Punishment to the losers〜魔女の消えた町にて〜
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その戦争が行われたのは、主に北松永町の旧商店街だった。 あの「北松永の魔女」が突如消えてから、裏の世界ではわずかな空白期があり、その間隙をぬって、二つの不良女子集団が台頭した。 獅子堂乱子(ししどう・らんこ)率いるストリートファイティングウーマン(以下、SFWと呼ぶことにする) そして、魚住麗羅(うおずみ・れいら)擁するストレイキャッツ である。 この二大勢力の熾烈な諍いに、町の善良な一般層は大いに悩まされた。 そんなことなどお構いなしに、両者はしのぎを削りに削った。裏の覇権をめぐり、それこそ流血沙汰も日常茶飯事の抗争劇を繰り広げた。 激しい気性の持ち主で、「闘神の化身」とまで恐れられる獅子堂乱子と、沈思黙考タイプで、百戦錬磨の魚住麗羅、共に中学生ながら、北松永最強の烈女ふたり、どちらも譲らない。 戦いは半年以上も続いた。 ついに後に「七ヶ月戦争」と語り継がれる戦いに、終止符が打たれる日が来た。 最後は獅子堂乱子と魚住麗羅の直接対決――タイマンに双軍の運命は委ねられた。 一騎打ちの果て、獅子堂乱子が勝った。 魚住麗羅は敗れた。 獅子堂乱子の卑劣な策略の結果だった。 組織をあげての諜報活動の末、かつての「北松永の魔女」の現彼氏である左右田光晴(そうだ・みつはる)という少年の存在をつきとめ、接触し、 「不良グループ・ストレイキャッツの魚住麗羅は、アンタの彼女に狙いを定めて、危害を加えようとしている」 とまったくのデマを吹き込み、そそのかし、人の好い光晴を味方に引き入れたのだ。 光晴は拳法の達人だった。幻の秘技「翔穹操弾(しょうきゅうそうだん)」を会得している使い手だ。 決闘で乱子が形勢不利となり、 「乱子、テメエの負けだ。観念しな」 と拳を振り上げる麗羅の足に激痛が走った。 「うっ!」 光晴が物陰から飛ばしたツブテが、麗羅の大腿部に命中したのだ。 「封印した邪拳、まさか二度も使うことになろうとは・・・」 と呟き、光晴は静かにその場を去った。 麗羅はよろめき、すかさず乱子が反撃。たちまち形勢は逆転。 「乱子、汚え真似しやがって・・・」 「は? なんのこと? わけのわからない言いがかりつけんな。見苦しいよ」 乱子は麗羅の首を、得意の柔道技で締め上げる。 「うっ・・・うう・・・」 ガックリ。麗羅は落ちた。 この瞬間、長い争いの決着はついたのだった。 「さて、負け犬ども」 乱子は血の気を失った麗羅たちを睨める。 澱んだ空気が漂う、うちっぱなしのコンクリートの壁に囲まれた空間。ダンスフロアのようなだだっ広さだ。薄暗い屋内の真ん中には大きな鏡と椅子が置かれていた。 ここは北松永町の旧商店街の一角にある、もぐりの床屋だ。 「敗者がどうなるかはわかってるね」 そう、この大戦で敗者に課せられる罰、それは―― 更生 である。 敗者は即、不良を引退して、マジメな一般生徒になること という約定が両者の間に取り交わされていた。 麗羅はすでにピアス、ネックレス、腕輪、などの装身具を没収され、特攻服も脱がされ、ジャージ姿で、このもぐり床屋に引き立てられていた。 「まずは見た目から、堅気になってもらおうじゃないか」 と乱子はガラガラヘビのような目を細めている。 「髪型もちゃんとしなくちゃな」 と喜悦を押さえかねている。彼女の周りにはSFWの幹部連もいて、皆、これから行われる麗羅の敗北の儀式を、意地悪く笑いながら待っている。 麗羅の配下だった者たちも立ち会わされ、 「そ・・・総長・・・」 と悔し涙を流している。 麗羅の美しい栗色のロングヘアー、戦闘のときも翻り、敵味方の目を奪ってきた、その長い美髪が、今まさに断ち切られようとしている。 麗羅はまだ誇りを失ってはいない。鏡に映るジャージ姿の自身を、毅然と睨み据えている。 「こんなに綺麗な髪を、バッサリ切れるなんて、嬉しいぜ」 もぐりの床屋はいやらしい手つきで、麗羅の髪をひと撫でする。薄い髪にグリースをたっぷりつけてオールバックにして、口髭を蓄えている、三十代くらいの小男だった。 髪をなでられ、麗羅は激しい悪寒に襲われた。 が、耐えた。 「勝手にしろっ!」 と吐き捨て、刈布を巻かれるにまかせた。 屈服のイニシエーションがはじまる。 床屋はブロッキングもせず、ザクザクと麗羅の髪を切り出した。 あっという間に右の毛先と床との距離がひろがる。 「くっ・・・」 麗羅の顔に初めて屈辱の色が浮かぶ。 「ストレイキャッツの総長さんもざまあないね」 「泣きそうじゃん」 「泣きたいなら泣きなよ」 ギャラリーにはやし立てられ、麗羅の顔はますます歪む。 床屋は存分に腕をふるった。 何十cmもの髪束が、コンクリートの床を鳴らす。 バサッ、バサッ、バサッ! 頬のところで両サイドの髪は切り落とされる。 「中学生らしいオカッパで」 という乱子のオーダー通りに、髪はその形を変えられていく。 ジャキッ、ジャキッ、ジャキッ! ――アタシ、敗けたんだ・・・。 と実感する。装身具を取り上げられたときにも、特攻服を脱がされたときにも、味わわずにいた敗北感、それが麗羅の心身を浸す。 「くっ・・・くくぅ・・・」 とうとう麗羅は泣き出した。滂沱の涙を流した。鼻水やヨダレも出た。あの強く凛々しく美しい「鬼姫」の面影など、もはや見る影もなかった。 「情けねえ。こんなダセー女にウチらこれまで付き従ってたのかよ」 「マジで幻滅だわ〜」 元配下たちの囁きが耳に入ってくる。麗羅はうつむいた。 「おらっ、ちゃんと顔を上げろ! 切りにくいんだよ!」 と床屋は強引に麗羅の顔を上向かせる。 ほとんどオカッパ状態の泣きっ面と否が応でも、鏡越し、対面させられる。 床屋は麗羅の襟足を断ってゆく。短く、もっと短く、さらに短く! 「なんかパンチが足りねーんだよなあ」 と乱子はひとりごち、そして、 「そうだ、『サザエさん』のワカメちゃんみたいにしてよ」 との冷酷な再注文に、床屋はうなずき、一度切った両サイドを、さらにバッサリと切り詰め、耳の上で揃えた。 「ギャハハ、麗羅、いいね、その髪!」 乱子は手をうって笑い転げる。手下たちも大笑い。 この模様はしっかりとデジカメで撮影されている。 床屋は少女客に、 「動くなっつってんだろ! 「おとなしくしてないと、坊主刈りにしちまうぞ! 「泣いたって切った髪はすぐには伸びねーんだよ!」 と乱暴な言葉を浴びせる。 不思議なことに、こんなふうに手荒く遇されて、麗羅のうちには幽かな悦びが 芽生えはじめていた。 そして、考えた。 ――そもそもアタシ、なんで不良集団のリーダーなんかやってるんだろう・・・。 という根本的な疑問に行き着いた。 特攻服をなびかせ、ケンカにあけくれていたが、麗羅の本性は不良とは程遠い。 ――勉強好きだし、得意だし・・・。 麗羅は本当は本を読んだり、自室でコソコソ小説やポエムを書いたりするのを楽しむ文学少女だ。 それが近所のお姉さんに誘われて、なんとなく不良グループに入団して、ケンカが強いからリーダーの座に就いた。それだけの話だ。 「オトナなんて嫌いだ」 と常日頃きいたような台詞を口にしてきたが、よくよく考えれば本心ではない。どころか、 ――オトナってすごいなぁ。 と畏敬の念すら抱いている。 働いて、社会に貢献して、家族を養い、子供を育て、そうやって立派に世の中を支えている。 オトナたちが頑張ってくれているお陰で、自分たちは生活できているのだ。 それに比べ、自分たちは人様に迷惑ばかりかけている。 ――アタシもそろそろ落ち着こうかな・・・。 もう潮時か、そういう気がする。 中学生らし過ぎる短いオカッパにされている間に、麗羅は己が本性に目覚め、そこに立ち戻ったのだった。 ゆえに涙も引っ込む。鼻水もヨダレも引っ込む。 ジャキッ! ジャキッ! とハサミは鳴り続けている。 前髪が切られていく。眉上3〜4cmのところで、ビシッと揃えられた。 まるで戦前戦後の女の子みたい。 ドゥルルルルルル――ジャアァァアア――ドゥルルルルルルル――ジャアアァアァアァァ―― 後頭部をバリカンで刈りまくられる。 横髪に合わせて、その高さまで刈られた。 「似合うじゃん。これからは教室の片隅でコソコソ生きてけ」 「あの颯爽としたストレイキャッツのリーダーとは、とても思えねえな」 「コシノジュンコに似てなくね?」 と周囲にからかわれても、麗羅は甘んじてそれを受けた。むしろコーフンした。 後頭部からジンジン伝わってくるバリカンのバイブレーションが、コーフンを一層増幅させた。 これまで反抗してきたオトナたちに厳しく躾けられたいという奇妙な願望が、ムクムク湧きおこる。 「おっちゃん、その茶髪も目触りだから、黒く染めてくれ。優等生らしくな」 「あいよ」 乱子のさらなるオーダーが通り、麗羅の栗色の地毛は染髪剤で真っ黒に染められた。 オカッパが完成した。 「ワカメちゃ〜ん」 とひやかされ、麗羅は頬を紅潮させ、直立不動、気をつけのポーズで、その初々しさに、皆、おおっ、と目を瞠る。つい先ほどまでの不良少女の面影は、きれいに払拭されていた。 「麗羅、目も髪の色に合わせろや」 と乱子に言われ、 「す、すみません!」 麗羅はあわててカラコンをはずした。それも没収。 「代わりにこれをつけろ」 と牛乳瓶の黒縁丸メガネをかけさせられた。昭和のコントに出てきそうな、ベタベタなガリ勉少女と化す麗羅。 皆、ゲラゲラ笑った。 しかし、麗羅は、 「ありがとうございますっ!」 と90度の角度でお辞儀。 「なんか、やけに従順過ぎて気味が悪ぃな」 と乱子は訝しむほど、麗羅はすっかり人変わりしていた。 その場でストレイキャッツ解散の辞を、麗羅は述べ立てた。 このイニシエーションもまた動画に収められている。後であちこちの動画サイトにアップされるという。 麗羅はカメラを真っ直ぐに見て、 「この動画を御覧になっている皆々様方、まずはお目汚しをお詫びいたしますっ! この度、私、ストレイキャッツのリーダー・魚住麗羅は、獅子堂乱子様はじめSFWの方々に完全敗北を喫し、これこの通り、髪もバッサリとオカッパに切り、服装もジャージとなり、真っ当な一般の中学生となることを、獅子堂乱子様並びにSFWの皆様、並びに、この動画を御覧になって下さっている方々にお誓い申しあげます!」 声を張りあげ、宣言する麗羅。妙に清々しい気分だった。真の「自分らしさ」を見出したからだろう。 「これまでご迷惑をおかけした方々にも、心よりお詫び申し上げます! 本当に本当に本当に申し訳ありませんでしたっ!」 麗羅は床に跪き、深々と土下座した。 「今後は表の社会で、分相応に、目立たず細々と生きていく所存でありますっ!」 床に正座したまま、顔をあげ、 「特に今まで逆らってきてしまったオトナの皆様方には、私、魚住麗羅がもう二度と道を違えて、身の丈に合わぬ世界へ迷い込まぬよう、厳しくご指導のほど、よろしくお願い致しますっ! 平手や鉄拳による躾も、大いに望むところでありますっ!」 麗羅、唾を飛ばさんばかりに熱弁をふるう。半ばまで刈りあがった後頭部をカメラに向け、人差し指でジョリって、 「バリカンによるご指導もお待ち申し上げておりますっ!」 朗々と言い切ったものだ。 そうして、 「勿論、私が総長を辞めると同時に、ストレイキャッツはこの世から消滅いたします! 現役メンバーも不良世界から足を洗いますっ! メンバーたちも私同様、バッサリとオカッパになって、ジャ―ジ、あるいは標準学生服を着て、勉学やスポーツに勤しむ健全な一学生に戻りますことを、これもまた、お誓い申し上げますっ!!」 その言葉に昨日までの配下たちは驚き、あわて、青ざめ、ブチ切れ、 「テメー、一人でやってろ! ウチらまで巻きこむんじゃねえ!」 「この最低女! 死ねや!」 「ウチらは、これから乱子様についてくんだよっ!」 と麗羅に罵声の嵐を浴びせるが、乱子と床屋は顔を見合わせニヤニヤ、バリカンの調整をはじめる。 怒号の中、 「オトナにはもう逆らいません! いい子になりますっ! 清く正しく美しく、野の花のように生きて参りますっっ!」 と、麗羅は謝罪と更生の辞を終えた。 乱子はコンクリートの床に落ちている麗羅の切り髪を、手下に拾い集めさせ、 「この髪はネットオークションで売らせてもらうからな。これまでの慰謝料代わりだ。現役JCの髪だからな、マニアは高値でも喜んで買うだろうさ」 「ハイッ!」 麗羅にはとうにプライドはない。 「そのようなゴミで償わせて頂けるなんて、かえって申し訳ないくらいですっ! 感謝いたしますっ!」 とペコペコと土下座。 乱子は「分け前」として、麗羅のものだった髪を二束、床屋に渡した。 床屋はその筋のマニアらしい、舌なめずりして、 「女の子の髪を思うさま切れて、金儲けまでできるんだから、この商売はやめられねえなあ」 ホクホクと髪束を受け取った。 簡単に触れるにとどめるが、この後、ストレイキャッツの主だったメンバーたちの断髪も執行された。 まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。 「オーナーの気まぐれカット」のフルコース。 泣き叫ぶ彼女らは、散髪ハサミが切れなくなり、バリカンのオイルが尽きても尚、刈られに刈られたという。 こうして、北松永町に平和が戻った。 最初は躊躇していた教師たちも、麗羅の服従が本心からであること知るや、彼女に「教育」を施しはじめた。これまでの報復も兼ねて。 「このバカタレ!」 バシッ!と手が出ることもあったが、ドM系優等生となった麗羅は、ほのかな喜びとともに甘受した。 「魚住っ! こんな問題でケアレスミスしやがって! たるんどる! グラウンド十周!」 「ハイッ!」 と間髪入れず、教室をすっ飛び出していく麗羅である。 特に四十代の無能な体育教師・持田(♂)などは、麗羅をストレスのはけ口にしている。 贔屓のプロ野球の球団が負けた翌日など、麗羅を見かけると、 「コラアッ、魚住ィッ!」 「ハ、ハイッ!」 「貴様、最近態度がなっとらんぞ!」 と難癖をつけてきては、麗羅を体育教官室に連れ込み、室内に置いてある古ぼけたバリカンで、アタッチメントなしで、 「気合いを入れてやる! しっかり反省せえ!」 ウィーン、ウィーン、ジャリジャリジャリ〜! と後頭部の刈り上げ部分をさらに刈る。 「俺たちが学生の頃はなあ、悪さをすりゃあ、こうやって先公にバリカンで頭刈られたもんだ!」 といった昔語りを添えて。 「最近は人権屋がうるせぇから、そういう美風も廃れちまったが、これが教師と生徒の本来あるべき姿なんだ! 違うかッ?」 「違わないですぅ! 不肖魚住麗羅、持田先生の海より深い愛情を、しっかりと感じてますぅ〜!」 「よぉし、いい子だ!」 ウィーン、ウィーン、ジャリジャリジャリ〜 すっかり青々とした後頭部にされ、 ――やっぱりオトナってすごい! と改めて持田に尊敬の眼差しを向ける麗羅である。 でも、 ――さすがにちょっと恥ずかしいかも・・・。 と青い後頭部に手をやり、顔を赤らめる。 六年後―― 「おっ、魚住チャン、懐かしいねえ」 「振袖似合ってるよ、麗羅」 「ほんと、あんなチンチクリンだったのが、立派に育っちゃって」 旧友たちに口々にひやかされ、 「エヘヘ」 と麗羅は照れ笑いする。 成人式で久々に地元に帰ったら、昔の学校仲間に取り囲まれ、早速イジられる。 「まだオカッパ続けてるのかよ?!」 「オカッパに振袖はないんじゃね」 とか。 しばらく見ぬ間に皆、「あの頃」の面影を残しつつも、成長している。 「今何してるの?」 と訊かれ、 「大学生だよ」 と麗羅は答える。 「どこの大学?」 「〇〇大学」 「スゲー、超エリートコースじゃん!」 「まあ、麗羅だもん、そりゃあ一流大学にも通えるよ。学部は?」 「文学部。英文学科だよ」 将来は翻訳家になりたくて、と麗羅は夢を、いや、目標を語る。 「なれるよ、魚住チャンなら」 「ありがとう!」 麗羅は顔をほころばせた。 あの「七ヶ月戦争」後、勉強に励み、高校は彼女の強い意志で、地方の厳しい全寮制の学校に進学、そこでも、真面目に、素直に、愚直に、頑張って、頑張って、名門大学に合格し、しかし、それに驕ることなく、せっせと学問にうちこむ日々だ。 「じゃあ、恋する暇もなしか」 「うふふ」 「うわっ、なんか意味深な笑いだな。さては――」 「彼氏いまーす」 彼氏も同じ大学の先輩。キャンパスで知り合った。しっかりとした、優しい男性だった。付き合って半年。ゆっくりと愛を育んでいる。 成績も恋も上々。 でも「今が一番幸せ」と言い切りたくはない。未来は無限なのだから。 「リア充の極みだね」 そう言う旧友たちだって、それぞれが充実した人生を送っている。それもあって、嫉妬したりせず、純粋に麗羅の幸福を喜んでくれる。 「不良やめて大正解だったね」 「それは言わないで〜」 旧友の口から漏れかける黒歴史に、麗羅は大あわて。皆笑った。 「そういやさ――」 友人たちは話し始めた。 「SFWのトップだった獅子堂乱子って娘いたじゃん。あの娘さ――」 「ああ、知ってる。亡くなったらしいね」 「彼氏が暴走族だったんだよね」 獅子堂乱子は高校に行かず、レディースの一員となり、暴走族の彼氏の改造車に同乗して、あちこち飛ばしまくって、 「スピード出し過ぎて、ガードレールを突き破って、海にボチャン」 「あっけなかったなぁ」 友人たちの話を、麗羅は黙って聞いていた。コメントを差しはさむこともなかった。 が、内心ではひどく動揺していた。驚きは大きかったし、なんだか他人事と割り切ることもできずにいた。 ――もしかしたら―― 自分も乱子みたいな道を辿っていたかも知れない。 もし、あの戦いに勝っていたら、と考えると、背筋が寒くなる。間違いなく自分は今日ここにはいない。 きっと、戦いに戦いを重ね、すさんだ、満たされぬ青春を送っていただろう。 人生を勝ち負けで云々するのは、浅はかに過ぎるが、 負けて、勝つ ということもあるのだろう。 ――乱子・・・。 かつての宿敵の顔が、あの頃のまま去来する。 でも、そんな感傷をとりあえずは脇に置いて、 ――さて、と。 麗羅は普通の女子大生に戻る。 「今日は生まれて初めてお酒飲むぞ〜!」 「おっ、カタブツの麗羅もいよいよアルコールデビュー?」 「初めて飲むなら、やっぱ泡盛じゃね?」 「泡盛か〜」 「おいおい、純朴な魚住チャンの無知につけこむんじゃないよ」 「じゃあ、ビールか? キンキンに冷えた生ビール」 「今、真冬だぜ」 「普通に考えてカクテル類でしょう」 「それな」 皆、面白がって、麗羅のお酒デビューを後押ししてくれる。 こんな仲間たちと二十歳の祝杯をあげられることが、麗羅にとって、とても嬉しい。 まだ知らないお酒の味を想像して、ドキドキする。 (了) あとがき あけましておめでとうございます!! 迫水でございますm(_ _)m 平成ももうすぐ終わり。如何お過ごしですか? 今回のお話は某老舗サイトで読んだ小説にインスパイアされ(けしてパクリではございません!)書きました。 同時に発表した「虐め、駄目、絶対」は去年の作品ですが、今作は年をまたいで完成したので、実質今年初めての小説です。 二作ともエグイ断髪ですな(^^;) ここ何年かは「ずっと前から頭の中にありました〜」とか「大昔のアイディアで――」とか過去からネタを引っ張ってくることも多々あったのですが、今回は最新のネタです。 もうちょっとヒロイン麗羅の不良ぶりを書き込んだ方が、後の惨めさとの対比が際立っていいかなあ、と今になって思ったりもしています。 2019年が皆様にとって、平和で充実した年になりますよう、心よりお祈り申し上げております。 最後までお読みいただきありがとうございました♪ |