短髪に仕上げられてしまったばかり。 「はい、出来た〜。可愛くなったわ」 最近色気づいてきたユリカはヘルメットみたいなショートカットにされて、プ〜と頬をふくらませている。 「さあ、二人ともお風呂場行ってシャワー浴びてらっしゃい」 間宮家の女王様に退去を命じられた祐司とユリカだったが、 「それはどうだろう」 祐司がせっせと散った髪を掃き集めている女王様の肩に手をおく。 「なによ?」 「せっかくの家族の団欒にママも主役として加えてやろうかと思ってさ」 と善人顔をニヤニヤ笑み崩している祐司にミサ子は不吉な予感をおぼえ、 「どういうこと?」 「これからママの散髪を行いま〜す」 パチパチと自分で拍手なんかしちゃって、夫は盛り上がっている。ずっと前から思いついていて、それを本日実行にうつすつもりになったらしい。 「アタシィ〜?!」 黒髪ロングを背中まで伸ばしたミサ子は目を剥いて驚きの声を発した。学生時代からずっとロングを通してきた。自慢の髪だ。そりゃ冴えない地味な主婦でしかないが、冴えない女なりに密かに誇れる部分だってある。ミサ子にとってはそれが長く質の良い髪だった。 「誰が切るのよ」 一応訊く。 「俺」 まあ、他に誰もいないわけで。 「い・や・で・す」 頑なに首を振るミサ子。 「アナタ素人じゃない」 「お前が言うか?」 ギザギザに刈り込まれた襟足に手をやって、祐司が苦く笑う。 「アタシはね、ホラ、お店でね、切ってもらうから」 「ママだけずるぅ〜い」 ユリカが口を尖らせる。 「そうだそうだ〜。家族皆でスキンシップ。それが我が家の方針だ」 祐司は自分の思いつきにご満悦の様子。 ミサ子は溜息をひとつついて、 「じゃあやってもらうわ」 と自らケープを巻いて、濡れ縁に広げられた新聞紙に腰をおろす。夫に髪をいじってもらうという趣向も新鮮で面白いかも知れない。それでも不安はたっぷりある。当たり前だ。 「アナタ、人の髪切ったことあるの?」 「あるとも」 祐司が拳でポンと胸を叩く。 十代から二十代にかけての数年間、役者を目指して小さな劇団に所属していたのだが、その頃、金のない劇団仲間の髪を切ってやっていたという。 「少なくともママよりは上手いと保障できるね」 「そう?」 不安はまだ去らないが、やらせてみることにする。 「お客さん、今日はどういったふうに?」 祐司はすっかり理髪師モードで、ミサ子のロングヘアーを霧吹きで湿らせていく。久しぶりに夫の手が髪に触れ、軽くときめいた。 ――最近ご無沙汰だからなあ。 「今日はどんな感じで?」 再度尋ねられ、 「う〜ん、毛先をね、チョコっと揃えてくれればいいわ」 美容院での注文もいつもこんな感じだ。 「それじゃあ俺の腕の見せようがねえなあ」 理髪師は冒険心のない客の注文が不服らしく、ハサミでシャカシャカ宙を切りながら、濡れ縁の端に積みあげられた古雑誌の山の中から、ファッション雑誌のヘアカタログ号をひっぱり出した。いつかミサ子がイメチェンを思い立って購入したものの、勇気が出なくて果たせず、結局部屋の隅に追いやられてしまった本だった。 祐司はヘアカタログをパラパラめくっていたが、 「ユリカに決めてもらおう」 と娘の目の前でカタログを広げてみせた。 「ユリカはママにどんな髪型になって欲しい?」 ユリカは、う〜ん、と何十人ものモデルと睨めっこして、すぐ 「コレ」 とモデルの一人を指差した。 「ちょ、ちょっとォ〜!」 ミサ子が目を白黒させる。 それもそのはずで、ユリカが選んだのは、金髪をこれでもか!ってくらい刈り込んだいわゆるセシルカットのクール美女だった。 「お、いいねえ」 夏にピッタリだ、と夫も娘に同調する。 「素人にできるわけないでしょ、こんな髪型!」 だいたいアタシ、和風顔だからこのモデルさんみたいにキマらないわよ、とミサ子は猛反論する。 「でもさ、ママ、結婚してからずっと同じ髪型だろう? たまにはサ、思い切ってバッサリ切って気分転換してみるのもいいんじゃないか?」 「ユリカ、かっこいいママ見たいなあ」 という夫や娘のすすめを 「いやよ〜」 渋面で拒否するミサ子だったが、ユリカの口にした「かっこいいママ」というフレーズが心にひっかかった。 ベリーショートにスーツでバシッとキメて、ハイヒールで大股闊歩して、ユリカの小学校の授業参観に行ったりなんかして・・・子供たちが「あの人、ユリカちゃんのママ? カッコイイ〜!」なんてヒソヒソ囁きあったりなんかして・・・そんな甘美な空想に心が浮き立つ。 「オバサン化」が進んでいるんじゃないかしら、と不安をおぼえはじめていた矢先だけにこの空想が魅力的だ。 今朝みたテレビ番組をふと思い出す。情報系バラエティの星座占いコーナー。 「水瓶座のアナタは今週の運勢絶好調です。思い切ってイメチェンしてみるのもいいかも知れませんよ」 コーナー担当の女性アナウンサーは満面の笑みでそう言っていた。 ――イメチェンね〜。 今こうして散髪スタイルで家族からショートカットをすすめられている。何やら啓示めいたものを感じる。さあ、迷うな、今すぐ髪を切って新しい自分になるのだ、と幸運の女神に自分の背中を押されているような錯覚すらおぼえた。 「どうする?」 と祐司が妻の髪を撫でた。それは愛の営みを思い起こさせる。 もっと夫に髪を触られていたいという欲求が心の中、膨れあがる。 「やって」 決断した。失敗したら美容院に行って直してもらえばいい、と割り切りつつ。 「じゃあいくぞ〜」 まずは前髪からいっとくか、と祐司は嬉々として鋏を握ると 「このくらいかなあ」 ミサ子の頭とカタログを交互に見比べ、さすが大雑把なO型、この辺りだろう、と無造作に見当をつけ、鋏を眉よりもずっと高い位置にもっていく。 「ちょ、ちょっと!!」 狼狽するミサ子。 「そんなに切ったらオデコ出ちゃうじゃない!」 「”出ちゃう”って出すんだよ」 カタログを横目に、何を言ってるんだとでも言いたげな口ぶりの祐司を 「ちょっ、ま、待って!」 と制したときには、すでに手遅れ。 ジョキリ、 分厚いラシャ布を断ち切るような音がして、 ハラリ、 と大量の前髪が目の前を落ち、 「キャッ!」 ミサ子は反射的に目をつぶった。 「ん? なんだ?」 祐司は飄々としたもの。そんなデリカシーのない夫に 「もういい!」 子供みたくムクれるミサ子。 ジョキ、ジョキ、ジョキと鋏が獲物を求め、オデコら辺をゆっくり左に横切っていく。パサリパサリとケープ越し、膝の上にかつて前髪であった物体が降り積もる。その中の意地の悪いのが鼻の頭でひっかかり、ムズムズしてくすぐったい。 額に風を感じる。きっと無惨なことになっているのだろう。 ――失敗したら美容院、失敗したら美容院・・・。 心の中、呪文のように繰り返す。 祐司は今度は耳の形に沿って粗切りをはじめる。鋏は切り甲斐のある対象に意気揚々と齧り付き、チッ、チッと舌を鳴らして咀嚼運動をしている。 ミサ子のサイドの髪の毛が摘まれ、顔のサイズに比して大きめの耳が露出する。 ここまできてしまっては仕方ないと観念する。道に迷ったら、あるいは道を間違えたなら、やり直せばいい。髪はいつか伸びる。美容院だってある。一番つまらないのは道に迷うのを恐れて、ずっと同じところに立ちすくんでいることかも知れない。そんな悟りじみた心境になる。 そうフッ切れたら、夫に髪を任せることへの不安もなくなった。 ミサ子の心境の変化を受信したわけではなかろうが、祐司のヘアーカットは一層大胆になっていった。 「気持ちいいなあ」 なんて鼻歌まじりで髪を切っていく夫に、 ――そりゃあ気持ちいいでしょうよ。 羨望。なにせこんな長い髪をジョキジョキ切り落とせるのだ。切られる方は勿論、切る方だって気分爽快に違いない。今となっては、できることなら幽体離脱して、自分で自分の髪を切りたい気持ちだ。 長年慈しんできたロングヘアーに容赦なくハサミをいれていく祐司。その迷いのないハサミさばきに「家長」としての頼もしさを感じる。豪快なカットに「雄」の息吹きと力強さを感じる。なんだろう、この安堵感。ベッドの中での時のように、全てを彼に委ねてしまっている自分に気づく。 耳たぶに祐司の鼻息がさっきから触れている。くすぐったい。耳はミサ子の性感帯だ。 「ミサ子」 「は、はい」 こうして名前で呼ばれたのは何年ぶりだろう。たぶん新婚の頃以来。ドギマギしてしまう。 「一昨日のカレーな、アレ、旨かったぞ」 祐司に褒められて、またドギマギ。普段は出された料理を「旨い」とも「不味い」とも言わず黙々と箸を動かしているだけの張り合いのない夫なのに。 「あ、ああアレね。テレビの料理番組でね、やってたやつをメモしといたのよ」 ミサ子はあっさり種明かしをしてみせた。 「ニンニクと鷹の爪がポイントなの。あと砂糖」 「カレーに砂糖入れるのか?!」 「そんな驚くことないでしょ」 料理ってそういうものよ、とミサ子は家事音痴の夫にレクチャーして、 「アナタってホント料理のセンスないわねえ」 と苦笑しながら、 ――ああ、こんなふうに他愛ない会話するのも久しぶりだな〜。 祐司は最近、社内で重要なプロジェクトを任され、時には会社に泊まりこむこともあり、多忙の身。夫婦水入らずの時間なんてほとんどありはしない。いつしか単なる同居人になりつつある現状を寂しく思っていただけに嬉しい。 ミサ子がささやかな幸福感に浸っている間にも、祐司は今度は逆サイドの髪を刈り込んでいく。ジョキジョキジョキ。 バサリと新聞紙のうえにたっぷりとした髪束が落ちる。切られた髪は嵩になって周囲に積もっている。学生時代から「いい髪ねえ」とアチコチで羨ましがられた髪。その残骸を目にしても不思議と後悔はなかった。感傷もなかった。 むしろ、 ――うわあ! こんな重ったるいものを頭に乗せて動き回ってたのか、と改めて驚嘆する。トテモキモチイイ! 諸事消極的で後ろ向きな自分の殻を破ったのかも知れない。 長い髪をバッサリ切るという女にのみ与えられた特権に、夫の手によって変わっていく恍惚に、ミサ子は酔いしれる。 祐司が手をとめる。ミサ子の正面にまわる。そして片膝をついてしゃがむと、至近距離でじっとミサ子の顔を見つめる。真剣な表情で・・・。 「アナタ?」 今日何度目のドキドキだろう。まるで少女に戻ったみたいだ。ダメよ、ユリカが見てるわ。 「ちょっとこっちの方が長いかなあ」 ピンピンと指先で妻の髪を弾く祐司。どうやら左右の髪のバランスを確認していたらしい。なあんだ、と拍子抜け。 ――何浮ついてるんだろ、アタシ。 前髪とサイドの髪がベリーショートの形に刈り揃えられると、バックの髪にハサミが入る。いよいよ最終段階だ。 ジョキ、ジョキ、ジョキ・・・ 「あら、間宮さん!」 お隣の山本さんだ。回覧板を届けに来て庭に回ったら、珍妙な光景に出くわして目を丸くしている。 「旦那さんに散髪してもらってるのォ〜?」 熱々じゃない、と冷やかされ、 「そんなコトないわよ〜」 などと謙遜しつつ、満更でもない。 「随分短くしちゃったのね。思い切ったわねえ」 「あははは、まあ・・・夏だし・・・」 得意と照れ臭さが入り混じった気分だ。 「夏だしなあ」 祐司がミサ子の濁した言葉尻を強調した。ギャラリーを得て、心なしかハサミさばきがリズミカルになる。シャキシャキシャキ。 「旦那さん、器用ね〜。ウチの亭主なんてボタン付けひとつ満足にできないから、頭なんてとても任せられないわよ。羨ましいわ」 と言う山本さんに 「ウチだって、これからどんな頭にされることやら」 と、これは謙遜ではない。が、得意が含羞を追い抜く。 「山本さんも散髪してあげようか?」 と調子に乗る祐司に山本さんは 「遠慮しとくわ」 とあわてて手を振った。そのリアクションに引っ込んでいた不安が顔を覗かせる。 ――もしかしてアタシ、相当ヤバイ髪型にされてるんじゃないの・・・? 鏡がないのがもどかしい。しかし途中で鏡を見るのは、何となく勿体ない。 生まれて初めてのぞいたウナジがスースーする。 鏡と対面するなり、 ――ぐわっ! 玄翁で脳天をガツンとやられたような衝撃が走る。 結論。素人にセシルカットは無理。 「何よ、コレ?!」 オデコも耳もモロ出し。まあそれは注文通りだけれど、切り口は適当だわ、ピンピンはねてるわ、髪全体が浮き上がっていて鬘みたいになってるわ、惨憺たる有様である。 ――やっぱりこういうオチか・・・。 鏡を持つ手がプルプル震える。 「ママ、おサルさんみた〜い」 とユリカ。 「まあ・・・とりあえず・・・美容院行ってこい」 無責任な祐司。 「そうね、美容院でちゃんとしてもらった方がいいわね」 ヘアーカットを見物し終えた山本さんも祐司に賛成票を投じる。 鏡を伏せ、 ――それもそうね。 自分でもビックリするくらい、あっさり立ち直った。髪を切ったせいだろうか、潔くなったミサ子がいた。 自転車を飛ばして美容院に直行。 「誰かに切ってもらったのォ?」 と美容師さんは驚いていた。なにかやらかしたの?とまで訊かれた。 「こんなに短くしちゃあね〜」 襟足とかスゴイことになってるよ、と腕組みする美容師に、 「あ〜、もういいわ。刈り上げちゃって」 まさか今日の午前中には午後にこんな台詞、口にしているとは1ミリたりとも考えていなかった。 プロの手にかかって、ようやくマシなヘアースタイルになった。とは言え、鏡の中のミサ子は少年の如き短髪。ほとんど坊主頭に近いベリーショート。 ――祐司さんより短いじゃない! せっかくなのでカラーリングもしてもらった。これも人生で初めて。 「いいじゃない!」 美容師が両の指先を合わせ、大仰に褒める。 「ミサ子さん、顔立ち整ってるからショートにして顔を出した方が絶対いいと思ってたけど。うん、いい! ショートにして正解よ!」 そう言われると ――ま、いっか。 という気持ちになる。手入れもラクそうだし悪くない。刈りあがった襟足をひと撫でして、 ――今夜お風呂で・・・。 腕白小僧のようにガシガシ頭を洗ってやろう。そう考えてニンマリする。きっと気持ちいいだろう。で、風呂あがりにビールをグイッと。ウフフ。 身も心も軽やかに帰宅したミサ子にユリカが開口一番、 「ママ、かっこいい!」 翌日、当然のことながらパート先で騒がれた。皆、ミサ子の変貌ぶりに仰天していた。 年下の同僚の三嶋呉亜もその一人で 「ちょっと間宮さん、どないしたんですか?!」 「ちょっと切りすぎちゃって、アハハ」 笑ってごまかす。アハハじゃないだろう、と内心セルフツッコみしながら。切りすぎにも程ってものがある。 「若返らはったわ〜」 と肩をつつかれ、 「ホント〜? サルみたいでしょう?」 「そないなことないですよ〜」 「ところでさ、今日仕事が終わったら皆で飲まない? 久しぶりに」 「あら、珍し、間宮さんから誘うてくるなんて」 髪を切ってフットワークが軽くなった。決断も早くなった。 これまでは、どうせ給料は変わらないんだし、と手を抜くことばかり考えていたが、今は他の同僚が嫌がる仕事でも率先して引き受ける。別に見返りとかはどうでもよく、単純に働くことが楽しい。 そんなミサ子を周囲は信頼する。いつしか職場で人気者になった。 毎日せっせと体を動かすのでダイエットにもなる。それだけでは物足りずテニスクラブに通いはじめ、また痩せる。 この間、バイトの大学生に 「間宮さん、俺、年下ですけど付き合ってくれませんか?」 と真顔で告白されたときは 「アタシ、オバサンだよ〜?!」 流石に驚いた。 「ナニ言ってんスか! まだまだ全然イケますって!」 と力説され、満更でもなかった。勿論、旦那がいるから、と丁重にお断りしたが。 その旦那との関係は良好だ。良好を通り越して交際をはじめたばかりの十代カップル並みのラブラブ状態。ここだけの話、一緒にお風呂に入ったり。 「お前、髪短い方がかわいいじゃんか」 と情事の後、夫に短髪をクシャクシャッと撫で回されるのが、子猫のように楽しみな今日この頃だ。 そのおかげだろう。二人目の子供を身籠った。 子供ができたことを告げたとき、 「本当か?!」 祐司は金鉱を掘り当てた探検家のように目を輝かせた。 「今日、産婦人科に行ってね、二ヶ月ですって」 「ミサ子、でかした!」 お殿様みたいな台詞をのたまい有頂天の祐司に 「頑張ってミルク代稼いでね」 と甘える。 「おう! 頑張るぞ!」 痛いっ、と悲鳴をあげるほど抱きしめられた。抱擁の強さと愛情の深さはちゃんと比例している。 嘘でしょ?と信じられないくらい、とにかく絶好調だ。もう髪を伸ばそうとは思わない。伸びたらすぐ美容院ってカンジだ。 掃除をすることで運がつく「そうじ力」というものがあるらしいが、もしかしたら髪を切ることで開運する「断髪力」というのがあるかも知れない。 ――そういう本出してみようかしら。 ま、それは冗談だが。 最近よく悩み相談をもちかけられることが多い。 そういうときは、こうアドヴァイスすることにしている。 「髪、バッサリ切ってみたらどう? 新しい自分になって物事を見つめ直してみるの。アナタが変わればきっと状況も変わるわ」 (了) あとがき 迫水です。 え〜、今回はじめてこれまで回避してきた夫婦モノにチャレンジしてみましたぁ〜。何故夫婦モノを避けていたかというと、勿論自分が独身で夫婦生活の機微がわからないというのと、あと照れ臭かったのです。「愛の営み」とか書いちゃったりして、うおおおおっ!ですよ。 でもアンケートの結果を見ると「ほのぼの路線」の需要はありそうなので、思い切ってトライしてみることに。。。 元々は高校時代、自分だけが楽しむために描いた絵物語の筋立てをそのまま流用しました。ストーリーの成立で言えば懲役七〇〇年最古です。相変わらず停滞期、続いてます。 |