はつこい |
太郎さんの小説です ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ (上) @@保育園。 1人の子が親のお迎えを待っていた。 「智也くん、お迎え遅くなるみたいだし、先生と遊んで待ってよっか?」 「美希しぇんしぇいの髪、ちょきちょきして遊びたい。」 「散髪ごっこ?」 「ふぅん。」 大きくうなずいた青木智也6歳。 「ちょっと待っててね。」 少しして戻った美希と呼ばれる保育士は、新人保育士の柴田美希23歳。職員室に置いてあったであろう百円均一の透明な毛染めケープを首元に巻いて戻ってきた。部屋の隅にある保育士用の机の椅子をガラガラと持ってきて座る美希。 「はい。智也くん、ちょきちょきして。」 「しぇんしぇい、どんなふうにするぅ?」 「ちょっとだけ切って揃えて下さい。」 「わかったぁ。ちょきちょき、ちょきちょき」 と声を出して、手を鋏に見立てて美希のあご下のショートボブの髪を切る真似を背伸びしながら繰り返しする智也。美希の髪を左右に動きながら何度も何度も切る真似をして遊んでいた。 遊んでいると短いもので、時間にして15分ぐらいで智也の親が車で夫婦で迎えにやってきた。 「いつも遅くなってすいません。」 謝りながら入ってきた智也の母親。 「先生。その格好。」(笑) 「智也くんが、散髪ごっこしたいとおっしゃったので。」 「そうなんですか。申し訳ありません。」 「また散髪屋さんしようね智也くん。」 「うん。バイバイ。」 そんな日が何日かあり、毎回、智也にせびられて飽きもせず、散髪ごっこしていた美希。佐藤理恵という子が残る日には、理恵のポニーテールも巻き込まれて、智也の手鋏散髪ごっこの餌食になっていた。 卒園式の近づいたある日、美希と智也は、いつものように散髪ごっこして遊んだ。美希の髪は肩にギリギリつくまでに伸びていた。 「智也くんは、将来何になりたい?」 「パパみたいなさんぱつやさん。ママはかんごしさんだよ。」(^^)ニタッ。 「智也くんのパパ、理容師さんだもんね。」 「バリカンでブィーンするのがかっこいいの」(笑) 「へぇ。もし、将来、智也くんが散髪屋さんになったら先生の髪の毛切ってもらおうかな?」 「いいよぉ!」 こんな冗談とも本気とも取れない話もしながら遊んでいたら、智也の両親がいつものように揃って迎えに来たので、いつものように帰した。 卒園式も無事に終わり、園児を見送る際に、 「みきせんせいのかみ、またきらせてね。バイバイ。」 と手を振られて、他の園児も見送り、保育士1年目の生徒達の卒園を見送り終えた。 あれから20年の月日が流れたある日。美希は副園長になっていた。佐藤理恵は4年目の保育士として、卒園した保育園に戻って勤務していた。 2月末の月曜日の夕方6時半過ぎ、1人の男性が車で保育園の敷地を訪ねてきた。 美希と理恵以外の他の保育士は園児が全員帰っていたのでいなかった。 「こんばんは。」 職員室へと男性は紙袋を2つ下げて現れた。 「園児、みんな帰りましたよ。」 理恵が応対している。 「いえ。先生方にちょっと用事があって。」 「えっ?」 少し臆して応対していると、奥のトイレから美希が出てきた。男性の顔を見るなり、 「智也くん?青木智也くんでしょ?大きくなってぇぇ。」 「えっ、智也くん。」 「そう。昔、教室で毎回飽きもせずに散髪ごっこしてた智也です。」 「うわあ、懐かしい。大きくなったねえ。」 中学まで理恵と小学校と同じだったが、父方の祖父の理容室を父親が継ぐことになって田舎に高校で引っ越し、母親は田舎のクリニックに勤務先を変えたりしたのもあって、理恵は智也の顔も忘れてしまい、音信不通になってしまっていた。 「理容学校卒業して、実家の店で働こうと思ったら外に修行に出されて、こっちの店で働いてたら美希先生が旦那さんと買い物してるの見かけて、たまたま散髪をうちの店に旦那さんと、お子さんが来られてるのがわかって、昨日、旦那さんの髪を切ってる時に、まだ保育士されてること聞いちゃいました。」 「うわぁ。縁て何処で繋がってるかわからないものね?」 理恵が、 「智也くん、わかる?」 「佐藤だろ?」 「下の名前は?」 「理恵。」 「正解。よく出来ました。」(笑) 「まさか、あの佐藤が保育士とはねぇ。」(笑) 「笑うことないでしょ。」(怒)プンッ。 「今日は何しに来たの?」 美希が聞いた。 「えぇーとっ、理容師として一人前になって3年経ったし、4月から実家の店を親が手伝えって言うし、腕に自信が出来たから美希先生と約束した散髪しに来たんだけど。」 照れ臭そうに言う智也。理恵が口を挟む。 「私の髪も切ってくれない?」 「ついでだから良いよ。」 「ついでって、何よ?昔、私も切らせてあげたのに。」(笑)(笑)(笑) 3人で笑った。 「教え子に髪を切られるのも悪くないかもね?」 美希と理恵は顔を見合わせて更に笑った。 「私も幼馴染みに髪を切ってもらおうっと。」 しばしの沈黙、美希が口をついた。 「職員室で髪を切るわけにいかないわよね。机とか邪魔だし。」 「ですね。」 美希の言葉に理恵も同調する。 「昔みたいに教室は?」 智也の提案に同調し、職員室隣の3歳児教室の鍵を開けて3人で入った。 「切らせてあげるんだから、タダよね?」 理恵の言葉。 「休みだし、タダで切るよ。」 漫才のような智也と理恵の掛け合いに微笑ましく美希は笑っていた。 (中) 「私と理恵先生、どちらから智也くんに髪の毛切ってもらおうかしらね?」 教え子に髪を切ってもらう体験も良いかも?という気持ちの美希ではあるが、急な出来事過ぎて、不安な気持ちも出てきており、理恵と顔を見合わせて教室に入って突っ立っていた。 カラカラカラ・・・ 智也だけが率先して、2人の保育士の髪を切る気満々で行動的である。教室の片隅の保育士用の机の椅子を昔、散髪ごっこしていた時のように勝手に引き出してきた始末である。 紙袋から鋏が5丁、髪をそぐ剃刀に、コームが3本入ったシザーケースを机に並べている智也。さらに充電式バリカンやドライヤー、ベビーパウダーまでも。 白いナイロンの袖があるクロスや、薄いピンクのこれまたナイロンのケープという道具一式が並んでいく。 「ちょっと待ってて下さいね。」 準備を楽しそうにしていた智也は、霧吹きを持って出ていった。 「智也くん、なんか楽しそうにしてましたね。鬼の居ぬ間にジャンケンで決めましょっか?」 理恵の提案。 「そうねぇ。」 「最初はグー、じゃんけんぽん。」 美希が勝った。 「あとにしようかな。」 「私の切った髪型が変だったり、智也くんの腕前が悪かったら美希先生逃げるつもりでしょ。美希先生ずるぅい。」 「副園長先生でしょ。」 「すいません。」(笑) 智也が戻ってきた。 「どっちから髪を切るか決まった?。誰が鬼(怒)だって。2人とも刈り上げワカメちゃんになりたいのかなぁ?」 「ごめんなさい。ワカメちゃんはやめてぇ。」 理恵から詫びが入り、美希からも謝るような仕草があったので、許した智也。 「理恵先生からお願いするわ。」 美希の返答。 「了解で・すっ。」 袋から胸に青木と名札の付いた白いケーシー白衣を取り出して、黒のダウンコートを脱ぎ、Gパンに白いシャツになった上に上着だけ半袖の白衣を羽織ってボタンを手際よく幾つか留めて促した。 「理恵、すわれよ。」 「理容師に髪を切ってもらうの初めてで恐い気持ちもあるんだし、お店で切ってるんじゃないし、鏡も無いからって、変な髪にしたら智也くんを2人で押さえ付けて坊主にするからね!」 椅子の背もたれにもたれつつも、最低限の反発である。しかしながら、こうして座れば、まな板の鯉になるしかない。 理恵はピンクのトレーニングウェアの上下に、中はハイネックのヒートテックを着ていた。 タオルを巻く為にトレーニングウェアとヒートテックの襟を折られ、後ろから黄色のタオルを首にかけられ、白いカットクロスを手際よく拡げて腕を通すように言われ、巻かれた。さらにピンクのしわ加工がされているケープを巻かれ、黒髪ポニーテールをほどかれる理恵。 「クロス2枚って暑そう。」 美希からのチャチャが入る中、ゴムで簡単に束ねただけの髪をほどかれ、コームで鎖骨までの髪を梳かれる理恵。 「どれぐらい切る?」 「恐い気持ちもあるけど、高畑光希みたいにして。ワカメちゃんじゃないからね!青い刈り上げじゃなく、長めの刈り上げでお願い。」 「青くしない、おかっぱ風で、良いんだよな?」 「うん。お願い。いっぺんバリカンの刈り上げて体験してみたかったの。」 「理恵先生、顔小さいから似合いそうね。」 「でしょぉ。」(笑) 「えぇっ、だって散髪ごっこしてた保育園の頃から髪を切ってもらうの楽しかったし、バリカンも経験したかったし、夢が幼馴染みに切ってもらって2つも一度に叶うんだよ。嬉しいじゃん。」 「変なやつぅ。」(笑) 「美希先生の髪を切る約束してたからって、子供を預けてる訳でもないのに突然髪を切らせてって、訪ねて来る方が変だよ。ストーカーみたい。」 「そうよねぇ(笑)。でも、理恵先生、バリカンで刈り上げなんて勇気あるわねぇ!?私はバリカンや刈り上げは遠慮するわ。」 理恵の言葉や、美希に同調され、理恵が称賛される様子に言い返せず、作業を進める智也。 無言のまま、ジャキジャキと右サイドの髪を軽く持ち上げ、持ち上げ理恵の髪を手際よくも乱雑に切りはじめていった。 背後へ、左へと次々に回り込み、手際よく肩より上の長さにバサバサと、切り落としていった。 「鏡ないから不あぁん。丁寧に切ってよね!!」 「うるさい。プロに任せとけって。」 「いきなりバッサリ切られちゃったわね理恵先生。色白の顔がひきつってるわよ。笑顔。笑顔。」 児童用の椅子を出して、いつしか座って前屈みになって理恵のヘアカットを見ている美希からの言葉が飛び込んでくるが、理恵としては、髪が切られてクロスに落ちてくる量の多さと、剃刀やバリカンの音に驚いて、おとなしくなっていた。 霧吹きでシュッシュッ、シュッシュッと髪をビッショリと濡らされ、無言で胸ポケットに刺さっていた数本のダッカールピンでブロッキングをされ、持ってきていた個別包装の不織布マスクを出して装着した智也。エンジンを駆けていく。 「後ろ軽くバリカンで刈り上げるけど動くなよ。危ないから。」 「うん。青くしないでね。」 「おぉう。」 シュイィン、ジョリジョリジョリ、カラカラカラ… シュイィン、ジョリジョリジョリ、カラカラカラ… バリカンの音が教室に何度も往復するたびに響き唸っている。美希が散髪の様子を見つめている中、目をつぶって姿勢よく首を少し刈りやすいよう曲げている理恵のうなじをバリカンは繰り返し襲撃している。 数分を10分以上に感じるほどに・・・。 バリカンが止まると、智也は右側にやってきてブロッキングされたサイドの髪の内側にジョリジョリと今度は髪を剃刀で手際よく削いで刈り込んでいく。左も同じように削がれる髪。ブロッキングを外されてたかと思うと、智也に背後に立たれて下を向かされ、ベビーパウダーをふられて後ろ髪にコームが通っては、チョキチョキとバリカンの刈り上げを更に整えるように鋏で切り刈り上げられていく理恵。 「頼んだものの恐くなってきたぁ。」 「今頃後悔してるのかよ?」 「そうよねぇ。理恵先生が頼んだのよ。」(笑) 鋏を持ち替え、右のブロッキングを崩して毛先を梳き鋏で中の髪にかぶせるようにすいている最中に目を開けた理恵は実情を把握しようとするが、黒髪の落ちてくる量に不安になる。左も同じように梳き鋏ですかれた。ケープの肩から胸、床は切った髪で真っ黒になっているが、鏡が無いので不安いっぱいの理恵。 「前髪も切っとくな。」 「おでこ丸出しは恥ずかしいから、前髪切るのはやめてぇえ。」 時すでに遅く、背後から手を伸ばされた智也によって持ち上げられた前髪をジョキジョキと横髪を切ってた梳き鋏と持ち替えて手際よく切られた。目を閉じるしかなかった。 「終わったぞ。」 「うん。」 「理恵先生、かわいい。顔ちいさいのが更に小さく見えるわよ。」 ネックシャッターとケープを外し、紙袋から取り出した両手に取手の付いたおぼんみたいな一枚鏡を渡され、背後から折り畳みの大きな鏡で刈り上げの確認をさせられる。 「意外と似合ってる?前髪は眉毛ラインできちんと残ってるぅ(苦笑)。」 「俺の腕が良いからな。」 「自分で言うかぁ?。モデルが良いのよ。」(笑) 理恵の突っ込みが入ったが、うなじの後れ毛を軽く産毛剃りの電動剃刀を当てて剃ってやり、ドライヤーで髪を乾かしてやった。 「おつかれさま。」 「ありがとう。緊張と2枚のクロスを被せられてて、汗かいちゃった。」 クロスとタオルを外されて理恵の散髪が終わった。 髪型は、うなじを耳下まで軽く刈り上げたおかっぱ風な重めのショートボブに仕上げられていた。小さな顔が映えるように。 (下) 理恵が立ちあがり、刈り上げをジョリジョリと触ってなでている。 「これ刈り上げ何ミリぐらいなの?」 「バリカンで7ミリにしたけど・・・。」 「うわぁあ。刈り上げやっちゃったぁ。ジョリジョリするぅ。」 「うるせぇ。理恵がリクエストしたんだから文句言うなよ。」 「文句じゃないよ。触った感想だもん!(笑)」 理恵と智也による教え子の漫才のような掛け合いを見て微笑みながら、智也と散髪ごっこしてた日々を走馬灯のように教室を見回しながら思い出し、立ち上がった美希。 「髪切って帰るから遅くなるって、旦那に電話して良いかな智也くん?。理恵先生、ホント勇気あるわよねぇ。」 「はい。良いですよ。連絡しとかないと心配されますもんね美希先生。」 スマホで旦那の蒼太に連絡した美希。 「もしもし、教え子が突然訪ねてきて、今から髪の毛切って帰る事になったから遅くなるし、蒼太。健太と先に御飯食べといてくれない?」 「青木智也くんに散髪してもらうんだろ。短くしてもらうように言ってあるし、綺麗にしてもらえよ。」 「来てる教え子の名前なんか言ってないし、今の様子が何でわかるの?それに短くって。」 「昨日、智也くんの勤務先に散髪行った時に健太と、美希の髪を切りたいこと聞いてたし、誕生日なんだけど当番で遅くなるの教えたの俺だしさ、美希の髪をサプライズで保育園に切りに行っても構わないか?と聞かれたから、構わないと言っておいたから、遅くなっても待ってるよ。」 「わかったわ。智也くんに髪の毛切ってもらって、綺麗にしてもらうわね。短くするかは私の髪だし、相談して決めるわよ。」 スマホを切って、旦那も公認なら覚悟を決めるしかないと思うも、長い髪を切る不安もあり、後悔しなくない気持ちもある美希。なやんだが、 「連絡済みましたか?」 「少し断りたい気持ちもあるけど、髪の毛切ってもらうしかなくなっちゃった。私の誕生日だから腕を精一杯ふるってね。旦那には短い髪を期待されてるみたいだし、綺麗にしてもらえなんて言われちゃった。普段そんな事一言も言わないんだよあの人。まさか、旦那、息子にも許可済みで私の髪を切りに来るなんて用意周到過ぎよ智也くん。 髪を切る覚悟を外堀を埋められてさせられるなんて、思わなかったわよ。手回し、根回しされてたら、断れないじゃない(苦笑)」 「理恵の髪が落ちたままだけど、どうぞ。」 「理恵って、呼び捨てにするな。美希先生、智也とラブラブゥ。」 「副園長先生でしょ(怒)」 「刈り上げ、今からでも青くするぞ!」 美希の座ってた椅子に交代で座った理恵から茶化す言葉が飛んでくるが、2人にうまく切り返され、 「ごめんなさぁい。」 理恵は謝るしかなかった。 保育園時代、智也を片想いの初恋相手だった理恵にとって、智也の美希に対する振る舞いの違いは複雑な気持ちもあった。 椅子の背もたれに寄っ掛かるように胸を張って座った美希は、上は黒の無地のトレーナーに青のトレーニングハンツ姿である。新しい黄色のタオルを出して首に巻かれ、理恵に巻いていたクロスに、ケープを重ねて手際よく巻きつけた。 「さっきも聞いたけど、なんで2枚も巻かれるの?」 「首苦しくないですか?」 「大丈夫よ。」 「なんで2枚も?って、私も思った。」 理恵の声も飛んでくる。 「1枚だと首から髪が入ったりすることもありますし、袖から出てる手に切った髪が付いても困りますから用心して2枚重ねてます。暑いでしょうけど我慢して下さいね。」 「へえぇ。」 女性2人の声か揃い、理由に何故か納得させられる。 「私、寒がりだから、クロス2枚巻かれても温かい感じで大丈夫よ。逆に好きかも(笑)。昔、散髪ごっこして遊んでた智也くんに髪を切ってもらう事になるなんて、大きくなったんだなぁ!?て、感慨深い気持ちよ。」 美希の三つ編みにしてお団子にまとめている髪をほどくと、理恵より髪は長く胸下ロングの少し茶色い髪だった。 「美希先生、どれくらい切りますか?」 「どのくらいが似合うと智也くんは思う?でも、バリカン刈り上げの髪型は勘弁ね!!」 「先生と散髪ごっこしてた頃のボブとかどうですか?。旦那さんに美希先生の髪を短くしても良いか聞いたら、息子さんと声を揃えて一度髪の短い先生も見てみたいとか、おっしゃってましたよ。」 「ここ10年以上、肩より短くしたことないし、旦那と付き合ってた頃はミディアムボブで、息子にはロングの姿しか見せていないかな?。旦那に加えて、中学2年生の反抗期の息子にまで根回しされてたら、髪の毛短くしてもらうしかないじゃないのよぉ!」 提案したのは、広瀬すず風の顎下より長めの肩との間の長さで丸みがある襟足を刈り上げないボブ。 少し迷っていた美希だが、 「せっかくだから、智也くんのおまかせで切ってくれる?。刈り上げは絶対にしないでね。」 「わかりました。バリカン、刈り上げはNGですね。でも、いきなり肩ぐらいでバッサリいって大丈夫ですか?」 「バッサリ切るの久しぶり過ぎて本当に恐いけど、荒切りは仕方ないし、お願い、します。」 「束ねて切る前にコーム通しておきますね。」 「はい。」 美希の髪をコームで毛先から惜しむように、美希の恐怖心が静まるように全体を10分ほどかけてとかした後に、肩口ラインで1つに黒いゴムで束ねた。 「覚悟はできましたか?切りますね。」 「は、は、はい。」 「私と扱い違いすぎぃ。」 ざんばらに最初髪を切られた理恵の反発を受ける中、一番刃先の大きな鋏を持ち上げ、美希の背後に立って髪に鋏を近づけ力を込めていく。 ジョ、キ、ジョ、キ、ジョ、キ・・・。 と、切りにくそうな音が何度も教室にそれだけが響き、理恵も息を飲んで見つめている。美希は惜しむように切り終わるのを目をつぶって軽く身震いしながら待っていた。 ジョ、ジョキン・・・。 音と共に、急に頭も肩も軽くなった美希は目を開け、目をキョロキョロするが数分前にあった髪はなく、束ねて切られた髪は早くも机に乗っていた。 ミディアムボブになったボブの襟元に白のネックエプロンを巻かれ、霧吹きで濡らした髪をダッカールピンでブロッキングされて、中を理恵のカットと同じように剃刀で右側から顎下で直線的に束感があるようにジョリジョリと削がれて、膝元へと力なく落ちてくる髪を真っ直ぐ前を見ながらも目で追いかける美希。 後ろ、左へと智也の動くたびに理恵や美希の切り落とした髪を踏むのでサクッサクッ、キュッキュッと音がして美希の恐怖心を再び誘発した。 ブロッキングを崩され、先より長めの位置で幅広?隙間の広い梳き鋏と表現した方がやかりやすいだろうか?、サクッサクッと切れ味よく右側から削がれていく髪。 左へと回り前から見ながら右側に長さを合わせるように切り詰めてられていき、後ろ髪も同じように切り詰められた。 「美希先生の髪、量多いから梳いておきますね。」 「おねがい、し、ます。」 いつしか保育士と生徒の関係から施術者と客の立場になっていた。 梳き鋏を取り替えて、髪を持ち上げ、持ち上げ、右サイドから回り込みながら全体的に中の髪を削いでいく智也。 ケープは理恵の時と同じように真っ黒になって、髪が貯まっている。 「先生、前髪はどうしますか?」 「眉下ぐらいで揃えといてくれる。」 「扱いホント違うよね!」 理恵の言葉が飛んでくる。 無言で剃刀を持って智也が立つと、美希は呼応するように目を閉じた。 サクッサクッ、サクッサクッ・・・。 と手際よく切られ、ドライヤーを当てながら手ブラシで髪を乾かされた。 襟元のネックエプロンと、ケープを外され、鏡を渡されて確認すると広瀬すず風の内側に丸みを帯びたショートボブに切られていた。若い頃より少しふくよかになっている美希が若く見えるよう切られていた。 「うわぁ。顔小さく見えるように、やせて見えるようにしてくれたんだ。かわいい。ありがとう。43に見えなくなった?(笑)」 と喜んでくれた。 切った髪を3人で掃除し、保育園で捨てる訳にいかないので、智也が店に寄ってゴミ箱に捨てた。美希の束ねて切った髪は家族に見せた後は家宝にすると言い、美希が持ち帰る事になった。 教室から出ると、おもむろにハッピバースデートゥーユを美希に唄う智也。理恵も重唱して唄った。美希の誕生日である事は、旦那さんに聞いていた智也である。 「先生、ヘアカットのプレゼントはどうだった?。俺の片想いの初恋、美希先生だったんだよ。」 「ビックリしかなかったわよ。むしろ、嬉しいサプライズね。まさか教え子に髪を切ってもらって、まさかの告白なんて、サプライズだらけで思い出に残る誕生日になったわ。ありがとう智也くん。」(笑) 保育園の片付け、戸締まりを済ませて夜8時半、3人は家路についた。 美希は、旦那と息子に若返ったと連呼されながら、誕生日会を帰宅後にしてもらったのは言うまでもない。 翌朝、美希と理恵の変貌した髪型に同僚や園児には驚きまくられたのだが、かわいいの連呼、嵐であり、同僚には、切ってくれた人を紹介して欲しいと言われたが2人だけの秘密にした。 その後、理恵は智也が初恋の相手だと告白して彼女になり、美希の家族は3人で智也の実家に通ってくるようになり、4人の散髪は智也がしている。 理恵の散髪中、横で客の頭を刈っていた智也の父親に坊主好きを伝えたところ智也が坊主にその夜、浮気防止を理由に理恵によって店で父親の指導を受けながら丸められ、父親に智也は頭を剃られてしまった。 チーン。 おわり あとがき 書いて読み返してると、加筆で大変長い文章となってしまいましたが、お読み下さった方には感謝申し上げます。 年度末の卒業、保育園教師、幼馴染みへの初恋を絡め、散髪風景を表現でできるだけ解りやすいように力を込めて断髪妄想を文章化してみました。 恋愛相手やパートナーに髪を切られる、恋愛相手やパートナーの髪を切る、あなたならどちらを希望されますか?という意味も遠回しですが込めてみました。いかがでしたでしょうか? スキンシップの一貫として、パートナーと散髪ごっこ、散髪してみませんか? |