オンエアー |
今年の夏も暑いゼ。 (一)サマーデイ・サマータイム 24時間テレビ「笑いは世界を救う」。 日テレ、フジの企画をいけしゃあしゃあとパクってスタートした厚顔無恥なこの特番も今年で三回目を迎える。無論、募金などは受け付けていない。あしからず。 年に一度の真夏の祭典にふさわしく、各地で系列の地方局によるイベントが開催され、それが全国ネットで中継されるため、地方局も栄えある檜舞台、ここぞとばかり局の威信を賭し、ハッスル(死語)している。 北海道の支局は巨大シーフードピザ作り、九州の某支局では船上お見合いパーティー、四国の某支局ではサンバカーニバルといった具合に各局、アイディアと金を搾り出して、存在感をアピール。過剰とも思えるほどに・・・。 そんな中、関西の某支局では、「真夏の集団得度式」と銘打った企画を敢行する。 「スタジオの皆さん〜。得度式ってご存知ですか?」 レポーターに抜擢された今売り出し中の若手芸人コンビの片割れの山澤が、由緒ある某仏閣の境内の特設会場から東京のキー局のスタジオに呼びかける。 「なんや」 「知らんわ」 山澤のハイテンションも空しく、番組の総合司会、999(スリーナイン)の岡川と矢田の反応は冷淡だ。何するの?とスタジオに集結した人気タレントたちも首を傾げている。 坊さんになるための儀式だろ、とゲストの大物俳優が正解を口にする。 「その通りです。さすが中村さん! いやいやいや〜、実はですね〜、これから24時間かけて、希望者を募ってお坊さんを誕生させちゃおうという企画なんです」 「それオモロイか?」 矢田の実も蓋もないツッコミ。 「バチあたるんちゃう?」 と岡川もこの地方局の総力をあげた企画を茶化す。 「大丈夫です。え〜、平安時代からの歴史あるこの○○寺管長が導師として、え〜、かなり本格的にですね、え〜、やってくれるというので」 現場を仕切る山澤も実はよくわかってないらしく、カンペを読みながらの進行だったりする。 特設ステージにはパイプ椅子がおかれ、バックには「目指せ一休さん! 真夏の得度式」という垂れ幕。そして白衣を着た理容師がバリカンを握ってスタンバっている。 「え〜、お坊さんといえば剃髪、坊主頭ですから、参加者の方はですね、ここでバサッといっちゃってもらいます」 どうやら「得度」という大義名分を隠れ蓑にして、ありようは参加者を丸刈りにし、その様子を楽しむといったベッタベタのレベルの低いお笑い企画に過ぎないようだ。しかし逆に言えば王道。こうしたお祭り番組では得てして、捻った笑いよりベタな笑いの方がウケるもので、流石、お笑いにはウルサイ関西、手堅く笑いをとりにいくつもりのようだ。 「まずはトップバッターいってみましょう」 山澤に紹介され、ステージにあがったのはスーツを着た年配の男性。 「しゃ、社長!」 「そうです。当テレビの田嶋社長です。今回の企画の成功を祈願してですね、得度剃髪なさるということで、社長、ひとつ」 待機していた床屋が田嶋社長の頭をバリカンで剃りあげる。オッサンの断髪描写を書く情熱がわかないので、ここはサラリと流させていただく。 社長丸刈りのシークエンスは企画のコンセプトを山澤の拙いレポートよりも雄弁に、スタジオや視聴者に伝える効果を果たした。 袈裟をつけた田嶋社長は即座にエラ〜イ(でも徳のなさそうな)○○寺管長様から「宥海」なる法名を与えられた。 続いてあらかじめテレビ局で募った参加者が、老いも若きも次々と坊主頭になっていく。勿論男ばかりだ。 「テレビの前のお坊さんになりたい方はもうジャンジャンここに来ちゃってください! 尼さんも大歓迎です!」 「そういや、山澤、お前トコの相方も昔尼さんやったやろ?」 「スイマセン、ちょっと電波が悪くて聞き取りづらいんですが」 「なら、ええわ」 「そうですか」 「聞こえてるやんけ!」 ここで爆笑のうちに一旦、最初の中継は終わったのだった。 (二)女性ディレクターの憂鬱 そして深夜、お色気コーナーの真っ最中に、関西某支局から三度目の中継が割って入った。 「岡川さ〜ん、矢田さ〜ん」 「なんやねん、山澤。せっかくエエとこやったのに」 「いま絶対お前の顔のアップでフィニッシュしてもうた視聴者おるで」 お色気コーナーを中断され、999のふたりはご機嫌斜めである。きっとテレビの前の男性視聴者もチッと舌打ちしているはずだ。 「ほんま、空気読めんヤッチャな、お前は」 「そんな野球拳なんかに夢中になってる場合じゃありません。こっちは大変なことになってま〜す」 と山澤が指差した先には、パイプ椅子に腰掛けたTシャツにジーンズのうら若き女性の姿。 女だ!とスタジオがドヨめく。 「そうです。うちのディレクターの長尾真実さん、三十歳独身です。なんとですね、彼女がこれから得度を受けるため、頭を丸めます」 「尼さんやん!」 「そうです!」 緩みかけていたムードが一転した。 「え、ちょっと、長尾さん」 と岡川に直接呼びかけられ、 「あ、はい」 と緊張に顔をこわばらせた長尾真実ディレクター三十歳独身が応える。 「ホンマにいいんですか?」 「あ、はい」 「坊主頭っすよ?」 と矢田も半信半疑の様子。 「ああ・・・はい・・・」 「ちょっとブルーになってるじゃないですか!」 「え〜、長尾さんですね、実はお寺の娘さんです」 素人の長尾真実ディレクター三十歳独身に代わって山澤が事情を説明する。 「いっつも、実家継がなアカン、実家継がなアカン、てボヤいてるんで、じゃあ、今夜我々で背中を押してやろうじゃないかというコトでですね――」 「深夜だと抗議の電話も少ないやろしな」 岡川のぶっちゃけトークに表情の固かった長尾真実もつい苦笑を誘われる。 「そういうイヤラシイこと言わないでくださいよ〜。長尾さんも腹きめて、ここにこうして座ってるんですから」 スタジオの空気は微妙だ。ちょっと引き気味というべきだろうか。 お色気企画のために集められたグラビアアイドルたちは「エエ〜」「ウソ〜」「ヤバイって」と同性の剃髪に拒絶反応を示している。賑やかしで呼ばれたタレントたちも「やめた方がいいよ〜」「ダメだって」「髪は女の命だよ」としきりに地方局ディレクターの暴挙をいさめている。 しかしこの連中、どこまで本気かわからない。この女、この流れでは結局は坊主になるしかないんだろうな、とわかってはいるものの、「放送倫理上」、一応は制止しなければならない場面だ。同時に「やめろ」と制止することによって、これから行われることの尋常のなさを、視聴者にアピールする効果もある。一石二鳥だ。 「じゃあね、長尾さん」 岡川がふたたび女性ディレクターに呼びかける。 「あ、はい」 さっきから「あ、はい」しか言うてへん、と矢田がさりげなくツッコんだ。 「やっぱり女の人が坊主っていうのもあれなんで」 「はい」 長尾Dが少し安堵した顔になる。大方、プロデューサーあたりから、「長尾、お前、坊主になれ。盛り上がるから」と因果を含められているに違いない。 「6ミリでいいですわ」 岡川のボケに湿った笑いがおこる。まあ、状況が状況だけに素直に笑えない場面ではある。 「じゃあ、3ミリで」 長尾Dがはじめて言葉らしい言葉を発し、果敢にも岡川のボケに応酬したが、悲しい哉、あんまりウケていなかった。痛々しくって。 ここでCMになる。まるでイヤガラセのように育毛剤のCMが流れていた。 (三)オン・エアー CMがあけても押し問答は続いていた。(と言うか、せっかくの「決定的瞬間」を逃さぬための時間稼ぎだろう) 「ホンマにエエの?」 「はい、大丈夫です」 「しゃーない、本人がやるって言うてるもんなあ」 と矢田、進行役としてオトシドコロをはかっている。多少ヒンシュクは買うだろうが、番組的にオイシイ展開を選択する。 「じゃあ、長尾さん、ホンマにいいんですね?」 岡川の最終確認に、長尾Dも 「はいっ、お願いしますっ」 と口調はハキハキ、顔は悲痛、で答える。 「ま、どうせ泣く男もいないでしょうからね」 という山澤の失礼なフォローに、スタジオの女性タレント、グラビアアイドルたちから、ひど〜い、のブーイングがおこった。でも長尾D、正直あんまり可愛くない。もうちょっと可愛ければこんなヒサンな目にあわずに済んだはずだ。 「そうや、山澤、長尾さんに彼氏おるか訊いて」 「せやな、彼氏いたらアカンわ」 「長尾さん、彼氏は?」 「いませ〜ん」 という長尾Dの悲しい返答は電波に乗って全国に流れる。 「なら、まあ平気やな」 無責任路線に転ずる矢田。頭の中は番組を盛り上げ、かつスムーズに進行させることで占められているのだろう。 「ねっ、この番組観てる尼さんマニアの方が、我も我もと彼氏に立候補してくるかもわかりませんからねっ」 山澤がまたちっとも嬉しくないフォローをする。 「それじゃあ、オヤジさん、お願いします」 さっきからずっとセットの一部と化して後方で控えていた理髪師が長尾Dに歩み寄り、身体にゆっくりとケープを巻く。そして後ろで無造作に束ねていた肩甲骨まである黒髪をほどき、心持ち丁寧に梳る。もう待ったなしだ。 「さあ、お寺に生まれて三十年、長尾D、女の命を捨て、決意の丸刈り。尼さん誕生の瞬間であります」 山澤の名調子に呼応するかのように、カメラはぐっと長尾Dに寄り、その歯医者嫌いな子供が抜歯するかの如き、苦痛の表情をとらえる。 理髪師のオヤジは、これも仕事とばかりに長い前髪をバリカンですくいあげるようにして、 グワアアァァ とものすごい勢いで刈り込んだ。 ここでスタジオ、現場の興奮は最高潮に達し、スタジオからは悲鳴と溜息、現場の野次馬連からは歓声が沸き起こった。 長尾Dは生まれて初めてのバリカンが頭上を通過する間、首をすくめ、ギュッと目を瞑り、 「あ〜」 と口をあけ、声にならぬ悲鳴をあげ、 「長尾さん、顔ブッサイクになってるで〜」 と思わず岡川が指摘するほど、顔をしかめていた。 バリカンはさして美人でもない三十女の額から脳天にかけて一本の切通しを開通させた! 「長尾さん、今のお気持ちをどうぞ」 無遠慮にマイクをつきつけられ、 「快感です!」 坊主頭への引き返せない第一歩を踏み出した長尾Dは無理やり笑顔をつくって、何度も点頭している。 「快感ですか?」 「はいっ! もうヤミツキになりそうですっ」 勇ましいコメントだが、長尾D、ノーメイクのうえ、目元に険があり、笑顔が怖い。スタジオは軽くひいている。 「わかりました。ボクもちょっと可哀想になってきちゃったんで、今回はこれくらいでやめときます」 山澤のボケに、ようやくカラッとした笑いがおこった。 「それはアカンやろ」 ここまできたら最後まで刈ってあげな、と笑いながら矢田がツッコみ、岡川も、 「そんなこと言うから、ホラ、長尾さん、あたふたしてるで」 「大丈夫です」 山澤は落ちている黒い髪束をつまみあげ、目を泳がせている逆モヒ女の刈り跡にかぶせ、 「こうやって、接着剤か何かでくっつけとけばね、バレませんので〜」 屈 辱 「山澤、アカンて」 「ほんま、デリカシーないなぁ」 だんだんと本領を発揮しはじめる山澤にいいようにイジりまくられ、長尾Dはちょっと憮然とした表情を浮かべている。 ふた刈り目、理髪師はバリカンをさらに切通しと黒い密林にまたがって押し進め、グワワァア、と領土を拡張する。 三度目のバリカン。前頭部がスッキリと芝生のようにつもられた。 「さあ、まるで打ち首獄門みたいになってしまいましたが。長尾さん、尼さんへの階段を一歩一歩のぼってます。ご実家のお父さんも喜んでらっしゃることでしょう」 「ホンマ無茶しよるなあ」 「まあ、深夜やからね、こういうのもアリなんちゃう」 すっかり高みの見物をきめこむ司会者サイド。実際、妙齢の女性が丸坊主になるという趣向は、生き馬の目を抜くテレビでもなかなかお目にかかれない。 「長尾さん、コレ、全国に放送されてますけど、どうですか、感想は?」 ドS芸人、山澤の意地の悪い質問に 「恥ずかしい〜」 頭を刈られながら、長尾Dが悲痛な声をあげ、両手で顔を覆う。バリカンはサイドの髪をゾリゾリ刈り込んでいる。本人のリクエスト通り、3ミリの短さで。 「長尾ディレクターって普段どんな人?」 と山澤が音声担当のADに訊いている。 「メチャメチャ怖いです」 若いADは坊主頭になっていく哀れな上司を横目でニヤニヤ見ながら答える。 「怖いの?」 「ハイ、もう、しょうちゅう怒鳴られてます」 「ああ、そう」 「仕事でミスったら、丸刈りにしてこい!って怒られたり」 「言った本人が坊主刈りだもんなあ」 山澤がADにかまけている間にも、みるみる長い髪が刈られていく。髪がなくなっていくにつれ、 「長尾さん、顔でかっ!」 と矢田の失礼なコメントに 「そんなことない。長尾さん、綺麗やで。ホンマ綺麗やで」 という岡川のフォローが空虚に響く、長尾Dの顔の輪郭が露になる。 「ちょっとあんまりイジメないでくださいよ〜。長尾さん、泣きそうじゃないですか」 長尾イジリの先頭に立っていた山澤に言われたくはないが、長尾Dはちょっと涙ぐんでいる。 「あ、泣いた!」 イジメっ子の顔になる矢田に、 「イエ、大丈夫です」 目がしらをおさえ、気丈に首を振る半剃り女。彼女もテレビマンの端くれ、ここで泣いてしまっては、番組が盛り下がるとわかっている。だから懸命に笑みをつくって、 「実家のお父さんに一言」 と山澤にマイクを向けられると、 「お父さ〜ん、私、寺継ぐからね〜」 カメラに向かって手をふった。ちょっとヤケになっていた。 長い後ろ髪にバリカンが入る。理髪師は、 ガアアアァァァ、 ガアアアァァァ、 と勢いよくバリカンを押し上げ、根元から髪を断っていく。 最後の一房が刈り落とされ、高校球児も真っ青の大振りの丸刈り頭が一個できあがる。 「なんかビルマの竪琴に出てきそうやな」 矢田の無神経なコメント。 ADの持つハンドミラーで自身の変わり果てた姿を見た長尾Dは、 「うひゃあ!」 と奇声をあげて一度、顔をそむけ、気を取り直し、今度はまじまじと鏡を覗き込んだ。そして、 「どうですか?」 山澤に感想を促され、 「父にソックリです〜」 蚊の鳴くような声で言って、やだぁ〜、と刈りたての頭を抱える。爆笑がおこった。 「ああ、こんな坊さんおるわ」 おるおる、と岡川と矢田が膝をうって笑い転げている。 「じゃあ、せっかくだから顔剃りもやっときましょうか」 と理髪師のオヤジ。意外に出たがりらしい。 「おお、大将! いいですね〜」 山澤がホイホイのる。 もうどうにでもしてくれ、といった表情の長尾Dのタワシのような丸刈り頭のアップで、また、CMへ。 (四)ニシヘヒガシヘ 得度式会場では、長尾Dが理髪師に顔剃りサービスをうけている。 剃刀の刃に頬を撫でられ、長尾Dは恍惚と目を細めている。 「長尾さん、どうですか」 「あ〜、きもちい〜ですぅ」 長尾Dは地獄から一気に天国に引っ越したように、トロンとした至福の笑みを浮かべている。日頃の激務を忘れ、束の間のリラクゼーション。 「長尾さん、気持ちよさそうやな」 「ねっ、リフレッシュしてくださ〜い」 「あ、なんか北海道が大変なことになってるらしいで」 中継が北海道の支局に切り替わる。 (五)尼僧、誕生 「岡川さ〜ん、矢田さ〜ん」 四度目の中継。声をひそめて山澤。 「いま、長尾さんは衣に着替えている真っ最中です」 ステージにカーテン一枚隔て隣接されている着替えコーナー。そこを山澤は指差している。 「え〜、そちらの野球拳を中断させてしまったお詫びといってはなんですが、ここで長尾ディレクターの着替えタイムをお楽しみいただきます」 「そんなん見たないわ。イランイラン!」 「ホンマ、バチ当たっても知らんで」 「ナニ言ってんですか! 尼さんの生着替えなんてかなりレアですよ。男性視聴者の皆さん、録画のご用意はよろしいですか?」 会場には加藤茶の「ちょっとだけヨ」でお馴染みの「タブー」が流れる。着替えコーナーにスポットがあてられ、坊主頭のシルエットがカーテン越し、浮かびあがる。 「さあ、長尾ディレクター三十歳独身。一人寝の夜のなんと淋しかったことか。若い肉体は今夜も疼いています」 ベタベタのフレーズで山澤がムードを盛り上げる。 シルエットは、やめて、やめて、というジェスチャーをしていたが、流れには逆らえず、しぶしぶ着替えを続ける。 「長尾さん、すごい乳デカイですよね〜」 芸能界きっての巨乳好きの岡川が早速食いついている。 「エエ体してるわ〜。首から上はオットコマエやけど」 「まあ、なんか変な気分になるわな」 「そういや、尼さんてブラつけてるんやろか?」 「どうなんやろなあ」 「うわ、なんかメッチャ興奮する!」 「あ、ジーパン脱いだ」 どよめきがおこる。カーテンの向こう側は尼さんのセミヌード、という実に不健康なエロスが渦巻く空間だ。 長尾Dのシルエットは初めての法衣に手こずっている様子だったが、女性の法衣屋に手伝ってもらい、ようよう着替えを終えた。 「さあ、長尾ディレクター、尼さん姿初披露です。どうぞ〜」 ふたたびカメラの前に現れた長尾Dに、うおおおー、と歓声があがる。 ゲジゲジ眉毛を刈り込み、顔の産毛を剃り落として、法衣を身に纏った長尾真実三十歳独身は、クールな尼僧へと生まれ変わっていた。 「ちょっと、長尾さん」 岡川が彼女の変貌に戸惑いつつ、茶化す言葉もなく、 「メチャメチャ、イケてるじゃないですか」 「そうですか?」 長尾Dも満更でもない様子で、できあがったばかりの涼しげな三日月眉をあげ、合掌のポーズをとってみせたりしている。 彼女の醸し出す禁断の色香に息をのむ男たち。ノーマルな彼らでさえ、そうなのだ。マニアはのたうちまわっていることだろう。 「まあな、結果オーライやわ」 矢田がうなずく。 管長が度を渡し、「瑞真」という僧名を彼女に与え、尼僧誕生。 (六)長尾真実の恋人 新人尼僧となった長尾Dは以降、24時間TVでよくある「発掘された素人」として、残りの十数時間、ブラウン管に露出しまくった。 山澤のセクハラをピシャリとはねつける美人尼僧は一躍、全国区の知名度を得、各地のヘンタ・・・いや、篤志から「お友達に」「つきあって」「結婚したい」といった熱いメッセージが殺到したという。 蛇足であるがこの「真夏の得度式」が「え? 俺もっすか? いやいやいや、もうポジション的にやらなくてもいいと思うんですけど・・・。やだやだやだ!」と嫌がる山澤の強制剃髪で、好評のうちに幕を閉じたことを述べておく。 さて、長尾Dがその後、実家の寺を継いだか、というと・・・ 数年後。 「おーい、山澤〜」 軌道に乗り始めた24時間テレビ「笑いは世界を救う」。今年も総合司会の999が関西某支局を呼ぶ。 「はいはい、抱かれたいお笑いタレント第二位の山澤です」 「ほんまイヤラシイな、お前」 「今年はうちの局はすごいですよ。素人K1グランプリを開催しま〜す。体力を持て余してる若人、若いモンには負けんというオジイチャン、どんどん集まってください」 「死人がでても知らんで」 「相変わらず無茶する局やな」 広場に設けられた特設リング。 リング上にはケープを巻かれた長尾Dの姿が! 「またかい!」 「ええ、当放送局の長尾ディレクター、現在は昇格してチーフディレクターなんですが、つい今しがた柔道五段のアマゾネス猪狩との敗者髪切りマッチに8秒の死闘の末、敗れまして、これから頭を丸めま〜す!」 「毎年、なんやかんや理由つけて長尾さん坊主にするのやめい」 「去年は舞台で白血病の少女を演じるからとか言うて頭剃らされてなあ。一昨年はなんやったっけ・・・」 「野球大会や」 「あ、せやせやルールも知らんとキャプテンにされてなあ、丸刈りでな〜」 「一応、こうなると、もう縁起物なんで」 山澤が弁解する。 「最近は長尾さんの方が剃る気満々で、さっきも『アタッチメントなしで刈ってぇ〜』って」 「ええ、そうなん、長尾さん?」 「はい!」 黒髪ショートの長尾チーフDがVサインで頷く。 「お前、アホやろ!」 「だからエエ年コイて独身なんやって」 呆れ顔の司会ふたりに 「バリカンが恋人で〜す!」 「アホや、アホがおる」 「それじゃあ、いってみましょう!」 長尾真実の要望で呼ばれたというイケメン理髪師がおもむろにバリカンを持ち上げ、長尾チーフDの前頭部に押し込んだ。じょりじょり。 (了) あとがき(2007年度版) う〜ん。イマイチ・・・。 本来ならボツになるところでしたが、こういう形で表に(?)出ることになりました〜。トラ伍郎さんの「バリボブ」という作品がすごく気に入っていて、今回その手法を拝借して、自分なりに消化してみましたぁ〜。 十年くらい前の某99司会の年越し番組で、108人の希望者を丸刈りにしてお坊さんにする、という企画があり、女の人が出ないかなあ、とドキドキしながら観てたのを思い出して書きました。 いや〜、それにしても某99のベシャリを再現するのに苦労しました。再現しきれなかった・・・(― ―; 2018年度版のあとがき どうも〜、迫水です♪♪ この作品は07年春に当サイトで行われた「ベストストーリー投票」にて、投票して頂いた方限定で一ヶ月ほど公開されていたものです。 今読み返してみると、なかなか面白く、もう十年以上経っているし、時効だろう、と陽のあたる場所に送り出してあげました!! この作品が発表された頃に小学生だった人も、もう社会人になってたりするのでしょう。う〜ん、感慨深い。 2018年度版ということで、コウキさんが描いて下さったヒロインのイラストともに、リミックスして発表させて頂きました。 当時は幾分迷走気味で、その「負の所産」的な作品でもありますが、この鶏肋っぷりがたまらないです(笑) |