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ろるべと


    (U)HAPPINESS IS A WARM GUN

「一成君・・・」
 ナチス親衛隊の軍帽に袈裟というひどくシュールな格好の七海が、形のよい唇で俺の○○○を×××てくれる。プリーズ・プリーズ・ミー! 法衣がはだけて、白い真っ白い肩がのぞく。濃い睫毛の奥の目を潤ませ、上目遣いで俺を見る。




 バサリ
と軍帽が落ち、七海の剃髪した頭が露になる。陶磁器のような光沢と、頭頂部から首の付け根にかけての、なだらかな曲線はもはやアートの域である。ぼんのくぼの凹み具合が、何か深遠かつ広漠な美の探究を、俺に促しているかのようだ。探求する余裕などなく、ただただ耽溺する。
 キモチイイ?と七海がきく。
 うおおおっ! いいっ! いいよっ!
「七海いぃぃーー!」
 一週間分のオタマジャクシさんを放出する。
 ピュピュピュッ
「最低だ」
 なんか虚しい・・・。

 修行僧にだって性欲ってモンはある。
僧侶の守るべき戒律の中には「不邪淫」ってェのがあって、本来ならばオ○ニーなどもってのほかなのであるが、坊主だって人間、肉も食いたきゃあ、いい女と一発やりたい。
 昔、悟りを開いたエライ坊さんがいて、生き仏のように慕われていたが、その人も夢の中まではどうにもできなかったらしく、女を抱く夢を、しょっちゅう見ていたという。
 名僧知識でさえ、そんな有様なのだ。俺のような凡僧などノゾキやレイプに走らないだけ、まだマシってもんだ・・・と破戒修行僧の俺、高島田一成は思うわけで・・・。
 かててくわえて、若い(若くないのもいるが)男僧、尼僧が一つ屋根の下、起居という状況で、まして俺は筋金入りの尼フェチとくりゃあ、日中、足腰たたなくなるくらいシゴきにシゴかれても、若き血潮はその捌け口を求め、欲望の自己処理を必要とするわけで・・・。
しかも俺には学院内に来栖七海というカノジョがいるわけで・・・。
 でも学院生同士が互いの愛を確認する作業には、シャバと違って、かなりの掣肘を加えられているわけで・・・。
 情欲の行き先はあっても、そこには辿り着けないわけで・・・。
 認めたくないが、実は最近、その行き先が消滅しかけてるわけで・・・。
で、今夜もノコノコ西棟の男性用トイレに足が向くわけで・・・。父さん、「地獄」ももうすぐ初夏です。

 G学院の西棟にある男性用トイレは学院内の、半公認の自慰スポットだ。学院唯一の洋式便所で、寝所からも離れており、俺みたいに性欲もてあました破戒坊主が、不邪淫戒破って、シコシコ自家発電するのには、もってこいの空間だ。別名「ガンダーラ」。

 天国と地獄を隔てるドアをあけると、次の「ガンダーラ」行き希望者が立っていた。
「瀬名サン」
「おう、高島田か」
「珍しいッスね」
 瀬名サンはキマリ悪そうに笑った。
 瀬名宥心・俗名忠信。四歳年上だ。元々一流企業のサラリーマンだったが、急に仏道を志し、在家の出身ながら、G学院の門をたたいた変わりモン。おとなしくエリートやっときゃいいものを、なにを好き好んで・・・と首を傾げちまう。
 自ら求めて入院してきただけあって、俺なんぞとは根性の出来が違う。年齢だけでなく、漢気にあふれ、何をやらせても完璧。同期生ながらまさに頼れる「兄貴」ってカンジ。念のため言っておくが、俺にそっちの趣味はない。
 彫りの深い顔立ちのイケメンだから、女の院生たちにも滅法人気がある。ちょっと嫉妬する。でも俺だって、もし女なら瀬名サンにいっちゃうね、間違いなく。再度強調するが、俺には男色の気は微塵もない。
 そんな兄貴にも最近悩みがあるようで、
「オカズは安井チャンっすか?」
「うるせーよ」
 図星のようだ。
 瀬名サンが同期生の安井沙耶香に懸想していることは、薄々勘付いていた。いや、バレバレだ。
 安井沙耶香は七海と並ぶ学院のアイドルだ。俺なんてアイツが、サダコみてーなキショいロン毛オタク女時代から知ってんだぜ。一番最初に安井沙耶香にアイドル尼僧の資質を見出したのは、ナニを隠そうこの俺だ。ふっふっふっ。
 アイドル安井と「ミスターG学院」の瀬名サン。釣り合いバッチリ。お似合いカップルだ。
 だが現実はうまくいかない。
 元オタの安井は、人見知りが激しく、男に免疫がないようで、近寄ってくる男院生はいるんだが、なかなか打ち解けようとしない。瀬名サンも瀬名サンで、堅物なもんで、やっぱり安井と距離をおいている。距離をおきつつも、安井を意識している。いつも安井を目で追っている。安井の話題になるとソワソワする。
 いい年をして、とおかしいが、オトコ瀬名忠信の純情は、同じオトコとしてわからんでもない。
「でも瀬名サン」
 純情に水を差すようで悪いが、
「安井チャンは難しいですよ。ありゃあ、メンドいっすよ。他にも言い寄ってくるオンナ、いるんでしょ? 鈴宮とか、鈴宮とか、鈴宮とか」
「鈴宮かあ」
 瀬名サンは腕組みして、鈴宮の小狸を連想させる顔を思い出してるふうだったが、
「アイツも悪いヤツじゃないんだけどなあ。アイツの気持ちには応えらんないなあ」
「アイツも髪伸ばしゃあ、かなりイケますよ」
「そうだなあ」
 なんつーか、久々にいわゆる「男同士の会話」ってやつができて嬉しい。
「見てくれだけじゃないんだよなあ」
 勿論見てくれも重要だけど、と瀬名サンは言い添えながらも、
「安井にはさ、庇護欲をかきたてられるんだよ。守ってやりたいとか、傍にいてやりたいとかさ」
 「庇護欲」ときたか。好意の抱き方が非常に男っぽい。ヒモ願望のある俺とは根本からして違う。
「それより高島田」
「なんスか?」
「お前、来栖と喧嘩したらしいな」
 うお〜! 広まってるよっ!
「聞いたぞ、チョンマゲ事件」
 あちゃ〜。
 学院の裏手にある石の五百羅漢像と、無性にヘッドバッド対決をして回りたくなった。
「お前、やっぱド変態だったんだな」
 考えられへんわ、と故郷の関西訛りで、瀬名サン、何もそんな青汁飲んだ後みたいな顔しなくてもいいじゃない(^^;
「ま、俺と七海の問題なんで」
「こっちとしては、どう関わっていいかもワカランわ」
 ご尤もです。
「ま、安田チャンとのこと、応援してますよ」
 瀬名サンの天国タイムを邪魔しちゃ悪いので、また、それ以上に、七海との一件に言及されるのは勘弁して欲しかったので、話を切り上げる。
「おう」
 瀬名サンは「ガンダーラ」へ、俺は「地獄」へ。

(つづく)


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