はじめてのドライブ |
サイドシートに乗り込むと、車は機嫌よく走り出した。 車のことにはトンと疎い亀井明日香(かめい・あすか)だが、鶴巻篤也(つるまき・あつや)が運転するこの車が、かなりカッコよく、かなり高価なものだとわかる。 「この車、誰の?」 「兄貴から借りた」 「ねえ、初心者マーク、つけなくていいの?」 怖々訊ねる明日香に、 「あんなもん、カッコ悪くて貼れるか」 という返事。明日香はあわててシートベルトを着ける。 なにせ、篤也が普通自動車の免許を取得してから、はじめてのドライブだ。 少なからず緊張する。 でも嬉しい。 緊張と嬉しさ、両者が手をつないで、ドキドキがとまらない。 マニュアル車のギアを巧みに操作する恋人が頼もしい。高校3年生とは思えぬ落ち着きぶりだ。惚れ直さずにはいられない。 「で、今日はどこに行くの?」 ワクワクと行き先を訊くと、 「床屋」 ハンドルを握る篤也は、フロントガラスの向こう側を見据えながら答えた。 「床屋?」 まったく思いもよらぬ目的地を耳にして、明日香はキョトンとなる。 「なんで?」 「髪を切るに決まってんだろ、床屋なんだから」 「篤也、ヘアカットするの?」 別にわざわざ今日じゃなくてもいいのに、と訝る明日香に、 「阿呆」 篤也はやはり前方を睨んだまま、 「お前の髪を切るんだよ」 とこともなげに言った。 「ええっっ?!」 明日香はシートベルトが引っこ抜けそうな勢いで、身体をのけぞらせた。 「なんで? なんで? なんでぇ〜?!」 ただただあわてふためく。 髪を切る? いきなりの展開に、パニック状態。 「そういう約束だったろ」 「えっ? えっ? で、でも、でも、でも――」 「ゼッテー、髪、バッサリ切らせるからな」 そう高らかに宣言すると、片手ハンドルの篤也は空いている左手で、明日香の背中を覆う黒髪ストレートロングを払うように、乱暴にひと撫でした。そして、さらにアクセルを踏み込んだ。 明日香は激しい眩暈に襲われた。 モウ逃ゲラレナイ・・・。 ドキン、ドキン 心臓が破裂しそうだ。 そもそもが、篤也とは出会いからして衝撃的だった。 放課後、帰り支度をして廊下を歩いていたら、 「おい、ドン亀」 と無礼に呼びかけるヤツがいる。 どこのどいつだ?と眉をひそめ、声の主を振り返ったら、鶴巻篤也が立っていた。 篤也は学年の女子人気No1の「王子様」だ。校内のヒエラルキーでは、底辺のオタク女子、明日香にとっては、雲の上の人、入学から卒業まで一語たりとも、言葉をかわすことなく過ごすはずの相手だった。 その「王子様」が互いの鼻と鼻がぶつかりそうな程の近距離で、微笑している。彼の笑顔が眩しい。眩しすぎる。 「な、なんですか?」 恐る恐る訊く明日香に発せられた、篤也の次の言葉は、彼女をますます困惑させるものだった。 「お前、オレのオンナにしてやるよ」 「え?」 頭の中が真っ白になった。自分が学園スターと交際? 事態が把握できない。反射的に身を翻し、篤也との距離をとろうとする明日香。 が、篤也の右腕がそれを阻むべく動いた。バッ! 腕は明日香の行く手を遮り、掌は明日香の背後の壁に叩きつけられる。ドン! ――こ、これが巷で話題の「壁ドン」! まさか自分が当事者になるとは思いもしなかった。 篤也は明日香の気持ちなど、まるきりお構いなしで、薄ら笑みを浮かべたまま、明日香の外見を吟味するように、眺め回す。すごくいい匂いがした。 「でも――」 と篤也は明日香のメガネを指で弾き、 「コレはいらねー」 と言った。 「それと――」 と底辺オタク女子である明日香のリーサルウェポンとでもいうべき長い黒髪を鷲掴み、グイ、と引っ張って、 「コレもいらねー」 明日香はヘビに睨まれたカエルのように、硬直し、声すら出せずにいた。 「内山田有紀みたいに短く切れ」 「王子様」の御命令が下った。 「じゃあ、三日後。オレのオンナに相応しい外見になって、ここに来い」 それからのことはよくおぼえていない。家路につき、帰宅して、夕食をとって、入浴したが、頭の中は篤也のことで容量オーバーしそうで・・・普通の男子でも寄り付かない自分が学園スターのカノジョになんて・・・あんまりといえばあんまりな恋愛の神様の悪戯に、どうにも実感がわかない。 とりあえず長年愛用していたメガネをやめ、滅多に使わずにいたコンタクトに変えた。 でも断髪は、断髪だけは、勘弁して欲しかった。 「内山田有紀みたいに短く」と篤也は言う。 内山田有紀は現在売り出し中のアイドルだ。最近では珍しく「ショートヘアー=ボーイッシュ」という概念を復権させ、そのユニセックスなキャラや雰囲気で、男女双方から支持を集め、人気急上昇中だ。 内山田有紀のCMがテレビで流れるたび見入ってしまう。特に髪型を注視する。 そして、毎回、 ――アタシにはこんな短い髪型、無理! 無理だよォ〜! という結論に至る。 約束の三日が経ったが、明日香は髪を切らなかった。いや、切れなかった。 しかし、「王子様」の恋人の座は惜しい。いつしか、篤也に想いを寄せつつある自分もいる。 でも髪は切りたくない。 結局、メガネはやめるが、ロングヘアーは継続する、という折衷案でお目こぼししてもらおう、ダメで元々、とあの廊下へ行った。 篤也は待っていた。 長い髪のままの明日香にちょっと顔色を曇らせたが、それについては何も言わなかった。折衷案は受け容れられた、と明日香は理解し安堵した。 ここから二人の関係はスタートした。 デートをした。キスを交わした。それ以上のこともした。 明日香は美しく逞しい篤也にゾッコン夢中になり、彼との恋にどんどんのめりこんでいった。 「王子様」のワガママに応えるのも、むしろ悦びだった。 毎日が新鮮な楽しみに満ちあふれていた。 篤也は自動車の運転免許をとるべく、教習所に通っていた。 第一段階をクリアーした、仮免を取れた、路上教習に出た、と逐一明日香に経過を報告していた。 そして、きまって、 「免許取れたら、ドライブしような」 と言ってくれた。 「うん!」 明日香は篤也とドライブする日を心待ちにしていた。篤也が早く免許を取れるよう、祈っていた。 ところが、待ちに待った初ドライブは、 床屋で髪をバッサリ という明日香にとって驚天動地のもの。 篤也は明日香の長い髪を許してくれたわけではなかったのだ。 「ゼッテー、髪切らすからな」 とまた言った。 「床屋には10時に予約入れてるからな」 ――嘘! 嘘! 嘘でしょッ?! しかも、 ――と、と、と、床屋ぁ〜?! 美容院ではないらしい。 明日香が目を白黒させている間にも、篤也は危なげのないドライビングテクニックで「目的地」に向け、車を飛ばす。 時速60キロで理髪台が迫ってくる。 ――イヤ、イヤ〜!! と身をよじるたび、シートベルトが、諦めろ、と言わんばかりに身体を押さえつけてくる。 車が停まった。 「オレがいつも髪を切ってる床屋だ」 と篤也が紹介する「床屋」は思ったよりずっとオシャレな印象だった。 外装はアメリカ西海岸にありそうなコテージ風で、実際店の名前もWest Coastというらしい。 「女の客も結構いるんだぜ」 と篤也は明日香の不安を和らげるように言う。 「さあ、入るぞ」 「ちょ、ちょっと! ア、アタシ、また心の準備ができて――」 「いいから来い」 篤也は明日香を引きずるようにして、店内に連れて行った。 店内も外観同様、モダンで清潔で落ち着いた感じ。観葉植物の鉢がところどころにあり、水槽には熱帯魚が泳いでいる。50年代のアメリカンポップスとおぼしき優美で軽やかな音楽が、BGMとして流れている。 「あら、アッちゃん、いらっしゃい」 待ってたわよ、といい具合に色落ちしたビンテージのジーンズ姿のきれいな女性(三十代くらい)が笑顔で迎える。篤也とはすっかり顔なじみのようだ。この人が本日カットを担当するらしい。 「ノッコさん、今日はコイツの髪を切って欲しいんだけど」 「まあ、カノジョなのね」 “ノッコさん”と篤也が呼ぶ女性に慈愛に満ちた目を向けられ、 「お、お願いします」 と意思に反して、つい一礼してしまう。 「バッサリ、サッパリやっちゃってくれよ〜」 と篤也はテンション高く、明日香をノッコさんに引き渡す。 その際、 「いいな?」 と明日香に耳打ちした。 「“内山田有紀みたいにして下さい”って言うんだぞ」 ゴクリ、と明日香の喉が鳴る。もはや、待ったなし、だ。頭がクラクラする。 「さあ、こっちに座って」 とずっと年上の理髪師に導かれ、明日香はへたり込むように、カット台に腰をおろした。足がガクガク震えていた。 「今日はカットね?」 優しく確認され、 「は、はい・・・」 声まで震えてしまう。 「どれぐらい切る?」 「あ・・・あの・・・えっと・・・」 口ごもる明日香。 鏡越しに篤也と目が合う。さっさとしろ、と促すように、篤也はアゴをしゃくる。 「う・・・内山田有紀みたいに・・・し、して下さい」 篤也に命じられた通りにオーダーした。 「え〜! あんなふうに短くするのォ?」 ノッコさんは驚いていたが、ハタと何かに気づいた様子で、 「もしかして彼氏のご所望ってわけね」 「そ、そうです」 明日香は点頭した。 「はは〜ん」 ノッコさんは悪戯っぽい目つきになった。篤也を振り返り、 「とうとう見つけたのね」 「まあね」 と篤也は少し照れくさそうに笑った。 そんな二人のやりとりの意味は明日香にはわからなかった。読み解こうとする心の余裕もない。何しろ20分前には予想だにできなかった流れに、アップアップと溺れまくっているのだ。 けれど、漕ぎ寄せてきた救命ボートに懸命にしがみつき、かろうじて心を落ち着ける。そのボートには篤也が乗っている。篤也の色に染まろう。自己満足でロングヘアーをキープするより、愛する人の喜ぶ顔が見たい。土壇場で決心がついた。 「バッサリと切っちゃって下さい」 言い切った。言い切れた。 だけど、ノッコさんがピカピカ照りかえる大きなカット鋏を握ると、 ――うわ〜!! やっちゃうの?! ホントにやっちゃうの?! ベリショだよ?! いいの? いいの、明日香?! 自問自答せずにはいられない。 「じゃあ、切るね」 と言い、ノッコさんはまずは明日香の長い髪を、ザクザクと粗切りしていった。 バラリ、バラリ、と3〜40センチの髪が束になって雪崩れ落ち、ザザシャア、と身体の傾斜に沿って流れ、バッ、バッ、バサッ、と床に散らばる。 「ああ〜」 と思わず嘆き声が口をついて出る。 しかし、もう遅い。 長い髪は次々と頭から撤去されていく。ジョキ、ジョキ、ジョキ――バサッ、バササッ―― プロのテクニックで、的確に迅速に明日香のロングヘアーは切り詰められていった。 短く、さらに短く。ジャキッ、ジャキッ! 粗切りを終え、ヘルメットみたいになった髪がブロッキングされる。これからが本番、内山田有紀のような――つまり少年っぽいベリーショートに髪が刈り揃えられていくのだ。 サイドの内側の髪が刈られる。ヘアクリップをはずすと、まだ長めの外側の髪が、バラッと耳に覆いかぶさる。それもカットした内側の髪に合わせ、短く短く切り落とされる。両耳がクッキリと露わに出た。 前髪も目が隠れるくらいあったのが、まず横に、ジョキジョキ、ジョキジョキ、と眉毛が見えるくらいのパッツンに切り揃えられ、続いて縦に鋏が入れられた。オデコが覗くほどの長さに縮められた。 ひと刈りごとに自分が篤也好みの女に近づいていく。そう考えるとくすぐったい嬉しさがあった。その嬉しさは被虐趣味的な悦びを伴っていた。 なのに、当の「王子様」は待合席のソファーでスマホをいじっている。ゲームに熱中しているご様子。時折、目をあげ、断髪の進行を確認して、 「お〜、随分切ったな〜」 と気のないコメントを差し挟む程度。 ――なによ、その態度! 誰のために、こうして髪を切ってると思ってるのよ、と苦情のひとつも言いたくなる。篤也との仲をより深めるための断髪式なのだ。ちゃんと見守って欲しい。 挙句には、 「ノッコさん、ちょっとトイレ借りるよ」 ションベン、ションベン、と席を立ってしまうし。 ――もォ、勝手なヤツ! むくれる明日香に、 「照れてるのよ、アッちゃんは」 とノッコさんはとりなし顔で言う。 「照れてる? 篤也が? まさか〜、筋金入りの超自己チュー男ですよ、あんなの」 「でも好きなんでしょ?」 「・・・・・・」 明日香は黙った。確かに惚れた弱み、自己中でもデリカシーがなくても、そばにいたい。 「アッちゃんね、昔からこの店で髪をカットしてるんだけどね――」 ノッコさんが語りはじめる。 「その頃からずっと言ってたわ、“オレがずっと付き合いたいと思う恋人ができたら、この店でベリーショートにさせるから”って」 「えっ?」 意外な事実を聞かされ、明日香は目を見開く。 「アッちゃん、モテるから、これまで何人もの女の子と付き合ってたみたいだけど、誰一人としてこの店に連れてくることはなかった。アナタが初めてよ」 「そ、そうなんですか!」 ――ようやく見つけたのね ――まあね という篤也とノッコさんの会話の意味がわかった。 「アッちゃんは本気でアナタと、いつまでもずっと付き合っていきたいと思ってるのよ」 ノッコさんは含み笑い、 「だから、この店に連れてきた。そして、アナタに髪を短く切らせたのよ。まっ、本人は百叩きにされたって、このこと、白状しないだろうけどね」 明日香の頬に赤みがさす。 ――篤也・・・アタシとのこと・・・真剣に考えてくれてたんだ・・・。 心が浮き立つ。胸が躍る。高鳴る心臓の音が店中に響き渡ってしまいそう。 トイレから戻ってきた篤也が、 「髪型だけは内山田有紀っぽくなってきてるじゃん」 と憎まれ口をきいても、 「ひど〜い!」 抗議するが、顔がほころんでしまう。 「何ヘラヘラしてんだよ?」 「別にぃ〜」 襟足が刈り上げられる。 チャッチャッチャッチャッと鋏がリズミカルに鳴り、うなじから後頭部にかけ、下から上へ、また下から上へと遡って、後ろの髪をビッシリと刈り詰めていく。 バリカンで仕上げられた。 ツールバッグにカット鋏をおさめたノッコさんが何かを握っていて、てっきり空調のリモコンかなと思い込んでいたら、 ビイィィィン とモーター音が鳴り渡った。 ――え? え? それって、それって、もしかして? もしかして? と考える間も与えられず、ジャアアァア〜、と小型のバリカンが勢いよく後頭部まで滑り上がった。 明日香はすっかり狼狽して、 「ちょ、ちょっと、ノッコさん! 今使ってるのって、もしかして?!」 「あら、バリカンは初めて?」 ノッコさんはケロリとした顔で訊く。 「は、初めてでふ」 思わず噛んでしまった。それくらい明日香は動揺していた。 「じゃあ、貴重な経験ね」 あっけらかんと流された。 明日香は生きた心地もなくバリカンのバイブレーションに耐えた。鏡にうつる自分の顔は、番組の企画でゲテモノ料理を食べさせられる女芸人のように歪みに歪んでいる。 まさか家を出るときには、一時間後、冷たいバリカンの刃が自分の頭にあてられるなんて、まったく、全然、1ミリたりとも思わなかった。 ノッコさんは執拗に(と明日香の感覚では思える)、バリカンをうなじにあて、ジョリジョリと襟足を刈り込んでいく。 ジャアァァア ジャジャアァアァァ ――ひいいいぃぃ!! バリカンでのカットが早く終わって欲しい、と念ずる。 しかしモーター音はなかなか鳴り止まない。 バリカンは明日香の毛を無慈悲に摘みとっていく。 ジャァァアア〜 ジャァァァアァ〜 ようやくバリカンの音が消えた。 「後ろ、こんな感じだけどOK?」 とノッコさんが合わせ鏡で確認してくる。 見事に刈りあげられた後頭部が目に飛び込んできて、 ――うぎゃあ〜! OKじゃないよっ! とムンクの叫び状態に陥るが、でも、 「はい」 力をこめ、うなずく。 ――これが篤也の好みなのなら・・・。 潔く、前向きに諦める。 最後に全体の髪が梳かれ、ボリュームがおさえられる。 入店時には頭を飾り立てていた髪は、半分以上も床に這い散っていた。 それらの落髪が、もはや無用とばかりに、バサバサとフロアブラシで掃き払われていくのには、悲しみがこみあげてきたが、シャンプーしてドライヤーで短い髪がスタイリングされていく頃には、心も晴れ晴れとして、 ――これで―― 本当の本当に「篤也のオンナ」になれたのだ、という感慨があった。 篤也は相変わらず仏頂面でスマホを操作しているが、ベリショになった恋人が気になって仕方ないらしく、チラ、チラ、と眩しげに明日香を盗み見ていた。 篤也と店を出る。 「これでようやくオレの趣味に適う女になったな」 と篤也はすっかりご満悦で、 「このジョリジョリ感がたまらねー」 と明日香の刈りたての襟足を撫でてくる。 撫でられて、明日香は、 「う〜、こんなに刈り上げられちゃって、チョー恥ずいよォ〜」 頬を真っ赤に染め、首をすくめる。 「内山田有紀は三日に一度バリカン入れてるらしいぞ。雑誌のインタビューで言ってた」 「何よ、内山田有紀、内山田有紀、って! そんなに内山田有紀が好きなら、内山田有紀と付き合いなよ」 と明日香がふくれてみせると、 「いやだね」 篤也は首を振った。 「オレは内山田有紀より明日香の方が好きだからな」 「えっ!」 明日香はずっと俯き気味だった顔をあげた。 胸が、きゅん、と鳴った。 頭の中、チャペルの鐘が鳴り渡る。 「篤也・・・」 「なんたって――」 篤也はニヤリと笑い、 「オレはブス専だからな」 「またそんなイジワル言って。張り倒すよ!」 「お〜、怖っ。明日香、髪切ったら強気になったな」 「これからはアタシが篤也を尻に敷いてやるから、覚悟しなさい」 「敷かれ甲斐のある尻だこと」 サワサワ 「ちょっと、どこ触ってんのよ、このドスケベ!」 「さて、では、これから海までドライブすっか」 そう、ドライブはまだ始まったばかりなのだ。明日香は目を細める。 「いいね〜。で、帰りはラブホでご休憩〜、みたいな?」 「明日香、意外に肉食系なのな」 「ふふふふ、女の子は皆、肉食系なのさっ」 「どんなデータだよ」 「総理府調べ」 「総理府、どんだけ暇なんだよ」 「ムフフ」 こんな他愛のない会話の一語一語が、かけがえのない宝物のように思える。いつまでも一緒にいたい。そう思う。そう願う。そう祈る。 そして、この恋の主導権はいつしか「王子様」から「お姫様」へと、移行しつつある。 ――離さないからね、篤也。なんたって、アタシはドン亀なんかじゃなくて、スッポンなんだから。うふふ♪ びゅう、風が吹く。 短い髪が風になびくに任せる。 (了) あとがき ずっと書いてみたかった作品です。自作にはあまり登場しない「俺様キャラ」「オラオラ系」の男の子、書いてみました。あと壁ドンも書きたかった(笑) 最初はオラオラ系男子に告られて(?)、返事をする日までに髪を切る、そんなヒロインの断髪に至るまでの心の揺れ、葛藤を書いていくつもりだったんですが、まだるっこしくなって、一旦下書きを破棄して、いきなり核心部分からはじまる展開にリライトしました。 書きあげてみて、とても好きな作品です♪ 最後までお付き合い下さり感謝感謝です!! ・・・と、このあとがきを書いたのが一年以上前(汗)発表に漕ぎ着けられて、ほんと、よかった〜(*^-^*) どうか、今後とも懲役七〇〇年をよろしくお願いいたします♪♪ |