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ライバル?!


「まだ泣いてるの?」

と清子が呆れ顔で渡してくるハンカチを握りしめ、

 チーン

と鼻をかむ。

「あんなのでよく泣けるわね。可南は安上がりにできてるのね」

「うるっさい」

 また鼻をかむアタシ。どうにも涙がとまらない。

「そもそもお涙頂戴の映画や舞台なんて二流以下よ」

 清子は淡々としたもの。

 清子を洗脳すべく、宝塚の舞台にひきずるように連れてきたが、アタシばっか泣いちゃって、う〜、作戦大失敗。

 大体が冷血人間の清子を感動させようとしたことが、間違いだった。

「そのハンカチ、ちゃんと洗って返してよね」

「わかってるって」

 どうせひとつ屋根の下で暮らしているのだから、今夜にでも水洗いして、すぐ返せる。



 アタシ、能條可南(のうじょう・かな)は幼い頃、事故で両親を亡くし、遠縁にあたる山寺の庵主様にひきとられた。そこで、寺の後継者として、手塩にかけて育てられた。

 庵主様の愛情を一身に受けて、成長した。

 いずれは出家して尼僧になる、という運命を子供なりに受け容れていた。

 ところが小学五年生のとき、「やつ」は現れた。



 細木清子(ほそき・さやこ)。アタシと同じ学校、同じ学年、同じクラスのこの女は「尼になりたい」と言い出し、うちの寺の門を叩いたのだった。

 断って!とアタシは祈るような気持ちだったが、庵主様はあっさり清子の入門を許した。

 一体全体どういうことなのか、アタシには庵主様の心がわからなかった。現在(いま)でもわからない。

 清子はほぼ完璧だった。勉強は常に学年トップだったし、スポーツも万能で、その上、ギリシャ彫刻を想起させる美貌の持ち主だった。背丈もモデル裸足の高さだった。

 「ほぼ」完璧と言ったが、清子にも欠点はあった。

 他人の心に対して鈍感ということだ。

 だから、協調性が皆無で、接する人によっては、傲岸で不遜な印象を与えた。

 そういうこともあってか、いつも一人でいた。けれど、本人は一向に気にする様子はなかった。むしろ好んで孤高を貫いているフシが、うかがわれた。

 アタシとしては、一ツ家で暮らしている以上、この清子の存在を無視するわけにはいかなかった。

 周囲もアタシと清子を比較している。そんな視線が気にならないはずがない。

 他人の愛や関心を欲するアタシは、清子に対してどうしても気負わずにはいられなかった。

  一生懸命勉強を頑張った。けれど、トップはいつも清子。アタシは2位どまり。スポーツでも男子人気でも、アタシは清子の後塵を拝し続けていた。

 お経だって大先輩のアタシより清子の方がよく諳んじていて、清子の方がうまかった。澄み渡った美声で、節回しも巧みな清子の読経は、いつも檀家さんに褒められていた。

 褒められても、清子はちっとも嬉しそうではなかった。そういうトコも、凡人のアタシは気にくわなくて仕方なかった。

 庵主様はそんなアタシにも、清子にも仏様のように平等に接してくれていた。

 例えば、髪。

 アタシは物心ついた頃から、庵主様に散髪してもらい、髪を短くしていた。

 清子は入門時から長いお下げ髪だった。

 アタシも清子みたく髪を伸ばしたい、と訴えると、庵主様は許可してくれた。ちょっぴりさびしそうな表情(かお)をしていたっけ。



 この髪を、今春、バッサリと剃り落とすことは確定済みだ。

 高校を卒業したら、得度して、宗門の尼僧学林に入る。

 無論、清子もだ。ヤツとアタシはどれだけ深い因縁で結ばれているのだろう。

 尼僧学林でもアタシは清子の背中を見て走るのだろうな、と考えればゲンナリする。

 最近では清子は、ティーンズファッション雑誌の読者モデルをしている。結構人気があるらしく、ファンレターまでもらっている。正式に専属モデルにならないか、と誘われている。

 が、清子は首を縦に振らずにいた。

「私は仏様の道を邁進する覚悟なので」

と取りつく島もない。で、いつしか読者モデルの仕事も辞めてしまった。

 アタシには清子の気持ちがわからない。

  万能で美人で帰る家だってある。貰いっ子でこの庵寺に骨を埋めるしかないアタシとは、まるっきり違う境遇だ。

 清子がモデルの話を断って、アタシはガッカリした。清子のためではない。この寺に新尼は一人で十分なのだ。

「清子、美人だし、モデルの仕事合ってると思うんだけどなぁ」

なんて、おためごかしを口にしたりもした。

 が、清子は、

「モデルなんて、あんな虚栄に満ちた世界には入らないわよ。考えただけでゾッとするわ」

と肩をすくめていた。

 読者モデルも、小遣い稼ぎと割り切っていた。

 美人だからモデルになれば、というアタシの助言もあながち巧言ではなく、アタシは実際、清子の美貌にしばしば心を奪われた。男だけじゃなく女だって、きれいな(かわいい)女性に惹かれることはあるのだ。

 心の片隅で、美しい清子を愛でたい、という気持ちは、認めたくはないが、確かに存在していた。

 高い鼻梁、形の良い唇、聡明さを証だてる二重まぶた、それらのパーツが、雪のように真っ白な顔に塩梅よく配置され、ギリシャ風の古典美を具現化している。その顔に素晴らしいスタイルの身体、長くキューティクルな黒髪、とくれば、それはもう、誰だってウットリせずにはいられない。



 高校も卒業式間近で、学校も自由登校になった頃、

「清子ってさあ、なんで尼さんなんかになりたいわけ?」

とずっと胸の内にくすぶっていた疑問をぶつけてみた。

 尼さんになれば、制約も多いし、結婚も子供も半ば諦めなくちゃいけない。

 アタシのストレートな質問に、清子はちょっと考え、

「お釈迦様が私のタイプだからかな」

と言って、笑って、ペロリと舌を出した。珍しく茶目なリアクションだった。そして、

「可南はどうして尼さんになりたいの? 仏様を信仰してるの?」

と質問を返してきた。今度はアタシの方が考えた。

「アタシは小さい頃からこの庵寺の跡取りとして育てられたから・・・大きくなったら尼さんになることに、何の疑いも持ってなかったし・・・だから、他の生き方なんて、想像すらつかないよ」

と正直なところを打ち明けた。何故「ライバル」にこんな身の上話をしているのか、自分でもわからなかった。

「フーン」

と清子は意外なことを聞いたといった顔で、まじまじとアタシの顔を覗き込んだ。美しい顔が超至近距離に。不覚にもドキドキしてしまった。

 清子にしてみれば、アタシの動機の方が理解不能なのだろう。



 その翌日だった。

「可南、デートしようよ」

 清子は出し抜けに言った。

「はあ?」

 アタシはポカンとした。この七年間、清子と遊びに出かけたことなど、一度たりともなかった。

 戸惑ったが、二回「デート」するハメになった。

 一回目は清子の行きたいところ、二回目はアタシの行きたいところ、と話は決まった。

 清子がアタシを連れていったのは、庵寺の最寄り駅から40分ほど電車で行った街中にある映画館だった。えらくオンボロのアングラっぽい映画館だった。

 そこで五十年以上前の東欧の映画を観た。

 画面は白黒だし、恋愛もアクションもなく、意味もチンプンカンプンだし、ひたすら暗く、とにかく退屈以外の何物でもなかった。

 清子は瞬きも忘れて、熱心にスクリーンに見入っていた。この映画のどこが面白いのだろうか。その清子の横顔が、映画よりずっとアタシの興味をひきつけた。

 で、二回目はアタシの大好きな宝塚歌劇のステージに行ったのだが、最初にいった顛末となった。清子はまったく心を動かさず、アタシばかりが泣いた。

 「デート」は結局のところ、お互いの隔たりを再確認するだけに終わった。

 でも、価値観が同じ人に惹かれるように、価値観が違い過ぎる人にも、人間往々にして惹かれることだってある。実際アタシはそうだった。外見だけじゃなく、清子の内面も気になるようになった。それを頑として認めたくない心理もまた、同時に在る。



 卒業式。渡された卒業証書が尼僧道への片道切符のように思えた。

 得度式は庵主様の意向で、ごくごく内輪のみで行われることが決まっていた。

 親のいないアタシは伯父夫婦が参列する。

 清子側の参列者は、何故か両親とも出席せず、親類の叔母さんのみが来るという。

「なんで清子のとこは、ご両親が来ないの?」

と訊いたら、案の定訳ありだった。

「貴女に言ってもどうしようもないけれど、色々事情があるのよ」

と清子はため息をついた。ため息をつく清子なんて初めて見た。

 清子はポツリポツリと話し始めた。

「私は父親がよそで作った子なの」

 だから、今の母親は本当の母親ではない、と清子は言う。

 なるほど、と腑に落ちた。

 だって、清子がこの庵寺に来て以来、清子の「母親」が寺を訪ねてきたのは、たったの二回きり、それも清子にはやたら冷然としていて、清子の方でもよそよそしく、ろくに話もせずまま、さっさと帰ってしまっていた。

 清子の「母親」は自分の実子ばかり可愛がり、清子を露骨に疎んじた。

 冷え切った家庭に耐え切れず、クラスメイトだったアタシを見て、自分も寺に入って尼になろうと決めたという。

 出家話を告げたら、「母親」は小躍りせんばかりに、「それがいいわ」と大賛成したらしい。無論世間体をはばかって、家族は反対したが、清子の決心が固くて、と周りには吹聴していたそうだ。ひでー話。

 式に参列する叔母なる女性が、

「私の本当の母親なの」

と清子は打ち明けた。

「病弱でね、旅館で住み込みの仲居をしてて、私を引き取る余裕もなくてね。でも、いいわ。尼になる方がまだマシよ。男なんてろくでもないってことは、父親見てればわかるしね。結婚なんかする気もおきない」

「なんで――」

とアタシは訊いた。

「なんで、そんな大切な話、アタシに教えてくれたの?」

 清子は一瞬たじろいだ。自分でも説明のつかない感情に、突き動かされていたのだろう。

「あんな舞台で大泣きしてる貴女なら、同情して泣いてくれるかなぁ、と思ってね」

と皮肉で取り繕おうとする清子に、

「母親が生きてるだけ清子の方がまだ幸せだよ」

 ポロリと本音をこぼすアタシ。

 清子は、ハッとしたようだったが、

「明日は得度式よ。もう寝るわ」

と踵を返し、自室へと去って行った。



 式直前になって思わぬアクシデントが起きた。

 アタシたち得度者は、式の途中で別室に移り、そこで、出張してきてくれている床屋さんに頭を丸めてもらう段取りだったのが、

「播磨さん(床屋)がインフルエンザにかかってしまってねえ」

 だから、アタシが清子の髪を剃り、清子がアタシの髪を剃るように、との庵主様からの指示が下された。

「ええ?!」

 アタシは勿論、クールな清子までが目を剥いて動転している。

「こんなんになるんだったら、あんたらに許すんじゃなかったね、長い髪」

と庵主様はボヤいていたが、案外内心ではこれはアタシと清子の溝を埋める、良いきっかけになるのでは、との深謀遠慮があったのではないか。

「バリカンと剃刀は用意してあるから」

と庵主様は言い、さっさと得度式の準備に行ってしまった。

 アタシと清子は顔を見合わせた。清子はキツネにでもつままれたような顔をしていた。きっとアタシも同じ顔をしていたに違いない。突飛に過ぎる話だ。

 清子の実の母親を、アタシはこの日初めて見た。

 清子の話を聞いていたので、美しいが(さすがは清子の母親だけのことはある)、幸薄そうな印象を受けた。

 彼女は式の前から泣きっぱなしだった。

「サヤちゃん、ごめんね、本当にごめんね」

と涙にくれて詫びる母に、清子は優しくその肩を撫でて、

「大丈夫、泣かないで。私が自分で決めた道なんだから」

と慰め、そんな娘の心遣いに、母はまた声を忍んで泣いた。



 得度式が始まる。

 儀式は粛々と進行する。

 アタシと清子は剃髪のため、中座する。

 剃髪の室に向かう。足が震えて仕方なかった。清子は普段の冷静さを取り戻し、楚々と歩をすすめていた。やはりコイツには敵わない。

 剃髪の室に入る。

 二人、緊張がとけ、

「恨みっこなしだよ、清子」

「わかってるわよ」

「せーの、ジャンケンポン!」

 アタシはチョキ、清子はグー、嗚呼、こんなときにまで負けてしまうとは・・・。

「三回勝負にしない?」

 狼狽し、怖気づくアタシに、

「ダメよ、皆を待たせてるんだから」

と清子は容赦がない。敷き詰められた新聞紙の上にアタシを座らせ、用意されていたケープを巻いた。

 まとめていた髪をほどく。清子も時短のため、同時に素早く髪をほどいていた。

 清子がバリカンを握る。

 アタシは神妙にファーストカットを待つ。

 ウイイィィン、ウィイィィイイン、

とバリカンが鳴り始める。

 身体をこわばらせるアタシの肩下20cmの髪に清子はバリカンをあてる。

 そして、後ろから刈り始める。

 ジャアアアァァアアァアァ、ジャアァアァァアア

 バリカンがアタシの後頭部を猛然と上昇していく。刈られた髪が瀑布のように、ケープに雪崩れ落ちる。

「ううっ・・・」

 アタシは歯を食いしばって、バリカンの侵攻に耐える。

 何をやらせても器用にこなす清子だから、バリカンの扱いも巧い。無駄なくテキパキと断髪をすすめてゆく。

 首筋に清子の息があたる。なんかメッチャ昂奮する。まさか、清子の手で僧形を与えられるとは、今日の今日まで1mmも考えちゃいなかった。

 小憎らしいヤツだが、清子になら、まあ、安心して頭を預けられる。

 清子はアタシの頭に間断なくバリカンを走らせる。

 頭からどんどん髪がこそげ落とされる。

 ウイイイィィイン、ジャアアァアァァ、バサバサッ、

 ウィイィィイイィン、ジャアアァアァァア、バサバサッ、バサッ

 たちまち丸刈りにされるアタシ。軽っ! 寒っ!

 長い髪を刈れるだけ刈ってしまうと、清子はミリ単位で縮められているアタシの髪を水で湿し、今度はジレットで剃り込んだ。

 ジジジイィィージッジッ、ジジジイィィィイ――

 頭の地肌が鉄器の舞踏に悦んでいる。

 しかし、ここまでくると、悲壮感よりなんだかゲーム感覚の方が強くなる。

「夏目雅子の三蔵法師ばりの美僧になればいいけど」

 アタシの軽口に、

「例えが古い」

 清子のツッコミがさえる。

「うふっ」

とアタシがつい首をすくめたせいで、清子の手元が狂い、剃刀が頭皮を傷つけてしまった。

「あっ!」

「大丈夫よ」

 清子はアタシの裸んぼの頭に唇をあて、血をすすり、傷口に舌をあて、舐めた。

 アタシの頬が真っ赤に染まった。くすぐったい快感が全身を貫いた。腰砕けになる。

「ああ・・・」

「身の程知らずなことを言うからよ」

とたしなめるようにジョークを囁きつつ、清子はアタシの坊主頭に舌を這わせる。リップクリームを塗った唇の潤いを、直に感じる。どうにかなってしまいそうだ。

 スキンヘッドの頭をプルプルさせながら、悶えるアタシを焦らすように、

「はい、治療はおしまい」

 清子は唇を離し、ジレットで残りの髪を剃りあげると、

「時間がないわ」

とさっさとアタシからひったくったケープを、自分で巻いて、新聞紙の上、端座していた。

「イジワル」

とアタシはムクれる。そして、バリカンを握る。

 清子の髪、本当に綺麗だ。天使の輪まであるキューティクルな髪、これにバリカンを突き立てるなんて、ひどく罪深い行為のように思える。

「早くやっちゃって」

と促され、バリカンのスイッチを入れる。

 ウイイイィイィイン、ウィイィィイイィィン

 額の分け目にバリカンをあて、おそるおそる動かす。

 ジ、ジ、ジャァァアアァアア

 バリカンはゆっくりと髪を引き裂き、ツムジまでかき消した。大量の髪が、バサバサッ、と新聞紙を叩く。

 やっちゃった〜!とアタシの方が焦ってしまう。

 逆モヒにされても清子は涼しい表情。肝が据わっている。見事だ、としか言いようがない。

 勇を鼓して、一刀、もう一刀、とバリカンを前頭部に挿し込んで、

 ジャァァアアァアア、バサバサッ、バサッ、バサッ、

 左右の髪の間隔はみるみる広がっていく。バリカンのパワー、すげー!

 清子はお侍さんの月代みたいな頭になる。

 恐れは消え、なんだか楽しくなる。滅多にないチャンスだしね。

 清子はあいかわらずノーリアクション。黙ってアタシに頭を委ねてる。それが物足りなくもある。

 バリカンは次は後ろから。

 長い襟足をひたすら刈る。刈って刈って刈りまくる。

 ジャアアァアァァ、ジャアアアァアアァアァァ

 ジャアァァァアアァア、ジャァァアアァア――

 後頭部もビッシリと刈り詰めていく。

 長い髪がバリカンの刃にひきつれて、

「あっ」

と思わず声をあげる清子。そうこなくちゃ。

 実際、アタシ不器用だから、刈られている清子は相当な忍耐を強いられているはず。

 後ろの刈り道と前頭部の月代がつながり、

「開通〜」

とアタシはハシャぐ。

「遊ばないでよ」

 とうとう清子は苦笑した。

「だって楽しいんだもん、こんな長い髪を自由に刈れるなんて」

「手を動かす」

 あいもかわらずエラソーな清子が憎たらしくて、アタシは「お仕置き」に、バリカンでコヤツの頭をグリグリしてやった。

「あっ、あっ! あっ!」

 半剃りの頭をのけぞらせて苦悶する清子。愉快、愉快。でも、なんか、とてつもなくエロいんだよなあ。

 とどめに両サイドの髪を刈りあげる。

 ゆでたての麺みたいにバリカンの刃先にブラ下がる髪を、振り落とし、振り落とし、じっくりと刈り込んでいく。

 ジャァァアアァアアアア、ジャジャアァアアアァァ、

 バサッ、バサッ、バササッ、バサバサ――

 耳も出る。ウナジも出る。オトガイの黒子も露出する。

 すっぽりと丸坊主に仕上げてやる。

 清子はポーカーフェイスに戻っていた。

 けれど、左目からポロリと涙が一滴、こぼれる。清子だって年頃の女の子、髪を落とされて悲しくないなんてことは絶対にない。

 アタシは清子の顔に唇を近づけ、涙を吸ってやった。

 そうしてアタシたちは、水が低きに流れるように、ごくごく自然に、でもギコちなく、唇を重ねた。

 清子の唇は甘かった。この世にこんなに甘いものがあったのかと驚くくらい。

「可南・・・」

「清子・・・」

 言葉はもう要らなかった。



 それから、アタシはジレットで清子の頭を、剃りこぼった。

 清子のデリケートな頭の地肌を、傷だらけにしてしまった(汗)

 頭を丸めた清子は、名前通り、清らかな美僧に化(な)った。美人は得だな・・・。

 切り落とした髪は、一部とっておいて、仏前に捧げる。そう庵主様に指示を受けている。

 が、二人の切り髪はセルフィッシュな断髪の結果、ゴチャゴチャと入り混じってしまい、どれがどっちの髪だかわからなくなっていた。

「これ、清子の髪じゃないの?」

「私の髪、こんな傷んでないわ。可南の髪でしょ」

「し、失礼な!」

 大量も大量、大大量の切り髪を捜索するスキンヘッド娘二人、シュールな光景だ。



 僧形になって本堂に戻ったアタシたち二人。

 清子の母は娘が初姿を現すなり、わっ、と泣き出していた。

 僧服を与えられ、法名を与えられ、得度の式は終わりぬ。

 式後、アタシたちは互いの坊主頭を愛で合った。

 剃ったばかりの頭はまだ水気を帯び、ぬめぬめしていたが、それがかえって双方艶めかしく、二人とも恍惚と触れ合い続けた。

「今夜、私の部屋に来て」

と清子が囁く。

「行くね」

とアタシは囁き返した。

 「ライバル」からの「姉妹」。劇的な一日。

 まったく、得度早々、とんでもない仏弟子もあったものだ。アタシは首をすくめる。清子もまぶしそうな表情(かお)をしていた。きっと同じことを思っているに違いない。


               (了)






    あとがき

 リクエスト小説第三弾です♪ 今回はあのテンプラー星人様のリクエストです♪♪
 テンプラー星人様のPixivでのご活躍、存じあげており、作品も拝読させて頂いておりますm(_ _)m やはり尼僧モノに惹かれ、繰り返し読んでおります(*^^*) まさかこのサイトに来て下さっていたとはΣ(・ω・ノ)ノ!<ビックリです!! リクエスト、ありがとうございます(*^^*)
 「尼僧」「得度式」「百合」との御所望で、今回書かせて頂きました。
 元々サイト開設の頃から頭の中にあった(そして、数行で投げ出した)作品とだいぶシンクロ率が高そうなので、再トライしてみました(百合描写濃いめで)。思いの程すんなり書けて、安堵しております。
 こういう恋愛モノ(?)って、結構難しいです。結ばれるまでの両者の心の動きとか、甘さと苦さの配分とか。。
 今回はリクエスト大会だったので、レストランなどで「注文したのに、料理が全然運ばれてこない!」状態は避けたく、でも、やっつけ仕事みたくなるのも違うと思うので、いつもとやり方を変えて、スピードアップして書いております。
 しかし、どうしても時間がかかってしまう〜(汗)
 どうぞ、寛大な御心でお付き合い下されば嬉しいです(*^^*)




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