魔法少女フェブラリー・マイミー後日談 |
八か月に及んだ第四次魔界王位継承大戦は、ついに終結した。 友情や裏切り、駆け引き、権謀術数、極限の愛、自己犠牲、骨肉の宿命劇、が繰り広げられた熱くも凄愴な戦いだった。戦いの詳細はまた別の機会に譲ろう。 ともあれ、勝利したのは、現代日本から召喚された魔女少女フェブラリー・マイミーこと如月舞美(きさらぎ・まいみ)12歳の味方するシャル王太子派だった。 勝利の凱歌を聞きながら、 ――これで終わったんだ・・・。 舞美は心の底から安堵した。 人生を二度三度と繰り返しても得られないほどの経験。骨にまで刻まれるように受けた数々のトラウマ。失ったもの。奪ったもの。愛したこと。愛されたこと。憎んだこと。憎まれたこと。 それらを思い返しては、改めて、八か月の重みに目がくらみそうになる。 ――でも―― 舞美は顔をあげる。 これで、もう、自由になれるのだ。 これで、また、ごく普通の人間の女の子に戻れるのだ。 舞美の目は輝きだす。 教室に入る。 「おっはよ〜!」 いつもの快活な笑顔で挨拶する。 「あ、舞美ちゃん、おはよう」 「舞美ってば、いつもながら元気だねえ」 親友のエッちゃんとリッちゃんが笑顔を返してくれる。 「何の話してたの?」 「ああ、もうすぐ小学校も卒業でしょ? だから皆で最後にどこか遊びに行こうかって話してたの」 「いいね、いいね〜、その話乗った!」 「やっぱりネズミの遊園地かなあ」 「うわ〜、テンションあがるぅ〜!」 三人が盛り上がっているところへ、 「りゃああ!」 ガキ大将の木崎がいきなりスカートをめくってきやがった。 「コラッ、木崎! もうすぐ中学生だっていうのに、スカートめくりなんて、子供か!」 「そっちこそ、もうすぐ中学生なのに、クマさんパンツかよ。へへ〜ん」 「コイツ〜、待てっ、木崎!」 「お〜、怖っ、クマさんパンツが怒った〜」 二人の追いかけっこに、 「やれやれ、またいつもの夫婦喧嘩ですか〜」 エッちゃんとリッちゃんは苦笑する。 「夫婦じゃない!」 と舞美と木崎の返事は綺麗にハモる。 「ホ〜ホッホッ!」 日頃から舞美を何かとライバル視してきた桐生マーガレットが突然現れ、 「如月さん、ワタクシ、決めましたわ」 「マ、マーガレットちゃん、決めたって何を?」 追いかけっこを中断して舞美が訊く。 「ワタクシ、貴女と同じ中学に行きますわ」 「ええ〜?!」 一同驚愕。 「マーガレットちゃん、それホント?」 とエッちゃん。 「ええ、勿論、中学で貴女(舞美)とワタクシ、どちらが真のミス松永町か、いや、ミス地球か、白黒つけて差し上げますわ。ホ〜ッホッホッ!」 「イヤイヤ、そういうのアタシ、全然どうでもいいし」 「あら、お逃げあそばすのね。そうはいかなくってよ、ホッホッホッ!」 高笑いするマーガレットに、 「やれやれ、おとなしく私立行ってよ・・・」 げんなりする舞美。 「あの〜、そろそろHRはじめたいんだけどぉ〜、皆席について下さい〜・・・あの〜ちょっと・・・」 担任の鏡先生は相変わらず影が薄い。 教室は今日も賑やかだ。 「はぁ〜・・・」 なんて、ため息を吐きながらも、 ――ようやく取り戻せた・・・。 かけがえのない、アリキタリだけど平和で小さな幸せでいっぱいの毎日。 舞美は目を閉じ、胸に手をあてる。 ――さようなら、魔界のみんな。アタシは元気だよ。もう会うことはないだろうけど・・・お互いもっともっと幸せになろうね! 春の風が不意に舞い込む。温かくて心地よい風が。 魔法少女フェブラリー・マイミー、完 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 「なんてことですの?」 ここは某理髪店――南松永北中学校(ややこしいな)の「学校指定」の床屋だ。 桐生マーガレットは虚ろな表情で鏡と向かい合っている。 南松永北中学ではこの平成の御世に、男子は丸刈り、女子はオカッパという規則が厳然と存在している。 しかも、男女とも「学校指定の理髪店」で髪を切らねばならない。 地元中学への進学を決めたマーガレットも、本日その通過儀礼を受けることに。 大財閥桐生グループの令嬢で、その名前が示す通り、日本人とイギリス人とのハーフであるマーガレットは、これまで母譲りのブロンドのロングヘアーを縦ロールにしていた。 しかし、当然地元中学の校則に抵触する。 なわけで、その髪にハサミを入れる必要に迫られた! 「フフフ、いいザマね、桐生」 舞美は意地の悪い笑みを浮かべ、マーガレットの断髪を見物している。背後で、エッちゃんやリッちゃんも、ニタニタ笑いながら立っている。三人ともすでに長い髪に別れを告げ、いかにも床屋で切りましたといわんばかりのお椀のようなオカッパになっている。 「舞美サン、桐生の忌々しいパツキンが切り落とされるのを目にできるなんて、胸熱っすね」 エッちゃんが揉み手をしながら、舞美に話しかける。 「そうね」 「舞美サン、桐生のあの怯えた顔、見て下さいよ、愉快愉快、へっへっへっ」 言いながらリッちゃんはデジカメでマーガレットを撮影している。 「ちょっとォ! 貴女たち、小学校卒業してから、キャラも関係性もドス黒くなってませんこと?!」 「クックックッ、これが“お姉ちゃん”になるってことなのさ」 「なんてことですの・・・」 マーガレットは目眩をおぼえる。 初めて入った床屋の男性整髪料の芬芬たる匂い。初めて座った床屋の椅子の硬さ。初めて接した床屋のオバチャンの無愛想ぶり。お嬢様育ちのマーガレットにとって、全てがカルチャーショックだ。 「桐生、てっきりオマエの親の権力と財力でオカッパ校則を撤廃させるんじゃないかと思って、ウチら期待してたんだけどなぁ」 ガッカリだよ、と肩をすくめる元・仲良し三人組、現・如月軍団。 「ワタクシもこんな理不尽なルール、お父様に一言頼めば鼻紙同然と思ってましたわ」 と深いため息を吐くマーガレット。 本来「質実剛健」を旨とするマーガレットの父は、地元中に通うという娘の意思にいたく感激し、 「これも人生勉強だ。庶民の子供たちの間で揉まれて、逞しく成長しなさい」 と厳しい顔で言い渡した。お小遣いも五十分の一に大減額され、身の回りのことも、全部自分でやらなければならなくなった。 ――あら? あら? 思いがけぬ展開に、マーガレットはただただ困惑する。 オカッパ校則についても、 「パパ、オカッパ頭なんて絶対イヤよッ! パパの力で中学校に校則を変えさせるなり、ワタクシだけ特例で免除させるなりして頂戴!」 と目に涙をためて、何度も哀願したが、父は頑として、 「郷に入っては郷に従え、というだろう。他の子たちも皆やっていることだ。お前も同じようにしなさい。それもお前を成長させる糧となるのだ」 と耳を貸さなかった。 そして、子供の頃からマーガレットの髪を美しく整えてきたお抱えのヘアスタイリストに、暇を出してしまった。 「これからは毎月“学校指定の理髪店”に通うように」 と。 「そ、そんな・・・」 あまりの我が身の変転に、マーガレットは呆然となる。 「イヤですわ! 髪を切るなんて絶対イヤ! オカッパなんて死んでもイヤですわッ!」 と激しく抵抗した。 「お前が決めたことだろう」 素直にお嬢様学校であるビビアン女学院に進学すればよかった、とマーガレットは臍を噛んだが、もはや後の祭り、だ。 抵抗も虚しく、ほどなく、マーガレットは年季の入った革張りの椅子に、身を委ねていた。 ――なんてことなの・・・。 頭を抱えたくなる。 鏡の向こうには、金髪ロングを縦ロールにした良家のお嬢様。 しかし、数十分後にはこの地域に、オカッパの「お姉ちゃん」がまた一人増えるのだ。 「それじゃ、切るよ」 と理髪師のオバチャンは霧吹きで、マーガレットの髪を湿しはじめる。これまで幾多の「お姉ちゃん」を製造してきた彼女にとって、桐生グループの令嬢で美少女のマーガレットもただのションベン臭い小娘に過ぎない。むしろ「子供」の癖に色気づいている感じが、女理髪師の癇に障った様子。 「さあ、短く切って、サッパリしようね」 と言うと、カット鋏をとって、縦ロールの髪に容赦なく入れはじめた。ザクザクと。 「オバチャン、うんと短くしてあげてねぇ〜」 と舞美が背後からオーダーする。 「“お仕置きカット”でお願いするッス」 とエッちゃんが言う通称“お仕置きカット”とは、やたら色気づいた娘、あれこれうるさく注文をつけてくる娘、生意気な娘、不良っぽい娘、断髪することに腰がひけまくっている潔くない娘などに対し、オバチャンが「学校指定」の錦の御旗を掲げ、行使する、「短い・ダサい・恥ずかしい」の三拍子揃った昭和前期風のオカッパカットだ。 「言われなくても、そうするわよ。こういう娘はバッサリと短く切って、北中生の自覚をしっかり持たせなくちゃならないからね」 ――えええ〜ッ?! マーガレットは青くなる。 「ちょっ、ちょっとお待ちあそばせ!」 しかし、オバチャンはザクザクと鋏を切りすすめていった。 バサバサ、とブロンドの髪が落下する。縦ロールの美髪は、オバチャンに土足で踏みにじられる。 サイドの髪はエラの辺りで揃えられた。耳が半分出るくらいに。 ――ウソッ! ウソでしょおおぉぉッ! 今まではお抱えのヘアスタイリストが、 「マーガレットお嬢様、いつもながら美しい御髪(おぐし)で羨ましいですわ」 と賛辞を呈しながら、チョコチョコと髪をデザインしてくれていた。 「ミラノでは、今こういうアレンジが流行っているんですのよ」 とセットしてくれたりして、 「どうもしっくりきませんわね」 とマーガレットが眉を寄せると、 「お気に召しませんでしたか? 申し訳ありませんっ! では、いつものように致しますわね」 と奴婢のようにかしずいていたものだ。 それが、床屋で、薄緑色のユニフォームを着たオバチャン理髪師によって、オカッパ(しかも“お仕置きカット”!)にされている。 後ろの髪もサイドの髪の長さに合わせ、切り落とされる。ジャキジャキジャキ。 「ああ、胸がすく思いだわね」 とオバチャンは嬉しそうに髪をはさんでいく。 「桐生、カワイイ〜」 と舞美たちも囃す。 マーガレットは唇を噛んで、屈辱に耐える。 しかし、 ジャキジャキジャキ、ジャキジャキジャキ コームが襟足を引っ掻くように遡り、鋏の冷たさがうなじから後頭部へと何度も伝うにつれ、 ――もしかして―― マーガレットの背筋が凍りつく。 ――刈り上げられていますのっっ?! ようやく気づいた頃には、首筋が寒かった。 オバチャンはさらにコームと鋏を使い、襟足の刈り上げに余念がない。バラバラと短い髪がネックシャッターに降り積もる。 そして、カット台の引き出しをあけ、取り出したのは、 ――ば・・・ば・・・ば・・・ バリカンだった! 業務用の大きなやつ。 ――ちょっと、ちょっと、ちょっとォ!! サァーッと全身の肌が粟立つ。お嬢様のマーガレットはバリカンなど、現物を目にするのも初めてだ。まして、それが自分の頭部にあてられるなど、考えただけで卒倒しそうになる。 「出た、バリカン!」 「待ってました!」 「やっぱり“お仕置きカット”にはこれがなくちゃ始まんないッスね!」 如月軍団は色めきたち、ハシャいでいる。 「ちょ・・・ちょっと! お待ちになって!」 マーガレットは狼狽して叫んだが、オバチャンは完全無視。バリカンのスイッチを入れた。 ヴィイイィィイィン バリカンがけたたましく唸り始める。 ――ウソおおぉぉ〜?! バリカンの音はどんどん近づいてくる。 そうして、ついに、 ジャ と襟足に突き込まれた。刃がマーガレットのうなじを舐める。そのまま、上へと押し進められる。 ジャリジャリジャリ〜〜 「きゃあ!」 マーガレットは思わず悲鳴をあげた。 「いいリアクションだねえ」 「芸人に向いてるんじゃね?」 舞美たちはゲラゲラ笑っている。 ヴイイィイィィイン 二度目のバリカンが入る。 ジャリジャリジャリ〜〜 冷たい感触が後頭部を走り抜ける。 「ぐっ」 マーガレットは顔を歪め、それでも歯を食いしばり悲鳴を押し殺した。 またバリカン。 ヴィイイイィイィィン ジャリジャリジャリ〜〜〜 盆の窪のずっと上、後頭部の半分近くも刈り上げられた。頭髪はタワシの如くビッシリと、バリカンで刈り整えられている。 ここで、ちょっと一ヶ月前のマーガレットを振り返ってみよう。 マーガレットは南の島にある桐生家の別荘に遊びに行き、避寒の日々を楽しんでいた。 浜辺でビーチパラソルの下、トロピカルジュースを口に運びながら、 「津川、この水着、ちょっと派手じゃないかしら?」 「よくお似合いでございます」 イケメン執事の津川は微笑をたたえ、答えた。 「肌の露出も多いし・・・」 「アダルトな雰囲気で、よろしゅうございますかと」 「恥ずかしいわ」 「ここは桐生家のプライベートビーチですので、お嬢様が人目を憚ることはございませんよ」 「だって――」 マーガレットは頬をほんのり染め、 「津川がいるじゃない」 「はっ?」 「津川にこんなあられもない姿を見られては、ワタクシ、恥ずかしくてよ」 若くて美男の執事に媚態をつくってみせる。 「お戯れを」 「あら、戯れではなくってよ。津川のいやらしい視線を感じて、ワタクシ、このまま南国の日差しに溶けてしまいたい気分ですわ。ああ、この身体の火照り、津川が責任をもって、何とかしてくれるのではなくて?」 「お嬢様、津川を困らせないで下さい」 「ウフフ、津川の困った顔、もっと見たいですわ」 と含み笑うマーガレットのブロンドのロングヘアーを、温かい風が、フワリ、と宙に舞い上げた。 そんな「恋の駆け引き」を楽しんでいた身が、一ヵ月後、男臭い床屋で、業務用のバリカンで、 ヴィイイイィイィン ジャリジャリジャリ〜〜 みるみる後頭部を刈り上げられていた。 バリカンの音がやむ。 ホッとしたのも束の間、またコームと鋏で、刈り上げ部分をチャキチャキ、チャッチャッと調整される。 ――なんてこと・・・なんてことなの! 気が遠くなる。 最後に前髪が切られた。 ジョキジョキ、ジョキジョキ、 眉にかかる髪が切り落とされる。両眉が露に出る。 バラバラと落っこちる前髪に、マーガレットは目をつぶる。 ミジメな気持ちだった。 気づけば、ハラハラと涙が流れていた。ずっと堪えていたのに。 「桐生泣いてるぅ〜」 「超カッコ悪っ」 と如月軍団はますます囃したてる。 「桐生、これが“お姉ちゃん”になるっていうことだよ。貴重な体験、ありがた〜く噛みしめな」 「うっ・・・うっ・・・」 切られた前髪が涙で濡れた顔にくっつく。 オバチャンはもっと切る。 眉上3センチのところで、パッツンに揃える。ジョキジョキ、ジョキ。 鏡の向こうには無惨な髪型にされた自分がいる。泣いている。胸が痛い。痛すぎる。 しかも全てのカットが終わって、如月軍団が、 「金髪だと先生や不良に目をつけられる」 と言い出し、言い立て、オバサンも同意見で、 「無料サービスだよ」 と恩に着せられながら、髪を黒く染められた。 今は遠く離れて暮らしているイギリス人の母から受け継いだブロンドの髪。マーガレットは、 「染めないで!」 と懇願したが、周囲は許さず、押さえつけるようにして、ブロンドヘアーにアルカリ性酸化染毛剤を塗りたくり、黒髪に染めてしまった。 サイドは耳半分が出るくらい。バックは青々とした刈り上げ。前髪はおでこが見えるほど、一直線に切り詰められている。そして、カラスのような黒髪。 どこからどう見ても映画やドラマなどに登場する昔の田舎の少女だ。 マーガレットはそんな鏡の中の現実を、直視することができず、目を伏せている。 「桐生、“なんで蛍すぐ死んでしまうん?”って言ってよ〜ww」 と舞美がからかった。 「・・・・・・」 マーガレットは俯き、口惜しそうに唇を歪めた。ハーフの美人お嬢様の面影など、どこを探しても見当たらなかった。 「髪を切るトコ、全部録画したからね」 とリッちゃん。 「後で男子たちにも見せてやりましょうよ、舞美サン」 「チョーウケるね」 そう言い合いながら、舞美たちは床屋を後にした。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 床屋を出たところで、 「舞美」 懐かしい声がした。 「あっ、ルゥ!」 魔界での戦いを共にくぐり抜けてきた妖精だった。 「どうしたんスか、舞美サン?」 「ちょっと、野暮用がね、オマエら先行ってていいよ」 と手下たちを追い払う。 「舞美」 ルゥは痛ましそうな顔で、 「髪切ったんだね」 オカッパ頭の舞美をしげしげと仰いだ。 「そんなことより、ルゥ、どうしてまた人間界に?」 声をひそめ、ルゥの不意の出現の訳を訊ねた。 「戦争は終わったはずでしょう?」 「また始まったんだ」 第五次魔界王位継承大戦が勃発したという。 「ええ〜?!」 目を見開いて驚く舞美に、ルゥは説明する。 「シャル殿下の王位継承に不満を持つ一部の不穏分子が、先の大戦の敵方の残党と結託して、シャル殿下の庶兄、ジル様を擁立して、叛乱を起こしたんだ」 「束の間の平和すぎるでしょっ!」 舞美は頭を抱える。 「舞美、ボクと一緒に来て! フェブラリー・マイミーとしてまた一緒に戦って! シャル殿下のために! 魔界の、ひいては地球のために!」 ルゥは懸命に訴える。 「そんな、急に言われても・・・シャルや地球を助けたいのは山々だけどさ〜」 「お願い!」 「ん〜」 「舞美!」 「わかったよ」 こうなったら乗りかかった船だものね、と舞美は覚悟を決めた。 「さあ、この魔法のラジオで魔法少女に変身だよ!」 魔法のラジオから軽快なピアノの音とオジサンの声が聞こえてくる。 『魔女っ子体操第一! 腕を前からあげて大きく正義のポーズ! はい、1、2、3――』 「懐かしいなあ」 と言いながら、舞美はラジオの呪文に従い、変身しようとするが、 「あれ?」 何度試みても魔法少女になれない。 「どうして? どうして?」 「どうしてだろう?」 ルゥも首をひねっていたが、 「魔法少女に変身できるのは、ピュアなハートを持った女の子だけなんだけど・・・舞美、もしかして――」 「ギクリ」 「やっぱり・・・」 ルゥは額をおさえる。 「道理で再会したときから、ダークなオーラを感じてたんだよなぁ」 「『“お姉ちゃん”になった』と言って欲しいねえ」 「わかったよ。舞美、今までありがとう。ごねんね、また戦火に巻き込みかけちゃって。ボクは今度こそもう君の前に現れることはないだろう」 「どうするの?」 「新しい魔法少女候補を探すよ。ピュアなハートを持った女の子をね」 「そう、残念だね」 舞美は内心の嬉しさを押し隠し、さみしそうな顔をつくって、うなずいた。 「じゃあね、舞美」 ルゥは舞美に背を向けると、二枚の羽をひろげ、彼方へと飛び去っていった。 「サヨナラ、ルゥ」 舞美は旧友の姿が見えなくなるまで、空を仰ぎ見送った。 そして、 ――汚れるのも悪くないね。 ホッと安堵の胸を撫で下ろした。 桐生マーガレットのことなど、すでに忘れていた。 (了) あとがき ずっと頭の中にあった妄想を書いてみました。 小学校卒業でEndになるアニメって結構多いけど、その後、放映されないところで、ヒロインたちには断髪が待ち受けてたりして、という妄想が以前からあって、今回それを小説にしました。 この頃では珍しくプロット(=イラスト)なし、下書きなしで、直接ワープロうちしました。かなり好きなお話です♪ 最近めっきり増えている「入学オカッパ」モノです。 「入学オカッパ」モノ、結構需要があるようで、楽しく書かせて頂いております。しかし「新生」「鬼太郎」今回のマーガレット、と、このところオカッパになる少女、あまり幸せになっていないなあ(汗) あと断髪現場にカメラが入るパターンも多い。。。 今回のアップ作品では、女性理髪師を多めにしてみました! 何故か意地悪な理髪師が多いな。。 今後、女性理髪師の登場、増やしていきたいです! 最後までお読み下さり感謝です♪ |