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真魚2019


 真魚(まお)がH寺の住職として、正式に補任されるまで、彼女の修行期間もふくめて、実に五年もの年月がかかった。

 私は37歳になっていた。

 妻もいた。悦子(えつこ)といった。あどけない笑顔が愛くるしい女性だった。

 五年前、見合いをして、すぐに結婚を決めた。

 明るくサバサバとしていて、聡明で、働き者で、しっかり者で、私の住職としての仕事も裏方として、サポートしてくれた。元銀行員なので、金銭の出入りもキチンと管理してくれている。

「貴方、それじゃ小畑さんの面目が立たないわ」

と檀家のことを慮って、私に意見することも、しばしばある。

 悦子の言に、私は、

「それもそうだな」

と九割方、首肯する。お陰で檀家衆との付き合いも円滑だ。

 得難い妻をもった、と私はいつも心の中、悦子に掌(て)を合わせている。

  真魚の出家以来、私は放蕩無頼の生活とは、きっぱりと縁を切った。

 今では床に就く前に、妻の用意してくれた肴での晩酌が、何よりの楽しみだ。

 こんな平穏な暮らしをしておいて、悩みなどというのは贅沢かも知れないが、子宝に恵まれないのが、私も妻も、お互い口にこそ出さねど、密かな心の引っかかりだ。

 父も母も、寺の後継者がなかなか産まれてこないことを憂慮している。

 悦子は私より四つ年下、33になる。

「悦子さんも若いし、まだまだ大丈夫だよ」

と両親は口でこそ、そう慰めるが、憂い顔は隠せない。



 H寺から往復葉書が届いたのは、そんな折だった。

 真魚がH寺の住職位に就くにあたっての「晋山式」のお招きだった。

 私は思わずうなった。

 私は真魚のいわば後見人だった。

 いくら真魚とは決別したとはいえ、それは個人間のことで、浮世のしきたりでは、式には参列せねばならぬ身だ。

 それでも、これまでも、何度か真魚と公的に対面する必要に迫られることはあったが、その都度辞を構えて、再会を避けてきた。

 真魚に後継や修行からの離脱をそそのかしてきた身としては(それが彼女の為、と思いやってのことであったにせよ)、真魚が修行を遂行した今となっては、眩しさすらおぼえ、顔を合わせづらくもある。

 妻を娶り、寺を切り回し、かつての無頼僧侶の汚名を返上した現在、昔、肉の交わりを結んだ真魚とまみえるのは、気が重かった。

 しかし、私も社会人、ゴタクを並べ、ワガママを通して、逃げ回り、最低限の礼を失するわけにはいかない。

 これも義理、と割り切ってこその大人だ。素知らぬ顔で式の座に連なり、全ては流れに身を任せよう。



「貴方、H寺さんの式には出るんでしょ?」

と悦子は屈託なく訊いてくる。

 妻は勿論、私と真魚の関係を知らない。妻だけではない。私たち二人の関係を知る者は私たち二人だけだ。

 そして、その「思い出」を誰にも口外しないまま、墓まで持っていくつもりだ。少なくとも私はそうする。

「ああ、出るよ」

 私は手酌で呑みつつ、答えた。

「そう」

とスケジュールの確認を終えた悦子は、

「ねえ」

と艶っぽい表情をする。ノーメイクのまま、十代の娘のような顔や肌を保ち続けている妻が、私には驚きであり、自慢であり、ちょっと不気味でもあった。

 悦子のねだり顔に、私は憮然と、

「また、その話か」

「ねえ、いいでしょ?」

「何もそこまでする必要はない」

「でも・・・せっかく得度したのだから・・・これじゃ生殺しよ」

 悦子は煩わしそうに、パーマのかかった肩までの髪に、手をあてる。



 悦子は先々月、得度を済ませていた。

 幼い頃から仏の教えに興味があり、仏教美術を愛好し、だから、僧侶の私との結婚話にも積極的だったのだ。

 しかし、僧侶の妻という立場だけでは飽き足りず、私に強くねだって、せがみにせがみ、私もついに根負けして、得度だけだぞ、と渋々許したのだ。

 こうして、妻は公式に宗門の僧侶となった。

 我が宗門では未だ男社会で、この辺りでは女人の出家者は少ない(真魚などは例外に属する)。

 まして、僧侶の妻が夫の生前に出家する例など、この地域一帯では聞いたことがない。

 変な言い方になるが、なんだか夫の私が頼りなく思われてしまうような空気があった。

 その上、近頃の悦子は、

「ねえ、あたし、身も心もさっぱりとなって、仏様にご奉仕したいの」

と俗体を捨てたがっている。

 髪を断ち、僧服をまといたい、と言い募られ、私は狼狽した。妻が法体になることに抵抗があった。

 剃髪染衣した悦子を抱くなど、とてもできない。よそ目には私がそういった類のマニアかと邪推する向きもあるだろう。僧侶仲間からもひやかされるだろう。

 そういう情況を私は好まない。

 だから頑として、妻の剃髪は許さずにいる。

 妻も古風なところがあるから、夫の許可を得ずして、勝手に髪をおろすことはない。その点では私は安心している。

 しかし、毎日のように剃髪の許しを乞うてくる悦子に、私は大いに閉口している。

「H寺のお嬢さんだって剃髪してるんでしょ?」

という悦子に、

「彼女は住職が斃れて、男の後継ぎがいなくて仕方なく尼になったんだ。本心では尼になるのを嫌がっていたんだ」

 真魚の深いため息を思い出す。

 父親が病に臥し、まだ十代だった真魚は苦悩しつつ、それでも家族の為、心を決め、仏門に入った。その彼女の葛藤は、当時いつもそばにいた私が誰よりも知っている。

 得度にあたって、真魚の髪にバリカンを入れたのも私だった。



 悦子が不満そうに引っ込むと、私はイカの刺身を口に運び、温い酒をあおった。

 近々、五年ぶりの真魚と会うとなると、心穏やかにはいられない。

 彼女のこととなると、大人ではいられなくなる自分を、私は持て余している。感傷だったり、後悔だったり、倦怠だったり、虚栄であったり、不安だったり、躊躇だったり、疼痛だったり、不必要な生々しい感覚の虜囚となる。そう、まるで「あの頃」にタイムスリップしたかのように。

 また酒をあおった。



 晋山式の日は、どんよりとした怪しい雲行きだった。

 雨が降りそうで降らなそうな、降らなそうで降りそうな、私の心をそのまま反映したかのような煮え切らない空模様だった。

 H寺を訪(おとな)うと、真魚の母が玄関まで走って出迎えてくれた。

 真魚の母は私の手をとらんばかりにして、

「テイさん」

と私の修行時代の懐かしい呼び方で、

「テイさん、よく来て下さって」

と歓迎してくれた。

 真魚の母は夫住職の病臥以来、浮世のさまざまな辛酸を舐め、まだ五十代というのに総白髪になっていた。

 それでも、なんとか寺を守り抜き、今日の式を迎えることができ、心底嬉しそうに顔をほころばせていた。

「テイさんが骨折って下さったお陰で、ここまで漕ぎつけられたのよ。本当に本当にありがとう」

 何度もお礼を言われ、私も恐縮せざるを得ない。

 実際、私が真魚の後継のため、己が分際を越えて、あれこれ動いたことで、H寺の乗っ取りを目論んでいた幾つもの大寺の和尚たちの不興を蒙り、陰に陽に嫌がらせを受け、出世の芽も摘まれ、小さな自坊で逼塞を余儀なくされているのは事実だ。

 事実だが、これも自分で選択した結果だ。真魚たち一家に、苦情を訴える気も、恩を着せる気もさらさらない。

 本日はその大寺に生息している魑魅魍魎どもも、表向きはニコニコと出張ってきている。

 真魚の母は私を気づかって、私だけのために一室をあてがってくれた。

「真魚は今準備でおおわらわで・・・。後ほどテイさんにもご挨拶させてもらいますから。真魚もテイさんに会えるのを、楽しみにしてたのよ」

「楽しみに?」

 私は耳にひっかかった言葉を、オウム返しに呟く。

「ええ」

と真魚の母は無心に微笑してうなずいた。真魚の母のリップサービスだろう、と受け流すことにした。私が真魚に会いたくないように、真魚が私に会いたいはずがない。

 出されたお茶を飲んで、所在なく、壁に掛けられた掛け軸を、眺めるとはなしに眺めた。

 達磨大師の墨絵が描かれている。どこにでもありそうな月並みな画だ。

 大安心

と三文字、墨痕も弱々しげに――私の目にはそう見えた――書かれていた。

 大安心か、今の自分には程遠い境地だな、などとぼんやり達磨さんとにらめっくらしていたら、

 ガラリ

 襖が開いた。

 僧侶がいた。尼僧だ。

 華やかな袈裟に身を包んでいた。

 最初の数秒、一体誰かわからずにいた。

 大きな目でわかった。真魚!

「テイさん、お久しぶり」

と真魚は笑顔で挨拶してきた。

 媚態をつくることもなく、感情も抑制され、堂々とした風格のある尼僧に、大人になっていた。

 涼やかで、凛とした立派なその尼僧ぶりに、私の甘いノスタルジーは潮が引くように、あっけなく消え去った。

「本日はおめでとう。元気そうで何よりだね」

 私は一番当たり障りのない言葉を選んだ。

「テイさんこそ。結婚したんですってね。すっかり貫禄も出てきて」

 真魚も変わったが、彼女の眼から見れば、私もだいぶ変わったようだ。

 五年という歳月を改めて痛感する。

 きれいに剃髪された真魚の頭を見やり、

「もう髪は伸ばさないのかい?」

 私は話柄を転じた。

「今更どうだっていいよ」

 こっちの方が楽だし、と真魚は破顔した。彼女の「素」の部分が、ほんのちょっと顔をのぞかせる。

 髪については、私もうなずけるものがあった。

 修行道場で何年も坊主頭の生活を続けていたら、もうそれがごく自然なことになってしまい、道場を離れても、ふたたび髪を伸ばすのが億劫になる。剃髪の習慣が身に染みついてしまっていて、ついつい五日に一度、頭に剃刀をあてがう。

 だから我が宗門の僧尼はほとんど剃髪で通している。

「外出するときは、ウィッグをつけるし」

と真魚は言う。

 こんな他愛もない会話で、私と真魚は時間を埋めた。お互い、過去の話は避けた。

 そして、真魚は去った。

「じゃあテイさん、また式のときに。今日はありがとうございました」

と言い残して。

 私は厭というほど悟った。

 真魚のレールと私のレールが交差することは、もう二度とないのだ、と。

 私はお茶をすすった。お茶はすっかり冷えていた。ほんのり苦い。



 大寺の魑魅魍魎どもと同座する式の間は、針のムシロだった。

 かつては、いや、今も尚、H寺の利を狙って、舌なめずりしている妖怪たちは、その牙を押し隠し、

「これでこの寺も安泰だのう」

「立派な住職におなりなされ」

と真魚に甘い言葉をかけて、真魚も笑顔で応接していた。

 どうにも居たたまれない。私はどさくさに紛れて、そそくさと寺を辞去した。

 晋山式での真魚のヒロインぶりは、神々しく、私の眼に焼きついていた。

 が、一晩寝たら、すっかり忘却の彼方に押し流されていた。

 自分の中の「青年」もようやく消え去ってくれたのだろうか。



 晋山式の夜は、燗酒を過ごしてしまい、

「飲みすぎよ」

と悦子にたしなめられた。

 酔余の勢いで悦子を抱こうとしたが、潔癖な妻にピシャリとはねつけられた。

 きまり悪い思いをして、私は寝た振りをして、そのまま本物の睡眠に落ちた。



「あたし、そんなに坊主頭、似合わないかしら」

と悦子は今日もまだ食い下がってくる。

 もう説得するのも物憂い。

 剃髪を熱望する妻と何十回も論戦し、そのたびに斥けてきたが、悦子は不死身だった。

 論破しても論破しても、結局リセットされ、まだ一からの議論になる。キリがない。

 私はうんざりした。女人とはつくづく度し難く、理屈の通じない生き物だ。釈尊が女性の出家を認めたがらなかった理由がわかるような気がする。

「もし必要ならば、あたし、尼僧堂に入門してもいいわ」

とまで悦子は言うが、妻に何年も修行に出られたら、子宝はますます遠ざかる。

 悦子は或いはもう、心の奥底で子供を諦めているのではないか、ふと思った。

「どう?」

と悦子は髪を左手で束ね、右手で前髪をあげてみせ、

「坊主頭、似合わない?」

とにじり寄ってくる。

 正直、似合う、と思った。心臓がトクンと鳴った。髪をひっつめ、疑似坊主頭になった悦子は、例えば森蘭丸といった美童のような凛々しさと色香を漂わせていた。

 私は頓悟した。

「わかったよ」

 ついに妻に白旗をあげた。

「それでお前の気が済むのなら、そうしよう。スッパリと尼僧姿になって区切りをつけるのも、悪くはないか。どれ、俺がハサミを執ってやろう」

「嬉しい!」

と悦子は、小娘のようにピョンピョンと飛び跳ねた。こんなに喜んでいる妻を見たのは、もしかしたら結婚以来はじめてかも知れない。

 変わり種の妻を貰ってしまった、と我がことながら苦笑を禁じ得ない。



 悦子は夫の気が変わらぬうちにと思っているらしく、いそいそと剃髪の準備をした。私も手伝った。

 畳の上に新聞紙を敷き、真ん中に座布団、そこに妻を座らせ、私は用意の羅紗鋏で、ザクザクと、その艶やかな髪を刈り獲っていった。

 肩までのパーマ髪をつかんでは、ジョキジョキと鋏を入れる。

「まだシャンプーがだいぶ残ってたっけかな」

 髪を落とすに際しての妻の未練は、それだけだった。後はすこぶる満足げに、私に髪を譲り渡していた。

 バラバラと、化学的に加工された巻き毛が、新聞紙に散っていった。

 髪を極限まで短く切り詰めていく。

 悦子はいつしか座布団の上、四つん這いになっていた。

 その頭からピンピンと生え、反り返っている残り毛を、掃討戦よろしく、私は刈り込んでいく。

 そこには、長年身体を交わし合った男女の阿吽の呼吸が、確かにあった。

 悦子はほのかに微笑を浮かべながら、髪を切られている。どこか、淫らなオーラが漂う。そう感じるのは、私の邪気のせいだろうか。

 まだらの五分刈りになった悦子は、

「頭が軽くなったわ」

とさらに笑顔になる。

 次はいよいよバリカンだ。

 私はこらえ性もなく、その震える刃を妻の髪に突き入れた。

 ジャアァァアアァ

 まばらな髪が勢いよく弾け裂けた。

 激しい高揚をおぼえる。

 わずかに残った髪もバリカンの暴虐により、押し運ばれ、散り落ちてゆく。

 真魚の髪を刈ったときのことをフッと思い出す。

 真魚、そして悦子、愛した女たちをこうやって僧形にしてしまう、それが私のさだめなのだろうか。

 毛を刈る感触が、唸るバリカンをすり抜けて、手に届く。それがひどく快感だった。真魚のときと同じだ。

 バリカンを動かすたび、髪がめくれ、浮き、剥がれ、バリカンの刃を伝い、ボディを伝い、私の手にも短い髪がたっぷりと貼りつく。

「ああっ」

 虎刈りの妻は小さく嬌声をあげた。バリカンのバイブレーションに「感じて」いるのだ。

 はからずも明るい場所で、妻の「雌」としての面を見せつけられてしまった。

 剃髪という行為は、こんなにセクシャルなものだったのか、と戸惑う。

 戸惑いつつも、私の中、とてつもない獣欲が湧いた。

 情動のおもむくまま、妻の頭を丸く整地していく。

 右、右、左、左、と、順々に、順々に、刈っていく。バリカンを縦横に走らせる。

 頭はオセロゲームのように、黒から白へと転じていく。

「ん・・・あ、あ、ああ・・・」

 妻がまたヨガリ声をあげた。こいつに俺の子を孕ませたい!という強烈な情念が湧きあがった。

 刈り終えた。

 妻は四つん這いのまま、肩で息をしている。かなりコーフンしていた。私も同じだ。

 妻はいわゆる小顔なので、髪を落とすと、その頭部はますます小ぶりになった。

 妻を座り直させ、最後の仕上げにとりかかる。

 シェービングクリームはないので、ソープでミリ単位に縮めた毛を泡立てる。

 そして、シックで剃り下ろした。

 ジジ、ジッ、ジジジー

 ジ、ジジー、ジッ、ジジー

 妻は正座の太股をすり合わせ、剃髪の快感に身を震わせている。なんというはしたない尼なのだろう。

 不意に「お仕置き」したくなった。

 わざとゴリゴリ乱暴に頭を剃りたてたら、妻は飛び上がらんばかりの激痛に、苦悶の表情を浮かべ、それでも声を出さず耐えていた。

 私はアメとムチを交互に与えつつ、とうとう妻の頭から髪という髪を駆逐した。1本も残さず、1mmも余さず剃り尽くした。

 剃髪した妻は若返り、いっそ、幼くなった、という表現が相応しいほどになった。笑顔になると、妻は一層あどけなく私の眼には映った。

 私は悦子の頭を濡れタオルで拭った。石?の泡や毛屑を丹念にふき取ると、妻の青々とした頭皮に口づけした。ぬめり、とした感触を、唇は感受した。

 妻も私の思いがけぬ行為に、

「きゃっ」

と首をすくめていた。

「美しくなった!」

と私が本音をポロリと口にすると、

「お世辞なんていいわ」

と妻は一旦微苦笑を経由して、

「これでようやく尼僧になった、っていう実感が湧いたわ」

とニッコリ笑った。

 私は洗面所に行き、手に付着した髪の毛を洗い流した。これまで愛でてきた妻の髪は、排水口に消えていった。



 その夜、私は狂おしく妻を求めた。妻は私以上の肉食獣ぶりで私を求めた。



 翌日の晩酌の肴は、私の好物の馬刺しだった。

「今日、デパートで九州の物産展をやっててね」

と妻は言う。

「高かったろう?」

と私が目を丸くすると、

「まあね、でもたまにはいいじゃないの」

と妻は微笑した。坊主頭に毛糸帽をかぶっている。

 風邪をひかぬように、という私の助言に素直に従っているのだ。

「実はね――」

と妻は帽子を剥ぎ取ってみせた。前頭部のあたりが、プクリと赤く腫れあがっている。

「タンコブじゃないか。どうしたんだ?」

「昼間、つい帽子をかぶるのを忘れちゃって、本堂の掃除をしていたら、柱にゴツンって」

 妻は茶目に舌を出してみせる。

「ドジだなあ」

 私は大いに笑った。

「笑いすぎよ」

と妻はまた小娘のように頬をふくらませて、おどけて私をぶつ真似をして、身を翻し、台所へ引っ込んだ。

 私は目尻をさげ、チビリと燗酒で口を湿し、馬刺しを口に運んだ。



                     (了)






    あとがき

 リクエスト小説の掉尾は、「真魚の続編を」とのことで、書かせていただきました♪
 おそらくこれが平成最後の小説になるでしょう。
 「真魚」はもう12年前(!)の小説なんですが、迫水の中ではジョーカー的な作品でした。
 あまりにも当時の自分の気持ちを、生々しくぶち込み過ぎていて、他の作品とのリンクも許さず屹立させ、それどころか、読み返すことすら全くありませんでした。
 この小説を書いた直後、人生レベルで色々なことが降りかかってきたし・・・。完全にアンタッチャブルな存在でした。
 そうしたら、今回「真魚の続編」のリクエストを頂き、すごいビックリしました! 同時に、「この人、通だな」とも思いました(笑) まさか12年も前のマニアックな小説のことを覚えていて下さっているとは・・・。
 ありがたいと感謝しつつ、手袋を投げられたような気にもなって(笑)。
 それで「真魚」、十数年ぶりに読み返してみました。
 自分で言うのもアレなんですが、今より上手い(笑)。しかも断髪描写もしっかり書いてる(笑)。そういや当時、「最高傑作」ってうめろう氏相手に熱弁振るってたな(^^;)
 しかも、ラストで決着つきまくっているので、これの続編なんて無理だ、と改めて頭を抱えました。
 しかし、平成も終わろうとしている現在、この小説も(当時の自分も含め)供養(?)してあげないと、と自分本位すぎる使命感に火がつきました。
 前作越えは不可能でも、真摯に「今、自分がいる地点」を書こう、と決意するに至りました。
 よくよく考えたら、こんなスタンスで断髪小説に取り組んでるのって自分ぐらいだろうな(呆)、と、このあとがきを書いていて思いました(笑)。我ながら、めんどくさいヤツだ(^^;)
 しかし、やってみるものです、リクエスト企画。
 常に〆切に追われている感は、遅筆の自分にはキツいんですが、もしリクエスト企画やってなかったら、きっと「真魚」はサイトが終わるまで、半永久的に封印されたままだったでしょう。
 そうして今回出来あがったものについては、前作と比べると、「凡作」といったところでしょうか・・・。ヒロインは語り手の嫁さんに代わってるし、真魚全然出てこないし、ちょっと逃げたかなあ(汗)という後ろめたさもあるのですが、書けることを誠実に書いたつもりです。
 良い経験を積ませて頂きましたm(_ _)m
 今回、リクエスト企画、初めてのチャレンジが果たせたし、学ぶことも多く、とてもやってみて楽しかったです(^^)
 たくさんのリクエスト、ありがとうございました! 選に漏れちゃった方、本当にごめんなさいm(_ _)m
 今年のうちにもう一回やりたいです(*^^*)
 長々と語ってしまい申し訳ありません(^^;)
 令和になっても、どうか懲役七〇〇年をよろしくお願いいたします♪♪




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